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Limitless  作者: 神 賢一
第三章 Slipped Away

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第44話 僕らの街で

 翌日土曜日――

 新宿御苑は朝9時開園になるため、少し落ち着いた9時半に集合し、園内に入る予定にしていた。

 ただ、2日前に妖魔との戦闘が行われたため、一般入場が行われているか不安ではあるが、そこはトーイチ生と言う事で学生証を見せる事で特例的に入場は可能と剛は読んでいた。


 剛と翔が東京メトロ新宿御苑駅の1番出口から地上に上がると、そこには希美が既に待っていた。

「希美、お待たせ。おはよう」

「星野さんおはよーっす」

 声に気付いて希美が剛と翔の方を見て、頭を軽く下げる。

「剛、本田くん、おはようございます」

 希美の挨拶を受けて剛は軽く頷いた後……奈緒の姿を探すが見当たらない。

「アイツ、またどこかで買い食いしてんじゃねぇのか?」

 翔が眉根を寄せて批難じみた事――過去2回の例があるからだが――を言う。


「……今回は流石に無いんじゃないか?」

 と剛がフォローしたタイミングで、奈緒の声が聞こえた。

「やっほ~~♪希美んみん、彼ぴっぴ、翔んるん、おっは~~~♪」

 声がした方に3人が視線を送ると、横断歩道を渡ってくる奈緒の姿――手にはロングブレッドサンドイッチ――があった。

「やっぱりまた食ってんじゃねーかよ!!」

 そこには怒り心頭の翔、呆れ顔の剛、顔をしかめて頭を抱える希美。


 4人は集合場所から新宿門と呼ばれる入口に向かうと、入口は機動隊員が固めており、物々しい雰囲気を漂わせていた。

「奈緒、それカバンに仕舞いなさい。遊びに来たと勘違いされるわよ」

 歩きながらサンドイッチを頬張る奈緒に対して希美が指摘すると、えーーっと言いながら奈緒は渋々食べ掛けのサンドイッチを包み紙に戻し、カバンに入れる。

「もうやってる事がお約束過ぎて、怒るのも疲れて来たよ。剛ちゃん助けてーー」

 翔の愚痴に苦笑いしつつ、剛は慰めるように翔の背中を軽くぽんぽんと叩く。

(ホント、鈴木さんはブレないなぁ……)


 新宿門に到着して機動隊員の前に進むと、希美は居住まいを正して学生証を提示する。

「国立東京第一高等学校特技科所属、星野希美です。2日前の特務実習に参加しましたので、その後の影響を確認したく参りました」

 希美に倣い、剛・翔・奈緒も学生証を提示すると、機動隊員は一人分ずつ手に取り確認する。

「確認した。中に入るのを許可するが、まだ立入禁止区域もあるのでその区域には立ち入らないように」

 4人は返事をして一礼した後、戦禍の残る新宿御苑に入って行く。


 2日前は北東の大木戸門の駐車場から園内に入ったが、今日は北西の新宿門から入り、戦闘が行われた区域まで4人は数分歩く。

 暫くの間は自然豊かな光景が続いたが、西エリアから東エリアに入ると、その光景は一転する。

 抉られた地面、焼け焦げた芝生、折れた灌木……起伏が少なく緑地が広がっているだけに、その惨状が一望できる状況であった。

 遊歩道脇に立っているハルニレの巨木は幹こそ表面が多少傷付いた程度だが、枝を三分の一程折られて痛々しい姿を晒している。

 妖魔が、とか、特技士が、とかでは無い。戦闘が行われると、誰が原因でも無い戦闘の爪痕が、こうやって残されると言う事を剛と翔は改めて実感した。


 園内を1時間程見回り、状況を把握した4人は新宿門から新宿御苑を後にして甲州街道を歩き、東京メトロの新宿三丁目駅に向かう。

 副都心線で西早稲田駅に到着すると、1か月程前に屋外模擬戦を行い、出現した妖魔を駆逐した戸山公園箱根山地区を目指す。

「ハンバーガー♪ハンバーガー♪」

「寄らないわよ」

 ファストフード店に立ち寄ろうとする奈緒の願望……食欲と言う名の欲望を、希美が瞬断する。


 主戦場となったアスレチック広場付近に到着すると、その光景に剛達は目を疑った。

 あれだけ激しい戦闘――特に希美の隕石(meteor)(swarm)の隕石の落下により抉られたり熱により焼けた地面は、その痕跡を全くと言って良い程残していなかった。

「……何か、凄いな……」

 驚きに剛は語彙が乏しくなる。

 辺りを見回しても傷付いた木が数本見えるが、戦闘が原因なのか自然現象が原因なのか分からない感じであり、1か月程前にこの場で300体もの妖魔が暴れていたとは俄かに信じがたい状況だった。


「妖魔は緑地帯に出現する事が多いから、復旧のための専門部署がある、って聞いた事があるわ」

 希美が整地された公園内を眺めながら言う。

「建築物だと国から建設会社に依頼が行くのだけど、公園は国や自治体が管理しているから、国土交通省の都市局から独立した緑地復旧課が請け負ってる、と言う話らしいの」

 へぇ、と剛は希美の知識に感心する。

 この2か月程、剛は妖魔を討伐する事に関心を向けていたが、事後処理――その地域に住む人の生活再建――と言う事には意識を向けていなかった。

 SUAD隊員やトーイチ特技科生徒にとっては、妖魔が居るその場その時が大事なのだが、人々にとってはその先の生活の方が大事だと言う事を、今まで理解していなかったのだ。

「妖魔が居なくなった後、か……大事なのは間違いねぇな……」

 翔が実感を込めて希美の言葉に頷く。6年程前に妖魔の出現により父親を喪った翔だからこそ、その事を理解しているのだろう。

 4人は夫々の想いに耽りながら、数分間無言で公園内を眺めているのであった。


 戸山公園を後にした4人は、前回同様に公園に繋がる道の角にあるファストフード店で昼食を取る事にした。

 注文して出来上がった商品を受け取ると、4人は2階に上がって空いていた4人掛けのボックスシートに座り、誰も言葉を発することなくハンバーガーを、ポテトを、ドリンクを口にする。

 食べ終わった辺りで、剛が翔を、奈緒を、そして希美を。顔を見合わせる。

「……修学旅行で北海道に行ったりしたけど。俺は、東京しか良く知らない……いや、東京の中でも、行き来してる範囲しか、知らない……」

 剛の言葉に翔が頷く。同じ中学だから……そして、父親がいない翔は、家族旅行と言う行事は中々機会が得られるものではないため、剛の言葉が理解できた。


 翔は埼玉出身だから、東京以外の他の地域の事も知ってる……と本人は思っているが、今は祖母、母親、妹と東京に住んでおり、大切な場所になっている。

 奈緒は家族と東京で過ごしているから幸せな記憶がこの地にはある。

 希美は……家族の記憶は遠過ぎて、別物としか思わないから、想い入れより現在の自分の居場所としての東京を必要としていた。

「何言ってるか分かんないかも知れないけど……東京が俺の故郷で、大切な街だから。俺は東京と言う街を、普通の生活を送っている人達を、俺のできる範囲で守っていきたい」

 その剛の言葉に、奈緒が、翔が、そして希美が、それぞれの想いを胸に秘めて、黙って頷く。


「貴方も想いを言葉にするの、下手ね」

 西早稲田駅のエスカレータに乗っている時、隣に並んだ希美が笑みを浮かべながら剛に話し掛ける。

 そう言われた剛は、少し苦笑いをして指で頬を掻く仕草をする。

「中々アタマの中、整理するの難しいよね」

 剛の答えに希美はふふっと笑う。

「昨日の昼に話したでしょ。私も貴方も、これからもやる事は変わらないって。私達には妖魔討伐後の災害復旧や、被害を受けた人の心身のケアはできないけど、妖魔を倒す事は出来る……なら、今の私達のやるべき事は、妖魔が出現したら討伐する。それで良いんじゃないかしら」

 希美の言葉に、微笑んで頷く剛であった――

第44話 『僕らの街で』 KAT-TUN

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