第65話 LIAR GIRL
「あらあらまあまあ、皆さんもっと食べてくださいね。いっぱいありますからねー」
小金井公園の屋外修練場で模擬戦を終えた後、剛の家に招かれた3人は剛の母親の手料理――お好み焼きだったのだが――を満喫……と言うより、既に満腹になっていた。
「ふぅー……剛の母ちゃんのご飯、マジでうめぇや」
翔は座卓の一辺に座った状態で腹を押さえながら氷水を飲んでいた。隣の一辺では行儀悪く奈緒が苦しーと言いながら寝転がっている。
「いつも学食で4人で食べてるけど、お家で食べるご飯はまた違うものですね」
二人とは異なり、座卓に行儀よく正座している希美が言うと、剛は希美の顔を眺めながら微笑んで頷く。
「ところでこの後どーする?小金井公園以外、この辺じゃあまり見て回るところないけど」
翔が言うのも納得である。今は午後1時を過ぎたあたりで、まだ時間はたっぷり残っていが、学園都市であり住宅街である小金井市にはあまり名所旧跡と言う物は存在していない。
だからと言ってもう一度小金井公園に戻って模擬戦やるかと言われたら、そう言う雰囲気でも無いのが実情であった。
「そうだな……だったら吉祥寺に行ってみないか?夏向きの服も少し買いたいし」
剛がそう言うと希美は少し考えてから答える。
「吉祥寺……良いかもしれませんね。お店見て回るだけでも気分転換になりますし」
特に反対する意見も出なかったので、4人は剛の家を後にしてJR中央線快速で吉祥寺駅に向かうのであった。
吉祥寺駅に到着すると4人は北口に出る。駅ナカや南口側にも店舗は豊富にあるのだが、吉祥寺と言えばサンロードと剛は考えていた。
吉祥寺サンロード商店街はロータリー西側から少し入った所を起点とした、約300mのアーケードが続く商店街となっている。北西に向かう途中に左手に伸びる元町通りなどに曲がると趣が変わる店も見受けられ、散策するには良い感じの場所と言える。
アーケードに入ってすぐにあるチェーンのピザ屋に奈緒が入ろうとするのを翔に首根っこ掴まれて引き戻されたり、ショッピングモールになっているビルで小物などを眺めたり、様々な店を回って剛はTシャツ2枚、翔は襟付き半袖シャツ1枚、奈緒はボトル入りスライム3色――翔から何に使う気だよ、と突っ込まれながら――を買った後、アーケードも終わりに近い場所に在るイートインができるドーナツ屋に入った。
それぞれ好みのドーナツ1個とドリンクを注文し、4人は向かい合わせの席に座る。
「結局希美は何も買わなかったんだ?」
奈緒が言うと希美は少し苦笑気味に答える。
「うーん、色々見たけど買いたいって思う程の物は無かったかな」
「いやコイツみたいに意味分からん物買う奴もいるけどな」
そんな3人の会話に、ふーん、と言う顔をしていた剛であったが、ふと思い立つ。
「この後少し戻ったところに行きたいけど良いかな?」
サンロードとしてはもうすぐ終わりまで行きつくため、3人は特に依存もなく剛の提案に同意するのであった。
(確か……この辺だったはず……)
剛は本町新道に面したショッピングビルに入り、目的の場所に向かう。
「剛、ここさっき通った場所じゃね?」
翔に言われると剛は頷いて先に進み、上の階に昇るエスカレーターに乗り込む。
「うん、気になる物があったからもう一度見ておこうと思って」
何かあったか?と翔は思いながら剛の後をついて行き、希美と奈緒も翔の後を追うように歩みを進める。
「え?ここ?」
翔が疑問を口にしたように、剛が足を止めたのはどちらかと言うと若い女性向けのファッション雑貨の店。
ぱっと見、剛が必要な物が置いてあるようには思えなかった。
「ああ、ちょっと待っててくれ」
そう言うと剛は店内に入って行き、目的の物がある場所で商品を幾つか手に取って見比べて、その内の一つを持ってレジに向かい会計を済ませる。
「お待たせ」
購入した商品を片手に収まる程の紙袋に入れてもらい、剛は紙袋片手に店内から出て来た。
「何だ、それ?めぐみんへのお土産か?」
顎に手を当てて不思議そうに眺める翔。その翔の疑問に剛は首を振って答える。
「いや、これは姉ちゃんじゃないよ……希美、これ受け取ってくれるかな?」
剛は希美に向き直ると、手にした紙袋を希美に差し出す。
「私に……?何で、これを……?」
「いつも希美には模擬戦なんかで世話になってるからね。おかげで1年で俺らかなり上達した実感があるんだよ。お礼代わりに貰って欲しい」
剛は照れ臭そうにしながらも希美を真っ直ぐ見据えて疑問に答える。
希美は恐る恐る紙袋を手にして見詰め、徐に剛の顔を見遣る。
「……開けてもいいかしら……?」
「どうぞ」
希美が紙袋を開けて中身を取り出すと、赤と青の二色で彩られたシュシュであった。
「……これは……?」
先程以上に照れ臭そうな剛は希美の顔を直視する事が出来ず、頭を掻いて斜め下に目線を落として答える。
「希美の黒髪に、赤と青。個性の色と同じで、希美に合うかと思って……」
そんな子供っぽい――と言ってもまだ中学2年生なのだが――剛の様子に可笑しみを感じた希美はクスっと笑う。
「ありがとう。大切に使わせてもらうわ」
「希美んみんばっかりずるーーい!翔るんるん!あたしにも何か買ってよーー!」
「お前はそこの店のチュロスでも買って食ってろ!」
あ、始まったな……と思った剛と希美は顔を見合わせ、お互いふっと笑い合う。
「この後はどうするの?」
隣にいる希美が剛に尋ねる。
剛は希美に笑顔を崩さず、次に何をするか応える。
「大通りの方回って、駅に戻ろう」
吉祥寺大通り――剛にとっては100回以上見た場所である。
(丁度来年……1日前、か。この通りに妖魔が溢れ、希美が戦い、天道を捕らえる……今度は俺も希美と一緒に戦うが、どうなるのか……)
繰り返し見て来た希美による天道の捕縛劇。いくら希美と言えどトーフで2年程対妖魔の訓練を受けただけで、天道を倒す事は当然叶わず、辛うじて捕らえる事が出来たに過ぎない。
だが、今回は元々いた奈緒に加え、剛と翔もいる。
(いっその事、来年の吉祥寺で天道を討ち倒す事が出来れば……いや、トーフ生は簡易特技士だから妖魔は討伐できても修羅を倒す事は……)
歩きながら思考の淵に沈んでいた剛に対して、横に歩く希美が不意に声を掛けて来た。
「ふふっ……剛にこんなセンスがあったなんてね」
希美の方を見ると、あげたシュシュを左手の、親指を除く4本の指に通していた。
「これを貰ったと言う事は……プロポーズされたってことね?」
満面の笑みを浮かべた希美に、剛はその表情と言葉の両方にドキッとさせられ、慌てた様子で希美に言葉を返す。
「い、いや。プロポーズは今じゃなくて……て、そうじゃなくって、ほら、アレだ。その……」
本気で焦っている様子の剛を見た希美は吹き出し、今まで見せた事が無い声を出して笑う様子を見せる。
「剛、今日って何月何日かしら?」
そう言われて剛は今日が何月何日か改めて思い返す。
「今日は……4月1日……あっ?!」
その事実に気付いた様子の剛の顔を見て、希美は両手で顔を覆ってクスクスと笑い出す。
エイプリルフールと言う希美っぽく無いジョークで揶揄われて笑われている事に剛は、憮然とも釈然としないとも違う複雑な表情で希美の顔を覗く。
そんな表情の剛に対して、希美は悪戯っぽい笑顔を浮かべてこう言うのであった。
「今じゃない、なら、いつになるか、期待して待ってますね」
第65話 『LIAR GIRL』 BOØWY




