第49話 A Day in the Life
「ただいま」
剛が帰宅してリビングに行くと、恵がソファーに寝転がって配信のアニメを見ていた。
「お、剛おかえり。あんた達よく毎日続くね」
ん、と返事して一旦洗面所に向かい、手を洗った後リビングに戻った剛は、恵が何を見てるのかテレビを見ると、[個性]で戦うヒーロー候補の高校生達の物語であった。
ちょうどサポート科の生徒が主人公のためのサポートアイテムを作っている最中で、「私のベイビーちゃん!」と語って愛でている場面であった。
「そう言えば、トーイチの特装科にも変わった人がいたなぁ……」
ん?と疑問に思い、恵が剛を振り返る。
「今日特装器のメンテナンスして貰ったんだけど、入間さんって特装科の3年の先輩が――」
「入間?!入間って入間聆?!あのおっぱいお化け?!」
恵は剛に顔を近づけて詰問する。その様子に剛はドン引きしながら頷く。
「え……何で姉ちゃん、入間さん知ってるの?」
眉間に皺を寄せて心底嫌そうな顔をした恵が答える。
「知ってるも何も、アイツ、三中の同級生だったヤツだよ」
へぇ、俺の中学の先輩だったんだ、と剛は考えたが、どうやら特に仲が良かった訳では無く――むしろ、コンプレックスを刺激されて嫌な相手だったのかと、勝手に納得して、それ以上言及しないようにする。
「と言う話があったんだよ」
翌日、格技棟入口の端末で格技室の予約を終えた4人が学食に向かう途中、剛は昨日の恵との話を皆に披露していた。
「へぇ、入間さんってめぐみんの同級生だったのか。俺からしても中学の先輩になるけど、記憶に無いかな」
翔は恵と何度も会っているから流石に分かるのだが、希美と奈緒は恵には今のところ会った事が無いので、そうなんだ、と言う程度の感想であった。
そして、おっぱいお化けと言う言葉に反応したのか、奈緒は両手で自分の胸を持ち上げている。
「奈緒、誰が見てるか分からないからそう言うの止めなさい」
今日は入間にメンテナンスして貰った特装器を敢えて使って、立ち合いの感触を手に馴染ませる事を主眼としていた。
4人は昨日メンテナンスして貰い、柄などに使用感こそあるものの刃や打撃部が新品同然に生まれ変わった特装器を携え、第6格技室に入ると空いているスペースに向かい、夫々の特装器の感触を確かめていた。
(何か……真っ直ぐ入る。振るった力がそのまま伝わる……これは、凄い!)
剛はメンテナンスの効果を如実に感じていた――裏を返せばどこかに違和感がある状態で使用し続けていたと言えるのだが。
剛達4人は暫しの間、メンテナンスされた特装器を振るって感触を確認していた。
特装器の確認後、普段通りの剛と希美、翔と奈緒の模擬戦を開始していた。
4月末に初めて模擬戦とも言えない修練を行った頃とは打って変わった、凄まじい速度で討ち合いを繰り広げ、傍から見ると宛ら演武のような剛と希美の流れる動きに、同じ第6格技室でトレーニングしていた上級生達も手を止め固唾を呑んで見守る。
希美の長剣と剛のポールアックスが火花を散らすかの如く激しく討ち合っては素早く離れ、立ち位置を入れ替わるように駆け寄りながらの一閃、振り向きざまに追撃の一撃。
希美が、剛が、汗を飛び散らせながら、目まぐるしく格技室の競技範囲を駆け回り、斬撃を続けるのであった。
「お疲れ~~♪彼ぴっぴも希美んみんも、すっごく見られてたよ~~♪」
模擬戦を終わらせた剛と希美の所にドリンクのペットボトルを持ってきた奈緒が、相変わらず気合が抜ける口調で話し掛ける。
「ありがとう、奈緒」
希美は自分のペットボトルを受け取る。剛も自分のを受け取ると、礼を言いつつ質問する。
「鈴木さんありがとう。で、鈴木さんと翔の方はどんな感じだったの?」
すると奈緒は不満そうに口を尖らせて愚痴り始める。
「彼ぴっぴと~~、希美んみんが~~、ぜ~~~~んぶ注目集めるから~~。あたしと~~、翔んるんが~~、ま~~~~~ったく見てもらイタっ!」
毎度の事に翔から軽くチョップを食らった奈緒が、流血したーー!人殺しーー!と喚き始めるが、それを無視して翔が剛に応える。
「ま、悪くは無いと思うよ。俺も大技の回避上手くなったし、コイツも隙がだいぶ減っているかな」
剛達4人が日々模擬戦や特技訓練を行って、1週間が過ぎ、2週間が過ぎ――
気付けば8月24日……明日は都内の対妖魔特設校三校合同の夏季特別講習がトーイチにて開催される日である。
つまり、西新宿に妖魔の大群――そして天道光が現れ、西新宿の高層ビル群は崩壊状態になり、希美と剛は何もしなければ命を失う……それが明日に迫っていたのであった。
剛は街明かりに輝く夜の小金井市の光景を窓から眺め、決意を新たにする。
(どうせこれまで何回も……それこそ、50回も60回も天道に殺されてきたんだ。今更怯えるな。最優先は希美を生き延びさせる事……可能なら翔と奈緒もだが、そのためなら命を投げ捨てるくらいの覚悟で天道に当たらなければ……)
これまで繰り返してきた中で最も濃い1年半程を過ごした剛としては、守るべきものを守るために、明日の天道との戦いに挑むのであった――
翌朝――
剛はトーイチだけでなく、トーニ、トーサンの生徒もトーイチに集まるため、普段の時刻に登校すると混雑すると思い、いつもより15分以上早く家を出ようとしていた。
「あれ?剛もう行くの?」
トーイチへの登校準備をそろそろ終わらせようとしていた恵が剛に声を掛けると、それに対して剛が答える。
「うん、今日は普段の3倍の生徒数、だろ?混雑する前に荷物とか置いておきたいから」
ふーん、と恵は納得したかしてないか分からない反応をするが、剛はマンションのドアを開けて武蔵小金井駅に向かい始める。
JR新宿駅からトーイチの正門前に剛が着いた時、丁度正面から希美が歩いて来る姿を見止めた。
「希美、おはよう」
少し離れた位置から剛が軽く手を上げて声を掛けると、希美はその場で軽く頷いて近寄って来る。
「剛、おはようございます」
希美は剛と肩を並べて歩き、連れ立って昇降口に向かう。
「今日の調子はどう?」
突然、しかも漠然とした質問をされて、希美は少し戸惑いながら考える。
「特に……どこか調子悪いと言う訳ではないし、だからと言って妙に調子が良いと言う訳でもないでしょうか」
その答えに剛はニヤッと笑って正面を向く。
「なら、問題無さそうだね……まあ、今日はトーニ、トーサンの特技科とも模擬戦やるんだろ?今までと違う戦いができるって楽しみじゃない?」
剛の答えに希美は違和感を感じる。別に当たり前に思える事を今更言われても……そう考えた時に、嘗て剛から言われた話を思い出した。
――西新宿の大厄災――
辻褄が合う。剛がトーサン生だとしても、この日は西新宿のトーイチに来ている。今でこそトーイチ生だから西新宿のトーイチに来るのは当たり前だが、トーサン生からしたら遊びに来るとかであるかもしれないが、わざわざ西新宿に――繁華街は新宿駅周辺がメインなのだから――来る必要はない。
その事に気付いてはっとした希美は、教室に向かう足を止めて驚愕の顔で剛を見詰める。
自分を見詰める希美の視線を感じた剛も足を止めて希美に向き直り、表情を消した顔で希美を見返す。
数秒の沈黙の後、剛は薄らと笑みを浮かべて希美から言われた言葉を希美に返す。
「今日が何の日だろうが、次に何が出て来ようが、俺達がやる事は変わらない、だろ?妖魔の大群が出現しようが、天道が現れようが、俺達がやる事は一つ――そこに居る妖魔を、修羅を、天道を狩るだけだ」
第49話 『A Day in the Life』 The Beatles




