第42話 SCARLET KNIGHT
出現した妖魔討伐のため、新宿御苑に駆け入った4人は、剛と希美、翔と奈緒と言う、いつものペアに自然と別れ、それぞれが目指す方向に走って行く。
剛と希美は一際大きいサイクロプスが数体居る方に向かって行くが、何かを感じて希美が剛に声を掛ける。
「剛!雰囲気がおかしいわ、気を付けて!!」
「雰囲気がおかしい?まさか、天道か?!」
その剛の答えに希美は首を振って答える。
「違うわ!天道程のプレッシャーじゃないけど……修羅が居る可能性がある!」
そう言うと希美は長剣を振るい、それに合わせて剛もハルバードを振るう。
〈飛翔斬!〉
〈岩石弾!〉
希美が放った風の刃が小型妖魔を切り倒して塵に変えると、その空間に剛が放った拳大の岩石が奥に居た妖魔に的中し、弾き消していく。
妖魔が消失した縦長の通路――左右は多数の妖魔がまだ存在している場所――に剛と希美は肩を並べたまま駆け込む。
〈剛力斬!〉
剛は左側から二人を押し包もうとしている妖魔の集団を、緑の法力を込めたハルバードの柄で力任せ柄に殴り飛ばす。
〈炎刃!〉
希美は右側から二人を押し包もうとしている妖魔の集団を、3m程の炎を纏わせた長剣で切り裂き燃やし尽くす。
奈緒はハンマーを水平に大きく、右に左に振り回していた。効率で言えば回転の方が良いのだろうが、目を回すと言う欠点があるので今回からこの方法を取っていた。
「右だせ~~き!左だせ~~き!右だせ~~き!左だせ~~き!」
(相変わらずブレねぇな、コイツ……)
ハンマーを振り回す奈緒の後ろで、迂回して迫ろうとするコボルドやゴブリンを翔が丁寧に始末する。
すると夕日が沈みかけている西の空から、黒い点が幾つも現れ翔の目に留まる。
「……グレムリン、か……」
ランクDに分類される小型飛行妖魔のグレムリンは、羽を持たないにも関わらず、宙を飛びながら翔達の方に向かって来ていた。
1体1体がはっきり見える距離に近付いた時、翔はレイピアを掲げて特技を発動させる。
〈空気矢!!〉
見えない矢は風切り音を残して一直線に飛翔し、射られたグレムリンは体液を噴き出し、落下しながら霧散していく。
奈緒が対空の特技を持たないため――爆裂で巻き込む事はできるが、周囲の被害が甚大で使用できない――対空攻撃ができる翔が援護役で居ると言うのは非常に有効であった。
背後から翔の援護射撃で落下していくグレムリンを見て、奈緒はハンマーを振り回しながら翔に声を掛ける。
「ね~ね~翔んるん!『落ちろ!カトンボ!』って言いながら落としてよ~♪」
「言うか!っつか、どこから拾ってきたそんな台詞!!」
妖魔が出現した場所が新宿御苑の東エリア、特に風景式庭園と呼ばれる緑地帯であったため、剛は火口炎や溶岩弾のように高熱を放つ特技を封印せざるを得なかった。
だが、剛力斬と岩石弾だけではやはり火力不足で、打開策を模索していた。
(……ぶっつけ本番どころか思い付きでしか無いが……試してみるか!)
剛はバックステップで1歩下がり空間を作ると、ハルバードを胸の高さに真っ直ぐ持ち上げ、緑の法力を込め始める。
〈……溶岩弾!!〉
「剛!それは危険よ!!」
慌てて希美が振り返るが、希美の視界に捉えられたのは拳大では無く……小指の先程の大きさの幾つもの溶岩の弾。
剛が左から右にハルバードを振るうと、その小さな溶岩弾は熱の尾を引きながら直線状に飛翔し、妖魔に中ると貫通して何体もの妖魔を討ち倒していく。
その光景に半ば安堵、半ば呆れた希美は気を取り直して己の敵と再び対峙する。
(……何て応用力なの、剛は……)
剛と希美が4体のサイクロプスまで10mといった所まで近付くと、サイクロプスの陰にやたらと背が高くて手足が長く、頬がこける程痩せ細った男が、二人の方をちらちらと覗いていた。
「厄介ですねぇ、厄介ですねぇ。あれだけ居た子たちがこんなに減っちゃいました。厄介ですねぇ」
痩せ細った男はそう言いながら、サイクロプスの陰から剛達の前に姿を現す。その男が制御しているのか、サイクロプスを含む周囲の妖魔は戦闘態勢のまま動く様子は無い。
「いやぁ、君達は強いですねぇ、実に強いですねぇ。だからこそ、厄介ですねぇ、厄介ですねぇ」
男はゆらゆらと上体を揺らしながら、ゆっくりとした歩調で剛達の方に歩み寄って来る。
剛と希美は周囲を警戒しながらも、男から視線を離す事無く何が始まるかを伺い続ける。
「厄介ですねぇ、厄介ですねぇ。どうしましょうかねぇ、厄介ですもんねぇ。厄介ですからねぇ、厄介ですから……」
男の体がブルッと震えると同時に、瘴気のような負のオーラに見える靄のような物が男から溢れてくるのを感じた剛と希美は、何かが起こると確信して身構える。
「厄介なのは……食べちゃいましょうかねぇ!!」
その刹那、男の頭が10倍位に巨大化し、耳まで裂けた口を大きく開いて剛と希美を飲み込もうとする。
剛は希美を制して一歩前に出て、特装器――長さ2.5m程のハルバード――を垂直に構えた。
男の巨大化した口が剛を飲み込もうと口を閉じようとすると、ハルバードに強い衝撃を受ける。
「あがっ?」
男が喉の奥から間抜けた声を上げる。
「あぐっ?い、いひゃい!いひゃい!!ははってる!ははってるーーーー!!」
男が口を閉じようとした事で、剛が垂直に構えたハルバードの穂先が……男の上顎に刺さり、勢い良く閉じたために斧頭まで刺さって口内を切り裂いたのだ。
「あががががががーーーーー!!!おのれーーー!!おのれーーー!!」
男は顔を振り回して剛を口内から放り出そうとするが、剛は今の機会を逃さず特装器に法力を込める。
〈溶岩弾!!〉
先程とは異なり、灼熱を放つ拳大の溶岩の塊が5個出現し、男の喉の奥に次々と突き刺さる。
「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃーーーーーー!!」
高熱の溶岩が体を貫いて体の内側から燃やされると言う仕打ちを受けた男は、あまりの熱さと激痛にのたうち回って苦悶の声を上げる。
男が暴れた事で突き刺さっていたハルバードの穂先が抜け、男が首を振った勢いで剛は口内から吐き出されて数メートル転がってから立ち上がる。
剛が口内から吐き出されたのを見た希美は、好機とばかりに長剣に赤の法力を込める。
〈紅炎刃!!〉
希美は特装器である長剣に数千度の紅蓮の炎を纏わせ、巨大化した男の顔を真っ向から唐竹割に斬り下ろす。
悲鳴を上げる事も叶わず、男は真っ二つに斬られて肉が焦げるような音と臭いを残し、左右に倒れ崩れる。
その事態に周囲で待機していた妖魔達は、自分に命令を下していた指揮官が倒された事を認識したのか、戦う事もせず右往左往し始める。
拳を振るう事も引っ掻いたり噛み付いたりもせず、ただうろつき回るだけの妖魔は、剛と希美の特技で発せられた灼熱を感じて重大な事象が発生したのかと集まって来たトーイチの生徒により、1体また1体と狩られて行くのであった。
妖魔の掃討はほぼ終わり、剛は辺りを見回していると、頭に軽く衝撃があった。
振り向くと怒り心頭と言った表情をする希美の姿。
怒った顔も綺麗だな――などと不謹慎な事を考えた剛に対し、希美は強く抗議する。
「あんな無茶な戦い方!あの修羅がどんな能力持ってるか分からないんですよ!本当に飲み込まれたらどうするつもりだったんですか?!」
その余りの剣幕に剛はたじたじになる。
「あ、ほら。そんなに強い奴には見えなかったし……ゴメン、ゴメンってば」
その様子を遠巻きに見ていた翔と奈緒は、呆れたように顔を見合わせる。
「……痴話喧嘩は余所でやって欲しいなぁ~」
「……夫婦喧嘩は犬も食わん、か?」
第42話 『SCARLET KNIGHT』 水樹奈々




