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Limitless  作者: 神 賢一
第四章 Spread Wings.

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第57話 Girls of Summer

 今週で1学期も終わると言う週の月曜日――

 昼休みの学食で、剛、希美、翔、奈緒と言ったいつもの顔触れで昼食を取っていた。

「夏休みの間だけど、模擬戦はどうしますか?皆さんも予定あると思いますが」

 希美の申し出に3人は少し考え、剛がトーフの夏休みの課題を思い起こす。

「そう言えば、模擬戦や特技訓練を行う事で、夏休みの課題消化になるんだよね?45時間以上が目標で合ってたかな?」

 剛の話に翔が頷いて答える。

「45時間と言う事は、1日3時間として15日、か。夏休みが大体6週間って考えると、週2日……だと足りねぇな。週3日目安かな?」


 話し合った結果、週3回トーフに集まって月曜日と金曜日が模擬戦、水曜日が特技訓練と決まった。

 お盆時期にあたる8月12日から8月18日の1週間は休みとし、朝9時から昼の12時までの3時間、週3日の5週間で翔が言った目安の15日に到達する。

「いいね♪いいね♪じゃあ休みの日は――」

「デートはしねーよ」

「何で分かったの?!翔、あ、あたしの心読んだわね?!エスパー?!超能力者?!」

「剛の時と同じ事言ってんぞ」

 奈緒と翔の掛け合いに、剛は苦笑し、希美は呆れ顔になる。


 6限目まで授業が行われると、15時半過ぎに全て授業が終わり放課後となる。

 特に予定が無ければそのまま下校で良いのだが、今は7月中旬で梅雨がまだ明けていないとは言え30度近い気温で蒸し暑い不快感があり、館内であれば空調が効いているため、気温が下がるまで第7格技室で模擬戦をすることにした。

 剛は今日から自作したハルバードの模擬戦用武器を持ち込んでおり、担当教官からも許可を取って今日の格技授業から使用していた。

「それだけの物自作するって、凄いですね……」

 模擬戦前に感触を確認するために素振りや型稽古をしている時に、希美が率直な感想を述べる。

「姉ちゃんからは中二病かよ、って言われたけどね」

 木製ハルバードを振るうのを止めた剛は、希美に向かって肩をすくめて見せる。


 希美が木剣を振り下ろすと剛が木製ハルバードの斧頭裏の突起で受け止め、捩じって軌道を変えると穂先を突き出し、木剣を引いた希美が迫る穂先を剣を振るって弾く。

 弾かれた穂先が円を描くように左から希美の足元を襲うと、その上を希美が右に跳んで大きく一歩踏み込んで突きを繰り出す。

 突きに対して剛は右に振るったハルバードの勢いを活かして屈んで避け、そのまま反転して斧頭を希美に叩き込もうとするのを、希美は木剣で受け流すと滑り込むように間合いを詰めて袈裟斬りに振り下ろす。

(早い……以前に増して早くなっている……それに、俺のハルバードの重みを上手く流している……)

 剛自身も目覚ましい勢いで技術が向上しているのだが、同じ速度で希美も成長しており、一向に差が縮まる気がしない。


 その模擬戦の様子をトーイチの生徒達が溜め息交じりに眺めていた。

「あんな早さで動き続けるとか……どんだけやって来てるんだよ……」

「トーイチと思ったらトーフの1年かよ……とんでもない二人だな……」

 場所の都合で次に模擬戦をやる翔は、横でせやろせやろ、どぎゃんねどぎゃんね、と何故かドヤっている奈緒を余所に、剛と希美の模擬戦を凝視して自分の動きをシミュレートしていた。

(駄目だ……ここも、ここも、斬り込んだら逆にやられる……あ、今のタイミング……で、そう返すか?!態と誘って躱している……?)

 5分程戦っていると、剛の穂先が希美の喉元に、希美の木剣が剛の首筋に、ぴたりと添わされた事で二人の動きが静止する。

 周りからは感嘆の息が漏れる。


(ここまで絵になるってのもな……剛と希美はどこに向かってるんだろう……)

 翔が眺めていると二人は体勢を解き、模擬戦の感想を言い合って都度都度その時の型を再現しながら修正点を確認していく。

「よし、じゃあそろそろ俺達もやるぞ」

 翔は奈緒に向き直って言うと、奈緒は怯えたような様子を見せて翔に問い掛ける。

「やだっ。やる、って一体あたしに何をする気?!」

「模擬戦に決まってるだろーが!!」


 翔と奈緒が模擬戦を始めたのを、剛は希美と並んでその様子を観察する。

 二人ともだいぶ上達してきて、打ち合う速度が上がったな、と剛は思っていると、横で模擬戦を見ている希美は時折指をぴっ、ぴっと細かく動かしている。

 何をしているのかと訝しがりながら模擬戦に目を遣ると、二人の動きに対して希美ならどこで打ち込むのか、タイミングを見ていたと言うのに剛は気付いた。

(成程……模擬戦はそう言う見方をすると言うのも修練になる訳だ……)

 翔と奈緒の動きを眺めていると、剛にもほんの僅かな隙が見えて来て、どこからどのように打ち込めば有効な打撃を与えられるか、少しずつ理解していく。

(看取り稽古ってあったが、単に上位者の動きを見て理解するだけじゃなく、自分ならどう相手すると言う事を考えるのにも役に立つのか……)


 その後、模擬戦は希美と奈緒、剛と翔、剛と奈緒、希美と翔の組合せで順次行われた。

(翔だと、ここで一瞬引く癖がある……なら!)

 翔がほんの僅かに細身の木剣を引いた瞬間を狙って剛がハルバードの斧頭を翔に振るうと、避け切れないと判断した翔は細剣で受けようとして――剛はハルバードの軌道を変えて、受けでは無く受け流しになるように仕組むと、翔の流れた木剣が勢い付いて体ごと流れたのを見逃さず、ハルバードを翻して突起の先端を翔の首筋に突き付ける。

 その一連の流れに誘われた事を理解した翔は、驚愕の表情で剛を見詰めると体を引いて直立し、剣を納める。

「参った参った。まさかそんな動きしてくるとはな」

 翔の割り切りの良さは、3年前……と言いつつ、何十年、何百年関わって来た剛としては、心地良い物であった。


 ある種、剛からするとこの場に居る3人――希美、翔、奈緒――の中で、一番厄介なのは奈緒だった。

「トゥーーール、ハンマーーーーー!!」

 隙だらけの大振りのハンマーなのに、掠っただけで吹っ飛ばされそうな奈緒の振り下ろし。

(その上戦いの定石とかセオリーとか、そんなのまるで無視してハンマーぶん回すって……一撃食らったらマジでやばいな……)

 トーイチ時代の特装器程では無いが、それでも一辺10cm、長さ40cm程のヘッドに1.5m程の柄が付いた、5kgくらいはありそうなハンマーを振り回しているのが、筋骨隆々の男ではなく、小柄とまでは言わないが身長150cm程度で体型も普通な女の子である。

 そんな重厚と言えるハンマーを振るっても崩れない奈緒の体幹はちょっとした脅威であった。


「奈緒って小学生の頃何かスポーツやってたの?」

 模擬戦とその後の感想戦が終わり、スポーツドリンクで喉を潤した剛が尋ねる。

 その声にブリックパックのいちごオ・レ――よくそんな物見付けたな、と翔が呆れていたが――を飲んでいた奈緒は、ん?と剛の方を見る。

「やってたよーー。ドッジボールに縄跳びに逆上がりに持久走に――」

「奈緒、それは体育の授業のであってスポーツとは言わないわ」

 慣れてきたのか希美が冷静にツッコミを入れる。


「あ、この時期はお父さんがよく海に連れて行ってくれたから泳ぐのは多かったかな~~。1kmくらい先の岩までサクッと泳いで帰ってくるのが楽しくて♪」


 剛は驚きを通り越して呆れていた。

(海で1kmくらいをサクッって……しかも往復……)

 3人は改めて奈緒の非常識っぷりを再認識するのであった――

第57話 『Girls of Summer』 Aerosmith

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