第37話 A Kind of Magic
その日の放課後――
剛と希美は、第3格技室に特装具装着の上、特装器を手に集っていた。
第3格技室――トーイチに在る格技室の中で、第4格技室と並び特技を使用する事が許可されている格技室である。
そして第3格技室に来ている剛と希美の目の前には、163cmの希美より頭半分長身の、ニコニコ笑う眼鏡を掛けたスラリとした……いや、引き締まった、と言うのが正しい……30歳前後の優男――1年Aクラス担任、御魂衛が立っていた。
御魂衛……一見長身のそこらに居る30歳前後の男性に見えるこの男は、世界でも稀に見る4個性――白・青・赤・緑――を使いこなす、SUAD最強の隊員と言われている。
何故それほどまでの人物がトーイチの教官を務めているか……次代の最強隊員候補である希美がトーイチに入学する事から、1年以上前から赴任が内定していたのである。
「いやあ、困りましたねぇ。星野くん、当日急に放課後のトレーニングを見てくれって、意外と強引なところありますねぇ」
ニコニコしたまま御魂が愚痴を零す。
剛には軽口にしか思えない御魂の言葉であるが、希美は真に受けて頭を下げる。
「申し訳ありません。お忙しい中、無理にお願いしてしまい――」
「だ~いじょうぶですよ。あなた達の指導をするために、僕はいるのですから……そちらのキミが、噂の神野剛くんですね?」
「は、はい!よろしくお願いします!」
頭を下げる剛ではあるが、噂のって何だよ……と内心思っていた。
今回、御魂に来て貰ったのは主に剛のためであった。
剛は緑の個性を獲得してから半年程しか経っておらず、緑の法力を用いた特技として幾つか種類こそ知っていたが、実際に使用できる特技は剛力斬《power slash》くらいしか無かった。
このため、剛の強化には特技を複数使用できるようにする事が、最優先課題となる。
幸いにして御魂は黒以外の個性持ちであり、当然ながら緑の特技も多数使いこなせるため、教官役として適任と言える。
「神野くんは、緑の個性にどんなイメージを持っていますか?」
御魂は剛に対して直球の質問を投げる。それに対して剛は、これまでに得て来た知識から、御魂の質問への回答を探る。
「緑は……大地の力、そして……生命力。野生の力、と言うイメージです」
うんうん、と頷きながら、御魂は更に質問を続ける。
「じゃあ、そこから導き出せるとか、既に知ってる、でも良いけど、どう言う特技が導き出せるかな?」
剛は再度過去の知識をフル動員して、緑の特技を列挙する。
「岩石弾、蔦の鞭、肉体強化、辺りでしょうか……」
「それだけ出てくれば良いですね。じゃあ、早速試してみましょう」
そう言うと御魂は格技室の一角を目指して歩き始める。
良く分からない剛と希美は、急いで御魂の後を追い掛ける。
1分もしないで到着したのは、特技試射場――30m程先に的が存在しており、特技、特に射出系特技を試す事ができる場所である。
10程の独立した縦長のブースが存在しており、2か所開いている手前のブースに御魂が入って行くので、剛、希美の順で後追いで入って行く。
「神野くん……さっき君が言った[岩石弾]ですが、具体的にどう言う物でしょうか」
そんなの簡単……と思って答えようとした剛だが、具体的に、と言われると言葉に詰まった。
「えっと……こう、石が……敵に向かって、飛んで行く……ですか……?」
ニコニコと笑ったまま、御魂はうんうんと頷く。
「じゃあ、実際に特技を使ってみてください。遠慮は要りませんよ」
突然の特技使用許可に剛は一瞬固まり、的と、御魂と、希美の間で視線が彷徨い続ける。
剛が中々特技を発動させようとしないため、御魂が進み出る。
「ほら、こんな感じです。〈岩石弾〉」
突如として現れては的に向かって高速で飛んで行く多数の物体――拳大の石――に剛は絶句して目を奪われる。
(え?……何の予備動作も無しでこんなに……)
石の弾丸が消えた後も呆然とする剛の肩を、御魂はぽんっと叩く。
「次は神野くんの番ですよ」
剛は困惑の表情を隠す事が出来ず、助けを求めるように希美の顔を見るが、希美は残念そうな顔をして首を横に振るだけだった。
(……やるしか……ない、か……)
溜め息を吐いた剛は、先程御魂が岩石弾を放った的に対して正対する。
「岩石弾!」
剛は右掌を的に向けて差し出して法力を発生させ、先程見た光景をイメージして岩石弾を放とうとする……のだが、何事も起こらない。
「え、えーと……」
特技を発生させる事が出来なかった剛は、困惑顔で御魂の方を見遣ると、ニコニコした顔のまま御魂が答える。
「困りましたねぇ。神野くん、どう言うイメージで発動しようとしましたか?」
どうい言うイメージ……それこそさっき発動前に思った事を、剛は言葉にする。
「えーと、先程先生が見せてくれました、拳大の石が的に向かって飛んで行く、です」
「その石はどこから出て来たのですか?」
御魂のその言葉で、剛は考え込んだ。
(石……石がどこから出て来た……そこらに……は、無い……え?どこかから転移みたいな方法で持ってくる?それとも法力で産み出す?どうやって……)
剛は石をその場に生じさせる方法を考え、もう一度右掌を的に向け――心の中で唱える。
(石を持ってこい!)
……しかし、何も起きない。イメージが足りないのか、この方法ではないのか、剛には判断できなかった。
じゃあ、と剛はもう一つの方法を試す。
(石よ生まれろ!)
ゴトン、と言う音が床に響いた。
剛が床を見ると、そこにはさっきまで何処にも無かった拳大の石が転がっている。
「……神野くん!」
希美が喜びと驚きが混じった声を上げる。その横で、御魂は相変わらずニコニコしているだけだった。
希美に対して剛は頷くと、もう一度考え込む。
(石は生み出す事が出来た……法力で石を作る……これは分かった。次は……どうやって飛ばすか……火薬?いや、作れるかもしれないが、そんな物は先生は使用していない……そうすると、法力そのもので押し出す……それしか無いのか……?)
「岩石弾!」
剛は法力で石を発生させ、その石を新しい法力で押し出そうとした。
……ゴトン、と言う音が、虚しく足元から響く。
(駄目だ。タイミング?力が足りない?何が原因だ……?)
その後、剛は10回以上試すが、石は足元に転がり続けていた。
(何か……根本から間違えている気がする……石を発生させる……これ自体は間違えていない。じゃあ、押し出す法力は?……石を発生させた後、再度法力を発生させようと……再度?明らかにタイムラグがあるのが、原因なのか……?)
剛はもう一度、的に向かい掌を掲げる。
そして、法力を一度放出した後、もう一つ法力を発生させる……のだが、先に放出した法力は勝手に新しく発生させた法力と一つに纏まってしまう。
(これではダメか……なら……)
次に剛は、少し多めの法力を発生させ……前後に分割させようとする。前の法力で石を発生させ、後ろの法力で押し出すと言うイメージで、特技を発動しようと考えた。
〈岩石弾!〉
その時、剛の掌の前に石が発生したと同時に、その石は凄い勢いで的に向かって飛んで行く。
あっ、と言う希美の声が聞こえ、剛が声の方を見ると希美が駆け寄って来て、剛の手を両手で押し抱く。
「神野くん、やったのよ!できたの、新しい特技!」
剛は喜ぶ希美の顔を見て嬉しさが込み上げるが、気持ちを引き締める。
「ありがとう、星野さん。でも、1つしかできてないし、岩石弾も改善しなきゃいけない。まだまだ、やらなきゃだよ」
2分後に御魂が咳払いをした事で、剛と希美は手を取り合っている事に気付き、赤面するのであった。
第37話 『A Kind of Magic』 Queen




