第52話 ULTIMATE WHEELS
― 人類個体識別番号 281474976710655、転生を開始します。 ―
それから剛は、何度も転生して約1年半の人生を繰り返していた。
時には獲得する個性を変え、習得する特技を変え、特装器の形状を剣に、斧に、弓に変え――結局はハルバードが一番しっくり来たのだが――、そうやって天道光に対抗する手段を模索し続けた。
模索し続けたのだが……天道を苦しめるまでは行くのだが、倒すに至らないまま、初めてトーイチに入学してから50回以上の転生を繰り返していた――
「神野、お前本当に剣道未経験か?」
転生が25回を超えた頃、小金井三中の剣道部に入部した直後に、桐野からそう声を掛けられた。
「え?何でだ?小学校の頃とか剣道やってないのは本当の事だぞ」
その答えを受けて、桐野は顎に手を当てて思案する。
「所作……と言うか、剣道の礼儀作法ができているだろ。それに、竹刀の振り方も堂に入ってるし、打ち込みも……初めてどころか下手すりゃ有段者以上だ」
剛は桐野の言葉を誤魔化すために笑って受け流す。
「買い被り過ぎだって。翔に聞いてくれたら、竹刀なんて真面に触っていない事分かるから」
そう言いながらも、剛は内心冷や冷やしていた。
(危ないな……中3の1年を何十回も繰り返してるって事は、何十年も剣道経験しているのと同じか……もう少し初心者っぽく振舞わないと……)
だが、桐野から指摘されたのは事実であり、剛は確実に戦いの経験を繰り返される転生の中で、記憶に刻み込み続けていた。
だからこそ、徐々に天道に対抗でき始めているのだが、決定的な何かが足りていない事も自覚していた。
希美や、上級生達との模擬戦の回数を増やしたり、御魂を引っ張り出して特技の強化を図るなど、あらゆる手段を試していた。
「剛……ネットとかで、人生何周目って言い方する事あるけど……貴方、何周目なの?」
転生の事……タイムリープの事を、希美に伝えていなかった時に、剛は希美からストレートに尋ねられた。
「何周目って……そんなの、あるのかな?」
その剛の言葉に希美は俯いて首を振る。
「貴方が、この世界を一度しか見てないなんて、信じろと言われる方がおかしいわ……」
希美は愁いを湛えた顔で、剛にそう告げる……
特装器の形状として、ハルバードがやっぱり一番しっくりくると分かってからは、素振りをするのも木刀では無く、ホームセンターで木材を購入して自作したハルバードっぽい物を使用していた。
トーイチに入学して、本物のハルバード型特装器を手にしたらバランスを確認し、微調整する事でより本物に近い感触で素振り――型稽古に近いが――を行うだけでは無く、トーイチに持参して格技教官の許可を得て、格技の授業や希美達との模擬戦に使用していた。
それこそ転生して、トーイチに行く事を宣言する前に木材で武器を自作していたため、恵からは「中二病かよ」と何度も揶揄われていたが、これも天道を倒すため……と最初は忍んだが、その内聞き流すようになっていった。
トーイチの入学については、途中から一々宣言するのをやめた。
個性を獲得した事を示す事さえできれば、父親は反対する事はないし、母親は……まあ、ああ言う人だからどっちにしても反対はしない。
反対するとしたら恵ぐらいだが、何をどうしようと反対するだろうから途中で説得は諦めていた。
そして重要な個性の獲得も効率的に行えるようになり、1つの個性を獲得するのに半年近く掛かっていたのが4カ月程度に短縮できるようになり、それによってトーイチ入試までに2個性持ちになる事が当たり前になっていた。
そうやって剛は色々な個性――黒だけは試す事は無かったが――を獲得しては特技を習得し、天道に挑み続けていたが……どうしても勝つ事が出来ずに、最初にトーイチ入学した時から60回以上の転生を繰り返していた。
(また……勝てなかったのか……)
― 人類個体識別番号 281474976710655、転生を開始します。 ―
もう100回以上聞いた、同じアナウンスだった。
― 記憶領域を increment します……オーバーフロー、失敗しました。 ―
(えっ?失敗って……ちょっ、ちょっと待ってくれ……もう転生できないって……そう言う事なのか……?)
― negative bit が on になりました。記憶領域を signed char から unsigned char に変換します……成功しました。 ―
(……成功してくれたのか……と言う事は、まだ戦える……ただ、何を言っているのか相変わらず、だな……)
― 記憶領域を increment します……成功しました。 ―
― 転生準備完了。人類個体識別番号 281474976710655、出生名『神野剛』の転生を実行します。 ―
― 出生名『神野剛』の転生に成功しました。転生を終了します。 ―
剛はこれから目に飛び込んでくる光景――2026年3月31日の吉祥寺の厄災を想定し、次にどう動くか……基本は翔と安全な場所に退避するのだが、それでいて希美の戦いを見る事ができる場所への移動をイメージする。
しかし、熱さも炎の光も感じることが無く、むしろ肌寒い空気に不思議に思って目を開ける。
瞼を開けた剛の瞳に飛び込んできたのは、母校である小金井市立第五小学校の校舎と、その上空を覆う冬の分厚い雲。
そして記憶に久しい、身長140cm程の翔の姿。
(えっ?いつだ今?どう見ても2026年どころか更に4、5年は前じゃないのか?)
「どうした剛?ぼーっとしちゃってるぞ」
声変わりする前の翔の声が聞こえ、ずっと中学3年から高校1年の翔と関わって来た剛にとっては違和感しかなかった。
違和感を抱えたままぼんやりと翔の顔を見ていると、翔が顔を顰める。
「何だよ、剛。気持ち悪いぞ。変な物でも食ったか?」
取り敢えずのところ、剛は今の状況が全く分かっていない。
このまま翔と話をしてもボロが出るかもしれないと思った剛は、この場を一旦離れるために取り繕う。
「悪い……寒さで風邪引いたかもしれない。今日は帰る事にするよ」
翔はえぇーっと言う顔をするが、剛の言った事に渋々納得する。
「分かった。体調悪いなら明日も無理できないだろうから、明後日学校でな」
剛は家に帰ると真っ先にリビングに掛かっているカレンダーを見る。
(2022年1月……か。やはりだいぶ前、だな……と言う事は、今の俺は小学……4年生、なのか?)
次に剛はテレビを点けて、番組では無く、番組表を――番組表に表示された今日の日付を見る。
(……15日。と言う事は、今日は2022年1月15日……やっぱり、今までの1年半くらいじゃなくて、5年半くらい、時が巻き戻っている……)
すると剛はある事に気付く。
(今までは1年半しかなかった……5年以上、天道と戦う時間がある、なら……もっと、もっと強くなれる!!)
直ぐにプランを考え始める。今が小学4年生と言う事は、トーイチに入学するまでに5年程あると言う事で――そして閃く。
(トーイチどころか、トーフに入学も夢じゃない……そうすれば……希美と一緒に戦う時間も大きく増える!)
その日から剛は、トーフ――国立東京第一高等学校附属中学校――に入学するために、先ずは個性獲得に向けて邁進するのであった……
第52話 『ULTIMATE WHEELS』 KAT-TUN




