第64話 風が走る道
3学期も剛達4人は放課後に格技室に集まり、模擬戦や特技訓練を行っていると、気が付くと3月も終わりになろうとしていた。
前世まででは剛が希美と初めて会ったあの日――吉祥寺の厄災まで後1年となる3月31日、月曜日であるその日は模擬戦のために4人で第9格技室に集まっていた。
(後1年、か……待てよ?希美達はその日はロッカーがまだ空いてなかったから特装を持ち帰ったって言ってたが、今年作って貰っていたらどうなるんだ……?)
剛達4人は新学期が始まってから特装を製作してもらう予定になっている。つまり、1年後の時点ではとっくに特装はできており、トーフのロッカーに格納されているはずである。
(井の頭公園に屋外修練場があるって希美が言ってたから、そこで修練を行うと言う名目で特装を持ち出し……2年生でできるのか……?)
何度目かの模擬戦を終えた時に、希美が剛、翔、奈緒の3人に話し掛けて来た。
「明日ですが、元々何かをやる予定は無いのですけど、屋外修練場で特技含めた訓練をやりませんか?」
その言葉に剛と翔は考え込む。剛は前世までに屋外での修練も、妖魔との実戦も経験をしているので問題はないと考えていたが、翔は前世の記憶が無いため屋外修練場で訓練を行った事がなく、知識としては理解していても具体的にどう言う場所なのか知らなかった。
そして剛としては先程まで懸念していた事と重なるため、渡りに船とばかりに頷く。
「俺は構わないよ。でも武器はどうする?模擬戦用の木剣とかを格技室から借りていくのか?」
剛の言葉に希美は軽く首を振って答える。
「修練場の倉庫に模擬戦用の武器は大体揃ってるわ。ポールアックスは……ちょっと有るか分からないけど」
(それなら自作のアレ持って行けばいいかな……)
そう思い、剛は場所の提案を行う。
「なら、俺は自分で作った木製のがもう一つあるから、小金井公園の修練場でいいかな?流石に木製とは言え、2m超える得物を持って電車に乗るのも気が引けるし」
「あ、今使ってる使ってるソレか。自宅にもう一個あるならその方が良いかもしれないな」
翔は木製のハルバードを眺めて同意する。その様子を見た希美はそれならと小金井公園での実施に賛成し、奈緒は何故かハンマーを使ってゴルフのパッティングの真似事をしていた。
「じゃあ、昼ご飯は母さんに何か作って貰うように頼んでおくから、ウチで食べるようにしようか」
翌日朝9時前、JR武蔵小金井駅――
昨年のクリスマスイブに剛が希美と待ち合わせをしたロッカー前で、剛と翔が希美と奈緒を待っていた。
やがて改札から出て来た希美が剛と翔を見付け、近寄ってくる。
「剛、翔、おはようございます」
「やあ、おはよう」
「おはよーさん」
いつも通りと言うか、先に顔を合わせる3人に対して相変わらず遅れてくる奈緒と言う構図が出来上がる。
9時ちょうどになると、駅の南北通路の南側から奈緒が――何故かしょんぼりした様子で――姿を現した。
「……おはよー……」
「おはようございます。奈緒、何かあったの?」
心配そうに希美が尋ねると、奈緒は泣きそうな顔をして切実に訴え始めた。
「だってー!ここ歩きながら食べられそうな物売って無いんだよーー!!」
その言葉を聞いた剛、翔、希美は回れ右をしてバス停の方に歩き出す。
9時7分発の西武バスに乗り込んだ4人だが、奈緒がぐちぐちと不満を言い続けていた。
「食べ物は無いし、みんなはあたし置いてくし、もーやだやだやだ!」
「バスの中だから静かにしろや」
翔が睨みながら小声で指摘すると、声のトーンを落としながらもぶちぶち独り言のように奈緒は愚痴を言い続けていた。
(まあ、桜を見て何か食べれば機嫌治るかな……)
小金井公園西口でバスを降り、信号があるT字路の横断歩道を渡って西口から小金井公園に入ると直ぐに、右手に満開の桜が見え始め、少し歩くと左手にも咲き誇る桜。
舗装された園内の遊歩道の左右には、黄色い花を咲かせた菜の花が彩を加える。
「こう……なるのね。想像以上に綺麗だわ……」
希美が感嘆するが、この場を良く知っている翔が自慢げに語る。
「ここも良いけど、この先行ったらもっと驚くぜ。ま、行ってみようか」
そう言って公園を西の端から中央に向かって歩みを進める。
3分も経たないうちに、希美も奈緒も翔の言葉が真実だったことを理解する。
木立の中の右手に四阿が見えてくると左手側は木々の先に淡い白に近い色が見え始める。更に進むと桜の木々が一度途切れて芝生の緑地があり、その先にも何十本もの桜が花化粧をしていた。
芝生の上では多くの人がブルーシートなどを広げて花見をしており、春休みとは言え平日とは思えない程の人が満開の桜を楽しんでいた。
「これは……壮観ね……」
見惚れている希美の横では奈緒がぽかーんと口を開けて呆けた顔をしていた。
「桜が見事なのは分かるけど、いつまでもここで突っ立ってる訳にはいかないから、取り敢えずそこの店で軽く何か食べてから行こうか。軽食っぽいの結構あるし」
剛がそう言うと奈緒は音を置き去りにするかのような速さでそば茶屋に突進し、その姿を剛と希美は苦笑しながら、翔は苦い顔をして、後からついて行くのであった。
「ここだな……結構木が多いんだな」
そば茶屋から10分程歩いた場所に、SUAD指定の屋外修練場は存在していた。
遊歩道から来る事を想定してかトイレと道を挟んだ反対側に倉庫があり、スライド式の扉を開けると様々な模擬戦用の武具が種類毎に整然と収納されていた。
希美は長剣、翔は細剣、奈緒はハンマーを取り出すが、やはりポールアックスは収納されておらず、剛は自宅から持ってきた自作のハルバードを収納袋から取り出す。
倉庫の扉を閉めて修練場の方に向かい、程良く木が疎らになっている場所を見付けると4人は立ち止まってそれぞれの得物を構える。
「全員、屋外は初めてだよね?先ずは足元に注意して、重心を意識して素振りや型稽古やってみようか」
剛の言葉に3人が頷くと距離を取り合って、足元の起伏などを意識しながら4人は素振りを始める。
15分程素振りや型稽古を行うと、剛が全員に声を掛けて模擬戦を開始する。
最初は剛と希美が行い、翔と奈緒は何かあった場合のサポートとして模擬戦の様子を見守る。
開始と同時に剛がハルバードの穂先を突き出すが、希美は長剣で軽く弾いて穂先を逸らして躱し、間合いを詰めて右袈裟に斬り付ける。
ハルバードの柄で希美の斬撃を弾くと反動を利用して斧頭で斬り付けるが、希美はバックステップで距離を取る事でハルバードは空を切る。
一旦離れた希美は右へ――剛の左側に素早く移動して真一文字に横薙ぎの一閃を繰り出すが、剛は希美の方に回転するように向きを変えてハルバードの柄で受け、回転の勢いのまま柄で右袈裟の打撃を加えるが、希美は懐に潜り込むように素早く近付いて突きを繰り出す。
1年間模擬戦を続けてた二人はお互いの手の内を熟知しており、その裏をかくべく次々と斬撃を、突きを、受けを繰り出すのであった。
続いて翔と奈緒が模擬戦を始めるが、こちらもお互い模擬戦を続けて来た相手のため、相手の癖は理解しており最初から激しい攻撃の手の応酬が繰り広げられた。
奈緒の大振りのハンマーの殴打に対して翔の細剣による細やかな突きや斬り付けで動きを牽制し、互角と言える戦いが続いて行く。
翔と奈緒の戦いが終わると、次は剛と翔、その次は希美と奈緒と相手を変えながら、2時間程模擬戦に没頭するのであった。
第64話 『風が走る道』 遊佐未森




