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Limitless  作者: 神 賢一
第四章 Spread Wings.

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第56話 Catch the Moment

 剛がトーフに入学してから3か月が経過し、あと2週間程で夏休みに入る頃。

 6月には将棋の八冠王者がタイトル戦で初めて失冠したり、つい先日は50人以上が立候補した都知事選で現職知事が3選を果たすなど、世の中では色々とあったようだがトーフに通う剛達にはあまり関係無く、7月に入ってから梅雨は開けていないものの35度を超える日もあり、朝から汗を噴き出すような蒸し暑さが目下の悩みであった。

 とは言え、格技棟は空調完備のため外気温に左右されず、剛達は模擬戦を6月から週2回に増やして、技を磨いていた。


 その日は週3回の格技の授業があり、AクラスBクラス合同で授業を行っていた。

 両クラスの生徒64人は経験者枠と未経験者枠に分かれて、経験者枠は模擬戦を、未経験者枠は素振りから型稽古を行うのだが、希美は言うまでも無く、今月からは剛、翔、奈緒も経験者枠扱いで模擬戦に参加していた。

 今回、剛の最初の相手は高杉と言う名前のAクラスの生徒で、小学3年生から剣道をやっていたが、トーフ入学に伴いリーチが長い方が有利と考え――あながち間違いではないのだが――槍を使うようになった男子生徒である。

 ポールアックスを手にする剛とは同じ長柄武器同士と言う事もあり、最も多い剣使いとは間合いが変わってくるので剛としても慎重になる。

(だが……トーイチでも槍使いの上級生と模擬戦をやった事は何度もある……むしろ初心者だからこそ、想定しない動きがあるのか……?)


「始め!」

 掛け声とともに高杉が突き出してくる穂先を、剛は一つ一つポールアックスで丁寧に捌いて逸らす。

 自らが繰り出す突きをいとも容易たやすく捌く剛に業を煮やした高杉は、一歩踏み出すと槍を上段に振り上げて剣道の面の要領で振り下ろそうとする。

 その隙を剛が逃すはずもなく、がら空きとなった胴の左脇下にポールアックスの斧頭をピタリと添わせる。

「そこまで!」


「やるじゃん、剛」

 翔がニヤッと笑って剛の勝利を祝福する。

(そう言えば……俺の事「剛ちゃん」って呼び始めるのって、中2でウチに来た時だったよな……母さんが言ったのを真似たんだったけど、そう言う機会あるのかな……?)

 翔から言われた自分の呼び方について思いながら、剛はニヤッと笑い返す。

「希美の相手してたらどうしても腕は上がるさ」


 暫くすると希美が模擬戦を行う番が来たので、剛も翔も注目する。

 あれはBクラスの桂か……トーイチ最初の特務実習でリーダーを務めた奴だと剛は相手に気付いた。

 得物は希美の長剣に対して桂は木刀で、希美は右手一本で持っていつもの通り斜めに構え、桂は対照的に両手で剣を持ち正対するように構える。

 教官の「始め!」の掛け声が掛かると希美は摺り足気味に半歩前に出て、対する桂は半歩下がる。

 間合いを伺う希美は剣先は桂に向けたまま右にじりじりと回り込もうとするが、桂も斜めに下がりながら距離を保って希美を正面に捉え続ける。

 緊迫した状況……それでいて決まるのは一瞬と剛に感じられた刹那、大きく踏み込んだ希美が右袈裟に剣を振り下ろし、桂が両手で持った剣で受け止めようとするが、希美は剣を手元に引いて空振りさせると左逆袈裟に振り上げ、剣先は桂の喉元。


「そこまで!」

 教官の声が響くと桂は剣を下してふっと笑い、同じように剣を下した希美に言葉を掛ける。

「やっぱり1年じゃ星野さんが一番ってところだね。できれば何度も手合わせして欲しいですね」

 希美がその言葉を聞いてからチラっと剛と翔の方を見遣り、桂に視線を戻して薄く笑みを浮かべる。

「放課後の模擬戦、一緒にやりますか?剛と奈緒と翔も一緒ですが」

「バケモノしかいないじゃないですか」

 桂は肩を竦めて苦笑いすると一礼し、終わりとばかりに希美に背を向けて生徒溜まりに歩いて行った。


「お疲れ。中々の使い手って感じだったね」

 戻って来た希美に剛はねぎらいの言葉を掛けると、希美は頷く。

「Bクラスなのが不思議なくらいですね。まあ、入試では剣技を見せる機会は無かったから、加点される要素が少なかったのかもしれないわ」

 希美の言葉に翔はそんなもん?と言った顔をする。その隣で奈緒は、どこから持ってきたのかメイス3本で何故かジャグリングをしていた。

「鈴木!曲芸の授業じゃないんだぞ!」

 案の定、奈緒は担当教官に叱られる羽目になる。


 トーフにも学食が存在しており、剛達4人は昼休みになると学食で食事をするのが通例となっていた。

 格技の授業が4限目であったため、そのまま教室に戻らずに学食に来た4人はそれぞれメニューの中から好きなのを選んでくるのだが、翔は剛と希美が違うメニューを食べているのを見た記憶が無かった。

「なあ……剛と希美って、何でいつも同じの食べてんの?」

 翔に言われて剛と希美はきょとんとした表情をして、お互いの顔を見合わせる。


「いや、俺はその日食べたいと思ったのを選んでるだけだけど……」

「私も今日の気分で何にしようか決めてるだけですが……」

 奈緒はその二人の慌てた様子を交互に見て、ニマニマし始める。

「心と心で通じ合う!二人はラブラブカップルね!!」

「お前は黙れ」

 翔から軽く頭にチョップを食らった奈緒は、DVだーー!傷害事件ーー!と喚くが、翔は無視して困惑している二人を見詰めている。

(まあ、奈緒じゃないが付き合ってるって言っても不思議じゃねぇな……)


「ところで明日の放課後だけど」

 微妙に気まずい剛は強引に話題を変えようとする。

「入学してから一度もやって無かったけど、特技訓練にしないか?」

 トーフにしろトーイチにしろ、特技について授業で行われるのは座学だけでしかなく、実技訓練は独自に行う必要がある。

 これは個性にしろ特技にしろ個人差が大きく、AクラスからEクラスまで実力でクラス分けしていてもレベル差が大き過ぎて授業と言う画一的な枠内では補えないが理由で、その代わり生徒から依頼されたら教官は基本的に断ることなく、特技訓練に付き合ってくれる。

「そうね。今の内に特技を習得しておけば、3年生になった時に楽になるかも。担任の先生通して依頼しましょう」

 希美が剛の意見に同意すると、翔と奈緒も頷くのであった。


 その日の放課後――

 剛は翔に調べたい事があると言って別れた後、第4格技室に来ていた。

 公的には緑と白の個性持ち、と言う事になっている剛ではあるが、実は赤の個性も既に獲得しており、知人の目が無いタイミングで赤の特技を確かめておきたいと思っていた。

 ただ、特装器ではなく単なる模擬戦用の木製武器を使用するため、発動の可能性や、特に発動した際の効果は大幅に下がるのだが、まずは試してみてからと考え、30m四方の壁に囲まれた訓練ブースで、剛は木製のポールアックスを持って姿勢を正す。

(赤の特技と言えば……希美が使っていたあれだろうな……)

 剛はポールアックスを両手で構え、法力を込めてから右袈裟の型で振り下ろす。


 〈(flaming)(blade)!〉


 剛が振り下ろしたポールアックスの穂先部分から1m程度の炎が揺らめく。

(特装器じゃないからこんな物、か……)

 木製のポールアックスの穂先が燃えていないのが不思議ではあるが、特技とはそう言う物、と思って法力を霧散させて炎を消す。

 気を取り直してブースの中央から隅の方に移動し、ポールアックスを片手で掲げて法力を込める。


 〈隕石(meteor)(swarm)!!〉


 振り下ろした先20m程の上空――高さ20mの天井付近に黒い点――隕石が現れ、発火して熱を放ち始めると、剛はポールアックスを振り下ろし、その動きに合わせたように灼熱の隕石が音を超えるような速度で落下する。

 ただ……発生した隕石は僅かに1個。

(……これじゃ「隕石群」になってないな……)

 苦笑した剛は、感覚を確かめるように何度も繰り返して特技を発動させるのであった――

第56話 『Catch the Moment』 LiSA

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