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Limitless  作者: 神 賢一
第三章 Slipped Away

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第39話 タチムカウ ―狂い咲く人間の証明―

 月が替わり7月になると、一気に夏の暑さ……では無く、まだ明けない梅雨の長雨の影響でむしろ肌寒い位の日もあり、梅雨入り以降は日々登下校時の気温に合わせてどこまで薄着――あるいは厚着するか、剛達を悩ませていた。

「雨は降る降る、人馬は濡れる。越すに越されぬ田原坂、って奴かな」

 新宿駅からトーイチに向かう道中で、剛と並んで歩く翔が傘を差して歩きながら言う。

「何だそれ?」

「西南戦争で征討軍が、熊本の田原坂ってところで反乱を起こした士族と戦ったけど、中々突破できなかったって話だよ」

 剛は何故突然西南戦争?と思ったが、聞いても仕方が無いと思い、正面を向いてトーイチへの通学路を歩み続ける。


 その日は1年CクラスとDクラスの合同の格技授業が行われた。

 普段は手合わせする事が無い別クラスの生徒との模擬戦は、3カ月近く続けて来た同じクラスの生徒と実施するのとはまた異なる発見がある。

「げ、最初の相手が桐野かよ」

「本田と手合わせするのは初めてだな。大分上達してるって話じゃないか。楽しみだ」

 第6格技室の一角で、翔は細身の木剣、桐野は木刀を持ち、向かい合う。

 初めの声で先手を打ったのは翔。突きを主体としたフェンシングのような攻撃を繰り出すが、流石は中学時代に都大会まで駒を進めた桐野は避け、受け流し、冷静に凌ぐ。

 翔の連撃を見切った桐野は小手――翔の右手を狙って細かい斬り込みを図るが、その意図に気付いた翔は咄嗟に手を引いて細剣で桐野の木刀を受け止める。


「思った以上にやるな」

 桐野は素早く半歩引いて正眼に構え直す。対する翔は半身になり剣先を桐野に向けて構える。

「最強女子に稽古して貰ってるんでね」

 敢えて奈緒の事は頭から追い出す翔。桐野は翔と剛が希美達と模擬戦をやっていると言う話を思い返す。

「なら、遠慮は要らないな」

 素早く桐野が踏み込んで翔の細剣を上から叩いて攻撃できないようにし、素早く面を狙うが、翔は右に跳ねて叩き落された細剣を下から振るって胴を狙うと、桐野の木刀が軌道を変えて翔の細剣と激しく打ち合う。

(こいつ……本当に未経験かよ……)

 想定以上の翔の動きに、桐野は内心舌を巻くことになっていた。


「あー負けた負けた。やっぱ桐野(つえ)ぇな」

 剛の所に戻って来た翔はすっきりした顔をしている。負けたとは言え、剣道有段者の桐野相手に2分半も互角に近い戦いを繰り広げたのである。

「でも翔も惜しい攻撃がいくつもあったよ」

「惜しいじゃダメなんだよなぁ」

 そんな話をしていると剛の名前が呼ばれ、Dクラスの生徒と模擬戦を始めるのであった。


「剛ちゃん……全然疲れてないよね?」

 模擬戦を終えて帰って来た剛に対して翔が声を掛ける。

「うーん……流石に疲れはしなかったかな」

 それもその筈である。模擬戦用の木製のポールアックスを持った剛に対峙したのはDクラスの槍使いの生徒。間合いとしてはほぼ同じなのだが、開始直後の槍の突きを回避した剛は、二度目の突きをポールアックスで弾き上げると穂先を相手の喉元に突き付けていた。

 決着が付くまで僅か7秒。翔は心底から剛の相手に同情していた。

「これで心折れちゃわなきゃ良いけどねぇ」

「そうは言っても、手加減するのも失礼じゃないかと思うんだよなぁ」

 剛としては、手練れの桐野と模擬戦ができた翔を羨ましく思っている。桐野相手であれば、勝てないまでもそこそこ良い模擬戦ができるんじゃないかと考えたが、残念ながらその日の授業で桐野と対戦する事は無かった。


 その日の放課後――

 木曜日なので剛は希美と、翔は奈緒と、第10格技室で模擬戦を行っていた。

 2か月以上毎週2回続けて来た事から、最初の頃のように打込稽古や型稽古では無く、剛も翔も本格的な試合稽古を相手と行っていた。

 5分間の模擬戦を2回実施し、2回目の感想をお互いに言い合った後、3回目に入ろうとしたその時――

 ≪対妖魔警報発令。対妖魔警報発令。妖魔出現場所は杉並区大宮。推定妖魔出現数は800。校内に居る特技科の生徒は特装具を着用、特装器所持の上、地下駐車場に集合せよ。繰り返します!対妖魔警報発令……≫

 剛は希美と顔を見合わせ、頷く希美の姿を見た後に翔の方を見ると、翔も奈緒も黙って頷く。

 4人は急いでロッカールームに向かい、校内アナウンスで指定された通りに地下駐車場に向かう。


 地下駐車場には150人程のトーイチ生徒が集まった。特技科の1/3程度の生徒が校内に残っていた事になる。

 指揮を執る担当教官から説明が始まり、東京メトロ方南町駅の少し先、大宮八幡宮近くに800体程の妖魔が出現していると言う事である。

 現地までは装甲輸送車に乗り、トーイチの北側にある裏門から北通りに出て、直結する方南通りを通って15分程で到着する見込みとの事。

 1台当たり10人の生徒が後部ハッチから乗り込み、教官二人が運転席と助手席に乗り、乗り込み次第順次トーイチから緊急出動する。

 有事であり緊急出動であるため、装甲輸送車は赤色灯を灯しサイレンを鳴らしながら、妖魔出現現場に急行していく。


 現地に着いたトーイチ生達は急いで後部ハッチから出て、周囲を警戒する。剛のハルバードのように長柄の物や、奈緒のハンマーのように嵩張る特装器は装甲輸送車の屋根に格納場所があるため、剛は後部ハッチから降りる際に自分の特装器を取り、飛び降りるように路面に降り立つと周囲を眺め……眉をしかめる。

 それほど多くは無いが、既に民間人に被害が出ており、視界に入るだけで10人程の死体が路上や歩道上に倒れており……中には妖魔に喰われている死体もある。

 教官は直ちに指示を出し、1年生は民間人の避難誘導と護衛、2年生、3年生が妖魔討伐に走り出すのだが、1年生の中には初めて死体を見たのか、路上にうずくまり嘔吐する者もいた。

 その中で剛・翔・希美・奈緒の4人は1年生であるが、御魂から妖魔討伐を行うように指示されていた。


 希美は妖魔の群れが濃い場所を見定め、剛を従えて駆け出す。民間人の救助は勿論重要だが、先に数を減らさなくては避難や護衛を行うにも妖魔の群れに囲まれるおそれがある。

 逃げ遅れた民間人がいない事を確認した希美は、剣を横薙ぎに振るう。

 〈飛翔(leaping)(slash)!〉

 希美は得意とする遠距離攻撃の特技を発動させ、風の刃が飛翔してゴブリンやコボルドを何体も切り裂く。

 〈岩石(stone)(bullet)!〉

 剛も妖魔が多数いる方向に向けて、拳大の石礫を飛ばして数体の妖魔を倒す。


 次の獲物を探しに、剛と希美は走り始める。その走る光景の中で……何十回もの転生で、何百人、何千人と言った死体を見て来た剛ではあったが、流石に気分が滅入る。

 死、と言う物には自分が経験を重ねてきた事から嫌悪感は薄らいだが、他人の死に対しての忌避感がやわらぐ事はなかった。

 ましてや、守れなかった――守る事は余程でなければ叶わなかったのだが――命が失われた状況を見て、剛は慙愧ざんきの念に駆られる。

 迷いが生じている剛に対して、ちらっと見た希美が声を上げる。

「神野くん、思い上がらないで!私たちは神じゃない!だから、今ある命を助ける事が私達に課せられた事です!」


 ああ、凄いな……

 剛は希美の言ってる事を、意図してる事を、気付いていなかった己を恥じる。

 希美はお粗末な英雄願望など持っていない。それどころか、極めて現実主義で、有るものと無いものを厳密に区別している。

 だからこそ、民間人に被害が出ている今現在でも、感情や衝動に流される事も無く、為すべき事を為す、それだけを考えている事が剛にも伝わった。

 同じように悔しい思いを乗り越えて来たからこそ、己の為すべき事をしっかりと希美は見据えているのだろう、と。


 ならば……と思い、剛はハルバードを持つ手に力を籠め、妖魔の群衆に斬り込んで行く。

第39話 『タチムカウ -狂い咲く人間の証明-』 筋肉少女帯

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