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Limitless  作者: 神 賢一
第一章 (RE)PLAY

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第6話 ダンシング・ヒーロー (Eat You Up)

 始業式から一か月が過ぎた、ゴールデンウィーク明けの5月。

 まだ午前8時にも関わらず、既に夏を思わせるような強い日差しと暑い気温の中、剛は中学校に向かっていた。

 校門が近づくにつれ、周りには同じ中学校に向かう生徒たちの姿が増えていく。


 校門前には剛の担任の先生が立っていた。

 30歳前後の男性教師で身長168cmの剛より少し背が高く、短く刈り上げた髪と黒縁眼鏡が真面目そうな印象である。

 朝とは言え暑くなってきたこの時期に、スリーピースのスーツをビシッと着こなし、背筋を伸ばして生徒たちに挨拶している。


「先生、おはようございます」

「おはよう。……神野か……何ニヤニヤしている」

 剛はこの先生のことが好きだった。色々あるのだが、何故か先生の顔を見ると笑顔になってしまう。

 かなり理屈っぽいところはあるが、理不尽で高圧的な態度を取ることは滅多になく、間違っていた場合は自らの過ちを認めることができる、見習うところが多い身近な大人、と言う印象であった。


「ボクは普段からこんな顔です」

 そう答えながらも、剛は無意識に顔を緩ませていた。

 先生はそんな剛の顔を少し睨むようないぶかしげな顔をするが、すぐに答える。

「……そうか。ならいい、行け」

「はい!」

 そう元気に返事をして、剛は校舎に向かって歩いて行った。


(そうか……中学校……じゃなくても、小学校でも良いから先生と言うのは良いかもしれないな……)

 将来の事――それこそ来年8月末以降の事――に不安どころではない、先が見えない剛は、ふと思いつく。

 もしあの日生き残る事が出来たら、高校から大学に進んで、その後は教鞭を執る――そんな未来を思い起こしていた。



 剛は学校と言う場所が結構好きである。

 同年代の色んな友人たちと接することが出来、また授業も興味深いことが多いので苦にはしていない。

 部活には入っていないが、昼休みや放課後に友人たちとサッカーやバスケットと言った体を動かすことや、逆に図書室で静かに読書を楽しんだりと、自宅とは違う時間の過ごし方もできる。


 そんな中でも剛が一番学校生活で好きなのが――給食の時間である。

 母親が作る料理も好きであったが、限られた予算で必要な栄養素を取得できるように考えられたメニューと言うのは組み合わせを含めて、剛はいつも楽しみにしている。

 中には予想すらできない組み合わせのメニューになる場合もあるのだが、それはそれでいかに美味しく食べられるかと言う工夫のし甲斐があると、剛は考えていた。


 そして剛は……いや、ほぼ全てのクラスの生徒は知っていた。

 先生も給食をとても楽しみにしているという事を。

 それはこの後――四時間目の授業が終われば、すぐに分かることだった。


 四時間目終了のチャイムが鳴り、授業を行っていた先生への礼を済ませると、給食時間の始まりである。

 その週の当番が給食着に着替え、配膳室に給食を取りに行く。

 その間残った生徒が座席を班ごとに配置換えして、配膳待ちの列を作るころになると担任の先生もクラスにやってきて列に並ぶ。


 今日の献立はコッペパンに牛乳、メインが白身魚のフライでサイドにコールスローサラダとコーンスープ。給食当番にトレーに並べてもらい、全員が席に着いたタイミングを見計らったかのように、校内放送のスピーカーから校歌が流れ始める。

(……小学校では無かったよな……他の中学校でも校歌流れるのかな……)

 そう思いながら剛が先生の方を見ると、教師卓で給食を前にした先生が首と両腕を振りながら校歌を歌い、おもむろに拳を握った手を掲げる。

(先生も、ホント給食好きなんだよなぁ)

 最初の頃は剛も他の生徒も戸惑いを見せた担任教師の給食を前にした行動であったが、一か月も経つと[いつもの]事となってくる。


 日直の掛け声で全員で「いただきます」をして食べ始める。

 周りのみんなは白身魚のフライにかぶり付いたり、コッペパンを手で千切って口に入れたり、パックの牛乳にストローを指すと一気飲みしたりしている。

 そんな中で剛は先割れスプーンを使ってコーンスープから手を付ける。


(あ、先生コールスローをフライに乗っけて食べてる……器用にマイ箸で食べるなぁ……)

 そんな先生を横目に、剛は右手に先割れスプーンを逆手に持ち、左手にコッペパンを持つと、縦に真ん中からザクザクとコッペパンをスプーンの柄で切り開いていく。

 半開きにしたコッペパンにコールスローサラダと白身魚のフライを挟むと、オリジナルの白身魚フライドッグの出来上がりである。

 その瞬間に先生と目が合うと、剛は出来上がった白身魚フライドッグを先生に向けて掲げる。

 先生は驚愕の表情で目を見開き、ブルブルと震えた後に絶望した様子で椅子に崩れ落ちる。

(良かった……先生、喜んでくれたみたいだ!)

 かなり的外れな感想を抱いた剛は自作の白身魚フライドッグに齧り付き、出来栄えを堪能する。

 牛乳を飲み終えた剛は、今日も給食を満喫して満足の表情を浮かべる。



 「ごちそうさま」の掛け声で給食を終えると、使った食器を籠に戻し、剛はクラスの友達と校庭で遊ぶために廊下に出た。

「神野」

 突然、担任の先生から呼び止められる。

「はい、何でしょうか?」

 剛は先生の方に振り向いて答える。

「その……あ、アレは……美味かった、のか……?」

 アレ……剛が即席で作ったオリジナルの白身魚フライドッグの事であろう。

「はい、美味しかったです。次は先生も是非やってみてください」

「う、うむ、そうか……機会があったらそうしよう……呼び止めて悪かったな、行っていいぞ」

「はい!失礼します!」

 そう言うと剛は急ぎ足で昇降口に向かって行く。


(やっぱり……やっぱり先生は凄いな。大人になると新しい事を中々受け入れられないって聞くけど、先生は違うんだよなぁ……)

 急ぎ足で歩きながらも剛は先ほどの先生とのやり取りを思い返し、どうしても顔がニヤけてしまう。

 そして次の機会に、どんな献立をどんな組み合わせにして、先生に喜んでもらおうか……そんな事を考えている剛であった。



(だって、先生は俺にとっての、同じ給食が好きっていう仲間……いや、ヒーローなんだから!!)



 剛がそんな事を思っているとはつゆ知らず、先生はいかに給食を美味しく食べるかと言う勝手に作り上げた勝負に敗北したと、打ちのめされた様子で椅子に座って項垂れるのであった……

第6話 『ダンシング・ヒーロー (Eat You Up)』 荻野目洋子

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