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Limitless  作者: 神 賢一
第三章 Slipped Away

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第40話 I Call Your Name

 〈剛力(power )(slash)!!〉

 最も得意とする特技を振るい、剛は降り続く雨の中、周囲の10体を超える妖魔をハルバードの柄で殴り飛ばして空間を広げる。空いたその先にはランクB妖魔のサイクロプスが数十体の妖魔を引き連れて、まだ被害が出ていない場所を目指そうとしていた。

 剛はハルバードを掲げて穂先をサイクロプスの頭に向け、ゆっくり真下に振り下ろし、岩石弾と火口炎から着想した、まだ使用した事が無い特技を剛は発動させる。


 〈溶岩(lava)(bullet)!!〉


 振り下ろしたハルバードの軌道の先には拳大の岩石、ではなく、鉄をも溶かす程の高温の溶岩が現れ、周囲に熱を放ちながらサイクロプスに飛翔する。

 気配に気付いたサイクロプスが剛の方へと振り向くが、既に視界の先には飛来する溶岩が存在しており、回避も防御もできないまま、数発の溶岩弾を受けて炎を放ちながら崩れ落ちていく。

 飛翔した溶岩はサイクロプス1体に止まらず、その熱と炎により周辺の妖魔10体以上を巻き込み、塵と化していった。

 その火炎に剛は突っ込み、更に先の妖魔を狙う。


(この先は民家が多い。炎上させてはいけない。だから……この手で!)

 〈石壁(stone wall)

 剛は民家の方に高さ3m、幅30m程の壁を出現させる。

(よし!これなら大丈夫だ!)

 〈溶岩(lava)(bullet)!!〉

 剛は再び灼熱の溶岩を、妖魔に叩き付ける。その後ろは剛が生み出した石の壁。延焼する事を恐れずに全力で叩き込める。


(な……何て事?!こんなの、この間まで全く見せて無かったじゃないの?!)

 希美は剣を振るい妖魔を消し去りながら、剛が発動した特技に驚愕していた。

 先日の剛との会話を、希美は思い起こす。

(貴方は……本当に、バケモノ(・・・・)になるつもりなの……?)

 良いとか悪いとかではない。人として、そのステージに上がるのは、人では無くなる……バケモノ(・・・・)以外に、形容する言葉が無くなるからこそ、そのステージには立ち入ってはいけない事を、希美は自分の体験として理解していた。

(神野くんは……[人]じゃなきゃダメでしょ!)

 剣を振るい、妖魔を薙ぎ倒しながら、希美は決意する。



 〈法力(energy)吸引(drain)



 希美はこれまで使わなかった黒の法力を放ち、妖魔の集団に叩き込む。

 特技範囲内の妖魔は成すすべも無く力を失い、地面に倒れてそのまま消滅していく。

 法力吸引――その名前の通り、特技で指定した範囲内の生き物……妖魔であれ、人であれ……その身に持つ法力を、奪い取ると言う[黒]の個性の特技の一つである。

 そして、奪い取った膨大な法力を手にした希美は、次なる特技を繰り出す。



 〈(instant)(death)



 希美は暴れまわるランクB妖魔のケルベロスをターゲットに、黒の特技を放つ。

 走り回り、そこにいる人という人を食い散らかしていたケルベロスは、希美が静かに特技を発動した直後、身を震わせて……それこそミキサーにでもかけられたように激しく震えた直後、甲高い悲鳴を吐き出した後に硬直して横倒しに倒れ、塵のように消滅していく。

 希美が持つ黒の個性の真骨頂であり――忌み嫌われるべき、妖魔の命を奪う事を主体とした、恐るべき程の力を秘めた特技であった。


(これは想像以上に凄まじいですね……)

 4色の個性を駆使して妖魔を翻弄している御魂だが、希美が発動した特技を肌で感じて慄いた。

 唯一、保持していない黒の個性から放たれた特技は、SUAD最強とうたわれる御魂からしても理解の範囲を超えている。当然ながら、妖魔殲滅のためのSUADであり、妖魔殲滅のための特技であるが、黒の個性の特技は異質・・過ぎた。

(そして、神野くんも……成長ではなく、進化、と言った方が正しいかもしれませんね……)

 先程から剛が発動している溶岩弾――先週までは岩石弾としてしか発動していなかった――と、石壁を使った戦い方に、既に一般のSUAD隊員を超えた対妖魔の対応力を感じ取っていた。


 100人を超えるトーイチ生徒が妖魔との戦闘を繰り広げている中、翔は奈緒を援護するように1体、また1体と確実に妖魔を仕留めていた。

 奈緒は相変わらずハンマーの重さを活かして、くるくると回転しながら妖魔を文字通り消し飛ばしているが、回り始めると方向の制御が利かないため、取り零した妖魔を翔がフォローしている。

(戦闘スタイルの相性が良いのは分かるが……何でコイツなんだよ……)

 頭の中でボヤキながらも、翔は奈緒の動きに合わせて妖魔との戦いを続けていく。


 〈(diamond)(dust)!〉

 希美が小型妖魔の群れに向かって青の特技を発動させると、陽光に煌めく無数の氷結が発生し、妖魔を悉く氷漬けにする。

 氷漬けになった妖魔は瞬時に命を奪われ、砕け散って特技で発動させたものとは異なる氷霧となり、街灯の灯りを乱反射させて辺りを幻想的な輝きで満たす。

 だが希美はそのような光景に目を奪われる事無く、次なる討伐相手を目掛けて駆けて行った。


 〈岩石(stone)(bullet)!〉

 家屋や木々が近いなど、延焼の危険性がある場所では溶岩弾では無く岩石弾と使い分けている剛が、ランクC妖魔のトロルに対して幾つもの岩石を打ち出し、破砕して消散させる。

 剛自身は岩石弾を打ち出すと同時に駆け出し、ハルバードで小型妖魔を殴り飛ばし、周囲からその数を減らし続けていく。

 妖魔が消滅して生じた空白地帯の先を見ると、周囲の妖魔を蹂躙し尽くした希美の姿が見えた。

「星野さん!そっちは?!」

 駆け寄って来る剛の声に気付いた希美も剛の方に駆け寄り、二人は背中合わせで周囲を警戒する。

「そろそろ……終わりってところでしょうか。神野くんは怪我などありませんか?」

「俺は大丈夫だよ。星野さん……も問題なさそうだね」


 妖魔がほぼ退治し尽くされ、剛と希美は周囲に気を配りながらも警戒を解く。

 戦闘の響きは殆ど聞こえなくなり、今は消防車や救急車が各地から集まり始め、被害者の収容と火災の鎮火に取り掛かろうとしていた。

 離れた先を見ると、現場まで搭乗してきた装甲輸送車の周囲にトーイチの生徒が集まり始めている。

 剛と希美も装甲輸送車に向けて歩き出すが、歩いている最中に希美が剛に向かって語り掛ける。

「神野くん、少しお願い、と言うか、提案があります」

 ん?と剛は思って希美の方を見ると、希美は真顔のまま言葉を続ける。

「戦っている最中だけど、声を掛ける時に『神野くん』って呼ぶの、少し手間だと思ったの。神野くんも、そう感じた事ない?」

 言われてみると、確かにそうだな――剛は希美が言っている事に納得して頷く。


「だからね。これからは『剛』って呼ぶ事にする。だから、神野くん……剛も私の事は『希美』って呼んで貰えるかな」


 希美の提案に剛は面食らう。心の中では既に『希美』で呼んでいたが、流石に直接呼ぶのに下の名前を、しかも呼び捨てと言うのは抵抗感があった。

「え、えと……希美……」

「はい、剛」

 照れながら希美の名を呼んだ剛に対して、希美ははにかむような笑顔で答える。

 その二人の様子を少し離れていた所から眺めていた奈緒は、きゃ~~、彼ぴっぴ~~♪『希美』キリッ!『剛』はぁと♪きゃ~~♪などとはしゃいでおり、また翔から頭に軽くチョップを食らう。

(とは言え……これで付き合っていないって言われても、最早信じられんレベルだな……)


 装甲輸送車に戻ると、そこにはいつも通りニコニコとした笑顔……ではなく、神妙な顔付きをしている御魂が、他の教官と話をしていた。

 何かあったのかと思い希美が御魂に近寄り、剛も希美の後を付いて行くと、希美の姿を見止めた御魂が希美の方に向き直る。

「丁度良いところに。星野さんにも関わる話なので、お伝えします」

 その御魂の口調から、良からぬ知らせである事を感じ取った剛と希美は、次の御魂の言葉に身構え――想像以上の衝撃の言葉を聞くのであった。



「令和島収容所が襲撃され……天道光が脱走しました」

第40話 『I Call Your Name』 The Beatles

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