第43話 Stranger In Town
新宿御苑に妖魔が出現した翌日――夏休みに入る直前の金曜日。授業は午前中のみだが、午後に模擬戦などトレーニングを行う生徒のために学食は開いていた。
その学食でいつもの4人で昼食を取っていると、翔と奈緒がジトーっと剛の事を見ている。
「……え、と……俺、何かした……?」
視線に気付いた剛は二人に尋ねるが、尚もジトーっとした視線は変わらない。
「ねえ翔んるん、彼ぴっぴってやっぱ異常だよね」
「ああ鈴木のダンナ、剛ちゃんやっぱ異常だよな」
そんな3人を興味深げに眺めながら、希美は優雅に箸を進める。
「おかしいよね。特技士として1年どころか3か月程度で、サイクロプスを倒すわ修羅を倒すわ。翔んるん、この人ホントに彼ぴっぴ?」
「おかしいよな。1年前は特技どころか個性持ちですらなかったのに、派手な特技4種類も5種類も使うって。ひょっとして外見だけ同じで対妖魔戦用ロボットと入れ替わったかな?」
酷い言われようである。とは言え、確かにこの3か月程度の高校生活における剛の成果は明らかに群を抜いている。
何しろ昨日の新宿御苑における妖魔討伐で、200体を超える妖魔の集団に希美と二人で突入して殲滅し、二人合わせてトロル10体以上、サイクロプス4体、更には修羅まで倒すのはSUAD小隊規模の戦果である。
その鬼神の如き闘いぶりは、少し前のTVゲームのモードを捩って『2人スコードロン』――スコードロンは本来小隊では無く中隊なのだが――と呼ばれ始めていた。
直近では格技の授業において、Cクラスでは剛と1対1で真面に立ち合える相手がおらず、1対2や1対3の模擬戦を行う事が半ば当たり前になっていた。
覚悟していたとは言え、ありがたく無い周りの評判である。昨日の噂――大体事実なのだが――を聞いた生徒は剛の事を完全に遠巻きにするようになった。
(これも天道を倒すため……だが、天道を倒した後、俺や、希美や、翔や奈緒って、どうなるんだ……?)
箸を口に運び、咀嚼しながら考える剛であった。
「私は、剛はそのままで良いと思いますよ」
剛が声の方に視線を向けると、静かに微笑んでいる希美の姿。
「私達が1体でも多くの妖魔を倒す事で、1人でも多くの民間人の命を救う事になるのなら、これからもやる事は変わらない、でしょう?」
そう言葉を紡ぐ希美に対して、剛は黙って頷いた。
「で、来週から夏休みに入るけど、どうする?」
翔が右手のフォークを立てて振りながら尋ねてくる。
これまでは平日は登校していたので、放課後の時間を使って模擬戦などを行っていたが、夏休みに入ると普通は登校する事が無くなる。
トーイチ自体は格技室を開放しているので、夏休み期間であっても修練を重ねる事は可能――むしろ朝から夕方まで、格技室に入り浸りになる事も可能だったりする。
流石に学食は休み……と言いたいところであるが、朝9時半までに予約しておけば弁当の形で昼食を作って貰える。勿論、授業がある時のように多くのメニューの中から選べるのではなく、2種類の内どちらかと言う選び方になるが、それでも格技室を利用したり、図書館で調べ物をする生徒にとっては非常にありがたい制度である。
まあ、中には新宿に遊びに来るついでに、弁当だけ予約する不届き者もごく稀にいたりするが、食事も身体作りの一環としてお目溢しに預かっているのが実情である。
希美は質問をしてきた翔の方に視線を向ける。
「私は毎日でも大丈夫だけど……みんなは予定とか無いの?」
そう言いながら、学食の同じテーブルに座っている、奈緒、翔、剛の順で視線を動かした。
最後に希美から見詰められた剛は、少し思案してから答える。
「うーん……俺も課題さえ終われば問題無いから、毎日でも大丈夫かな」
その剛の言葉に奈緒がすかさず抗議する。
「え~~。たまには遊びに行こうよ~~、デートしようよ~~」
「お前と誰がデートするんだよ!」
「え~~~?……しょうがないから翔んるんで我慢してあげるよ~~♪」
「俺の方からお断りだ!」
相変わらずの翔と奈緒の遣り取りを、また始まったと思いながら剛と希美は具体的な話を進める。
「じゃあ、月曜から金曜は朝9時に格技棟前に集合で、午後3時まで模擬戦、だね」
「ええ、土曜日は10時に会議室に集合して、反省会と次の週の予定を決める、で良いわね」
そこに奈緒が茶々を入れる。
「日曜日は4人でデート!」
剛、希美、翔がジト目で奈緒を見ると、奈緒は挙動不審な様子であらぬ方向を向く。
「な、何でもあらへんでーー。気にせぇへんといてーー」
「関西人怒るぞそれ」
放課後になり、第4格技室――特技発動が許可されている2つの格技室の1つ――において、剛と希美が激しい火花を散らしていた。
中遠距離戦を得意とする剛に対し、近距離戦を得意とする希美が、大怪我に繋がらない範囲で特技を使用した模擬戦を展開していたのである。
「……彼ぴっぴの攻撃、マジでエグくない?」
「……それ言ったら星野さんの反撃、あり得ねぇぞ」
15m四方の、壁で囲まれた闘技場内では、剛が放った岩石弾を希美が悉く叩き落し、その勢いで希美が炎刃を振るうと剛は石壁で防ぐ。
生半可な生徒が中に入ったら、下手をすると全身複雑骨折か、あっという間に消し炭になりかねない。壁の外の大窓から様子を伺っている翔と奈緒にしても、その中には間違っても入りたくないと思わせる激しい戦いが、既に3分以上続いていた。
開始から5分経過してタイマーのアラームが鳴ると、剛も希美もその場で動きを止め、それぞれの特装器を手にして出入り口から闘技場を後にする……のだが、剛が自動ドアの前に立ってドアが開いた瞬間、闘技場内に籠った熱気が翔達が居る部屋を襲う。
「「熱っ!!」」
当の剛と希美は涼しい顔、とまでは行かないが、顔全体を汗で覆われながらも熱さを然程気にしていない様子で、模擬戦の感想を言い合いながら翔と奈緒の方に近付いて来る。
「終わったよ。交代」
「嫌だよまだ。中メチャクチャ熱いだろ」
翔は心底嫌そうな顔をして剛に答える横で、奈緒が口を挟む。
「翔んるん、個性青だよね。氷とか出して冷やしてよ」
「お前には焼け石に水って言葉を教えておくよ」
模擬戦を終え、ロッカールームに特装を収納して廊下に出ると、希美と奈緒はまだロッカールーム内に居るようだった。
剛と翔は壁にもたれ掛かって二人を待つ。
「そう言えば明日から3連休だけど、剛ちゃんは何か予定有るん?」
翔に尋ねられて、剛は少し考えて答える。
「んー……今のところ予定は無いから――」
その時ロッカールームのドアが開き――
「じゃあ4人でデー……あ、いや、すみません、何でもないです、はい」
剛は呆れ顔で奈緒の顔を眺め、翔は眉根を寄せて首を振る。
「それなら、新宿御苑と戸山公園の様子、見に行ってみませんか?」
希美が挙げた場所は、トーイチに入学してから妖魔討伐を行った場所である。
「新宿御苑は昨日の事だからまだ復旧に手が付いてないと思うけど、だからこそどの位被害が出たのか知っておきたいし、戸山公園は1か月以上経ってるから、どの位復旧してるか見ておきたいと思ったんです」
成程、と剛は思った。妖魔を退治するのは重要であるが、当然現地は被害を受ける。その被害状況と復旧状況がどうなっているか、と言うのを知るのは戦い方を考える上でも有意義ではないかと考える。
「分かった。じゃあ明日は新宿御苑駅で待合せにしようか」
その剛の言葉に、希美、翔、奈緒は頷いた。
第43話 『Stranger In Town』 TOTO




