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Limitless  作者: 神 賢一
第四章 Spread Wings.

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第59話 here I am

 週が明けて月曜日――

 剛は夏休み前に決めた通り、9時に教室で集合するように中央線快速に乗ってトーフに向かう。

(あれ……ひょっとして、最寄り駅は丸ノ内線の西新宿駅だから、荻窪駅で乗り換えって申請通るんじゃないか……?)

 これまでは普通に……言い方を変えれば馬鹿正直にJR中央線快速一本で新宿駅まで電車で移動してから、徒歩で15分程掛けてトーフに向かっていた。

 それに比べて西新宿駅からなら、地下道で格技棟の真下まで4分程で到着するので、それから地上に上がって1分程でトーフの正門前に到着する。

 これが都立高や私立高に通うのであれば定期券代が上昇するので考えどころではあるが、対妖魔特設校の生徒は通学費用も国負担で、家の支出を心配する必要が無い。

(後で聞きに行ってみるか……)


 1年Aクラスの教室に集まった剛達4人は、格技棟に向かう前に学食に立ち寄る。

 今日の昼食――トーイチと同じく休暇期間は予約制の2種類の弁当になる――を注文しておかないと、先日の剛や希美みたいに外で食事を取る必要が出てくる。

 予約を済ませた4人は格技棟入口前の端末で珍しく空いていた第13格技室を予約してから向かう。

 第11から第16の格技室は個人戦や2対2くらいの模擬戦を行うに適した、他の格技室に比べるとかなり狭い部屋になっており、頑張って2組が同時に模擬戦できる程度の広さしか無かった。

 ただ、人目を気にせず訓練を行えるため、今の剛達にとっては――人目を引いて、周囲が訓練の手を止めないと言う意味で――都合が良い部屋だった。


 格技室に入った4人はいつも通り柔軟体操をそれぞれ行い、模擬戦用の武器を軽く振りながら感触を確かめてから模擬戦を開始する。

 今日は剛と翔、希美と奈緒がペアを組んだ2対2の模擬戦を行う事にした。

 剛と翔は作戦として、前衛を翔が務めて剛が後衛で支援するフォーメーションを組む。

 対する希美と奈緒は、奈緒を前衛に押し出してフォローを希美が行うフォーメーション。

(翔と奈緒はいつも模擬戦やってるから間合いとか太刀筋……奈緒はハンマーだから何て言うのか……は分かってるだろうから、希美がどうフォローするか、だな……)


 模擬戦が始まると、牽制しようとする翔を無視して奈緒がハンマーを全力で振り回す。慣れているのか翔はハンマーの軌道を見切ってかわし、いつもの細身の木剣で奈緒のがら空きの胴体を突きで狙う。

 希美が翔の突きを木剣で払い、その間に奈緒がハンマーを頭上から振り下ろそうとするが、剛がハンマーヘッドを斧頭で斬り払い、体勢を立て直した翔が剛と位置を交差させて希美の死角に回り込んで横一文字に斬り払うと、奈緒がハンマーの柄で受け止める。

 希美と相対する形になった剛が突きを繰り出すと、希美は反転して奈緒の後ろから逆にいる翔に左袈裟に斬り掛かり、その一閃を翔は受け流して逆に希美に右袈裟を繰り出すが、奈緒のハンマーヘッドで受け止められる。

 コンビネーションとしては剛と翔の方が上だが、希美が冷静に奈緒の隙を消しており、模擬戦は一進一退の攻防を繰り広げて行く……


 引き分けの形で模擬戦が終了すると、空調が効いている部屋にもかかわらず4人とも額から汗を流していた。

 剛は額の汗を右手で拭うと冷えたスポーツドリンクを口にして一息吐く。

「剛と翔は本当に息が合ってますね。奈緒のフォローするだけで精一杯でした」

 希美はそう言うとミネラルウォーターを一口飲み、タオルで額や首筋の汗を拭き取る。

「俺からするとあれだけ大振りで隙だらけの奈緒を、あそこまで援護できる希美がこえぇわ」

 うん、でもその役割はきみに来るんだからね、と剛は心の中で翔に同情の言葉を唱える。


 軽く休憩を取ったところで希美が次の模擬戦について提案する。

「じゃあ次は組み合わせ変えて……私と剛が組んで、奈緒と翔が相手、でどうかしら?」

「俺らを殺しに来てるだろ?」

 翔はそれは御免とばかりに首を大きく振る。

 結局その後は普段通り、剛と希美、翔と奈緒に分かれて模擬戦を行うのであった。


 昼になって学食で注文していた弁当を食べていた時、剛は土曜日の事を思い出す。

「一昨日は失敗したよ。弁当注文するのを忘れて、昼ご飯は外の店で食べる事になったからなぁ」

「へぇ、何食べたんだ?」

 話に翔が食い付く。

「焼魚の定食がメインの店があったんで、サバの文化干しだったかな、その定食だったよ」

「何か旨そうだな、それ」

「確かにあのサバは良い焼き具合でふっくらしてて、美味しかったわね」

 翔の想像に希美が実際に食べた者としての感想を述べる。


「え?二人で行ったの?デート?デートなの?」


 奈緒の突っ込みに剛と希美はしまった、と言った顔をする。

 ふーん、と言った顔をした翔の視線を感じて希美が慌てて言い訳する。

「わ、私も弁当の注文を忘れてて、偶然剛に会ったから一緒に食べに行っただけですよ」

「食べに行っただけ(・・)?……本当に?その後二人で何処かに行ったりしたんじゃないの?」

 奈緒の更なる追及に剛も希美もギクッとして身を強張らせる。


「やっぱりデートじゃーーん!デートデート!!あたしもデートしたーーい!!翔!あたしとデート行くわよ!!」

「だが断る!」

 奈緒に話題を振られた翔がその希望を無情にも瞬殺する。


「つーか何で俺なんだよ。付き合ってもいねぇだろ」

 断られて不貞腐れている奈緒に向かって翔が突っ込むと、奈緒が口を尖らせたまま答える。

「だってーー、誰でも良いからあたしもデートしたかったんだもーーん」

「そっかー誰でも良いから……で俺かよっ!」

 奈緒と翔の遣り取りを聞いて、剛は苦笑いになり、希美は呆れ顔になる。

(ホント奈緒はブレないなぁ……)


 昼食を取り終えた4人は帰宅のために昇降口に向かうが、剛、希美、翔の3人の後ろから、奈緒が上目遣いで「デート……デート……」とブツブツと呟きながら付いて来ていた。

 後ろの奈緒の様子を感じ取った剛は情けない顔をして希美を見ると、希美は目を伏せて軽く溜め息を吐いて振り返る。

「……時間はあるから、都庁の展望台にでも行ってみる?」

 瞬間、華が咲いたように明るい笑顔を奈緒は見せる。

「デート♪デート♪デート♪デート♪」

「いやデートじゃねぇし」

 翔のツッコミも聞こえない様子で浮かれてる奈緒を、剛と希美は顔を見合わせて微笑むのであった。


 平日とは言え夏休みに入ったこの時期、親子連れが多く15分程エレベーターに乗るまで待たされる事になった。

 だが、エレベーターに乗ると30秒程で展望台に到着する。

 南展望台が閉鎖されているため、4人が上ったのは北展望台。真下にはトーイチ、格技棟、トーフが並ぶ。

「ほぇ~~。トーフが豆腐みたいにちっちゃ~~い」

「誰がダジャレ言えって言った」

 翔に軽くチョップされた奈緒は、校内暴力ーー!イジメ絶対ダメ――!とわめくが誰も相手せず、周囲を……特に西側を見回していた。


「小金井……ってランドタワー無いから、中々分からねぇな」

 翔の感想に剛が頷く。

「ウチのマンションは……流石にこの距離だと紛れるな」

 剛と翔が会話する中、広がる東京の景色を見ている希美は浮かない顔をしていた。

「……希美、どうした?」

 剛が声を掛けると、愁いた表情のまま希美は軽く首を振る。

「10年以上前の事を思い出して、ね……」


 希美は今でこそ中野坂上の祖父母の家が、自分の住処になっている。

 だが、小学校に上がるまでは、西荻窪の本来の自分の家で過ごしていた。

 東京都庁からほぼ真西に見える西荻窪――ランドタワーは無く、住宅街が広がる地域だが――を目にした希美は幼少期の頃を思い浮かべ、そして今の自分の居場所を再確認する。

 そんな様子の希美を見て、剛は声を掛ける。


「今の俺らは、4人がいる場所が居場所だろ?俺も、希美にも、翔にも、奈緒にも、ここに居てほしい。ここに居るんだよ。俺らは」

第59話 『here I am』 美郷あき

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