第38話 Innocent Colors
御魂先生に特技について教えを乞うた日以来、剛と希美は毎日のように放課後は格技室に足を運んでいた。
月曜日と木曜日は、翔と奈緒も同行して1対1の模擬戦を今まで通り実施。
それ以外の日は、第3または第4格技室に入り、剛の特技を鍛える修練を繰り返していた。
模擬戦を行った翌日の金曜日――
第3格技室には、剛・翔・希美・奈緒と、御魂が顔を合わせていた。
個性としては、剛が緑、翔が青、奈緒が赤。希美が黒青赤の3色で翔と奈緒をカバーしており、希美がカバーできない個性の緑を御魂がカバーする事で、それぞれの特技を強化する事ができるメンバー構成――希美の黒の個性だけは誰も持っていなかったが――となっている。
相変わらず眼鏡の奥でニコニコ笑っている御魂が、自分が担当する剛に声を掛ける。
「神野くんは向こうでやりましょう。この10日程でどの位特技を身に着けたか、見せてもらえますでしょうか」
はい、と頷いた剛は特装器を手にして、先週岩石弾を発動させた的があるブース……では無く、20m四方の壁に囲まれたエリアに向かった。
「始めます」
剛が声を掛けると、御魂がニコニコしたまま頷く。
気持ちを落ち着かせるため大きく息を吸い込み、フーーっと息を吐くと、型の高さに右手を突き出して掌を遠くに向ける。
〈岩石弾〉
剛が法力を込めて特技を口にすると、僅かなタイムラグで合計10個の拳大の石が宙に発生して唸りを上げて飛んで行った。
(ほう……この短時間でここまでできるようになりましたか……5秒も経たない時間で10発は、実戦でもかなり有効ですね。)
御魂は笑顔でちょっとした驚きを隠したまま、剛の上達を認める。
「次、行きます」
御魂は、ん?と思った。前回手本を見せたのは岩石弾のみで、それだけでも充分な上達が見れたのである。
剛は徐にしゃがんで右手を地面に付ける。
〈石壁〉
すると剛の後方を除く3面に、縦横3mくらいの石の壁が瞬時に出来上がる。
剛が地面から手を放して立ち上がると、石の壁は徐々に消滅していく。
(岩石弾だけじゃなくて、石壁も……どれだけ努力したんでしょうね……)
そんな御魂の思いを剛は簡単にひっくり返す。
「最後です」
剛は両手を前に出して、指をまっすぐ伸ばして左右の親指と人差し指で三角形を作る。
〈火口炎〉
(何……だと……?!)
特技を聞いて、流石の御魂も笑顔を消す。
視線を剛の先に向けると、剛から15m程先の地面に直径30cm程の穴が発生し、そこから灼熱のマグマが高さ5m程に噴き上がる。
(この短時間で3種類の特技を、しかも今みたいに範囲や規模をコントロールすると言った、それなりに使いこなすようになるとは……恐ろしい子ですね……)
噴き上がるマグマの影響で周囲は急激に気温が上昇するが、気温だけが原因ではない汗をかいた御魂は、少し俯いて眼鏡のブリッジを指で押し……笑顔を張り付かせて顔を上げた。
「やあ、困りましたねぇ。この特技は街中で使うには危険すぎますね」
30秒程続いたマグマの噴出が収まり、熱せられた溶鉱炉のような熱さが徐々に引いていったところで剛は額の汗を拭う。
「どうでしたか?」
剛は御魂の方に振り向いて、意見を聞こうとする。
御魂はニコニコとした笑顔を崩す事無く、少し考えて剛に答える。
「どの特技も中々凄いですね。岩石弾も充分使いこなしているようですし、石壁も火口炎も実戦使用に耐えられるレベルですね」
その言葉に、剛は緊張を解いて微笑する。
「しかし、この間私の方から教えたのは岩石弾だけでしたよね。他の二つはどうやって覚えたのですか?」
剛に質問してみたものの、御魂は何となく答えを想像できていた。
石壁は初歩的な特技で広く知られているし、火口炎はトーイチの複数の生徒が使えるがいずれも上級生なので、剛と面識があるとは思えない。だとすると、知識は書籍かネット……恐らく後者だろう、と推測する。
「どちらも以前ネットの動画で見た事がありました。緑の個性は大地に根差した物、と考えた時に、思い浮かんだのが石壁と火口炎でしたので、イメージを固めて特技を使おうと何度か……何十回か、ですが、試したら特技が発動しました」
やはりか……御魂は自分の推測が当たっていた事に納得するが、逆に剛のここまでの急激な成長に内心驚いていた。
特技と言うものは本来1週間2週間で習得できるものではない……のだが、剛は10日程で1つの特技を習熟させ、2つの特技を習得しているのである。常識では考えられない習得速度であり、場合によっては今後指導を行うにあたってのモデルケースになり得ると、御魂は考えていた。
「……やはり、星野さんのおかげ、ですか?」
少し意地悪く、御魂は相変わらずニコニコ顔で剛に振るが、振られた剛は意にも介さず肯定する。
「ええ、星野さんが特訓に付き合ってくれて、細かく指摘してくれてなければ、まだどちらの特技も使えてなかったと思います」
(若いっていいですねぇ……)
剛に対する皮肉が通じず、御魂は苦笑した。
「ではこちらは終わりにして、他の皆さんの状況も見に行きましょうか」
剛に対する確認は一通り終わったので、翔と奈緒……出来れば希美の特技も確認できればと思い、御魂は剛を促して3人の所に向かう。
2分程歩いた先の、的があるブースで希美達3人は特技を披露しあっていた。
「やあ、皆さんの状況はいかがですか?」
御魂がニコニコしながらブースに足を踏み入れ、剛もそれに続く。
そこでは丁度翔が特技を披露しようと、特装器を頭上に掲げているところであった。
〈空気矢!〉
翔がレイピア状の特装器を振り下ろして剣先を的に向けると、シュッと言う風切り音が聞こえ、30m先の的が前後に激しく揺れる。
特技が発動した様子に、御魂は笑顔のままうんうんと頷き、剛はほぅ、と感嘆の声を漏らす。
奈緒と入れ替わるために振り向いた翔は、無事に特技を発動できた事を見せつけるようにニヤッと剛に笑いかける。
翔の顔を見た剛は、同じようにニヤッと笑ってサムズアップした後、後ろで様子を見ていた希美の方に歩み寄る。
「翔も特技が使えるようになっていたんだね。星野さんのおかげかな」
希美は剛の姿を見止めると、僅かに頬を綻ばせて頷く。
「先週木曜日の模擬戦の時に教えてみたのだけど、1週間で発動できるようになるのは筋が良いわね」
へぇ、凄いんだ、と剛は思ったのだが、それを口にしていたら総ツッコミだったであろう。何しろ10日で1つの特技を習熟し、更に2つの特技もある程度身に付けたのだから。
その時、的がある方から部屋全体を揺るがす轟音が聴こえ、その後熱を帯びた爆風が剛達を襲った。
SUADの技術の粋を極めた施設のため、熱風による火傷や爆風の気圧変化による鼓膜の損傷などは無かったが、数十秒の間は耳が機能しない程の影響があった。
「バカ女!てめぇ何やりやがった!!」
翔が特技を発動した奈緒に対して大声で抗議すると、奈緒は人差し指を顎に当てて小首を傾げる。
「え~~、爆裂使っただけだよ~~♪」
「そんなの一人の時にやれ!!同じ部屋に他人が居る時に使う特技じゃねーだろーが!!」
相変わらずの翔と奈緒の遣り取りを聞いて、剛と希美は顔を見合わせてから、大きな溜息を吐くのであった……
そんな4人の遣り取りを、一度外した眼鏡を拭いて掛け直して眺める御魂は、苦笑いをしながら独り言ちる。
「やれやれ、今年の生徒は豊作ですかねぇ……困りましたねぇ」
第38話 『Innocent Colors』 浜田麻里




