第34話 Meteor ―ミーティア―
300体程の妖魔の群れ――ランクBのサイクロプスやランクCのトロルを含む――に向け、トーイチ1年生の4人は特装器を手に突進して行く。
常識で考えればSUAD隊員ですら無い高校生……ましてや入学して2カ月程の1年生4人で立ち向かうにはかなり無理があるのだが、希美は現役SUAD隊員を凌駕する実力を誇り、奈緒はトーフ卒でAクラス所属の実力者、そして剛と翔も二人との模擬戦で短期間でSUAD隊員に引けを取らない程に成長していた。
〈飛翔斬!〉
吉祥寺でも見せた特技を希美が放つ。半月状の灰色の風の刃が亜音速で妖魔に迫り、10体を超えるEランク妖魔を切り裂いていく。
命を失い消滅した妖魔によって生じた空白地帯を駆け抜け、希美はオークに向かって袈裟斬りを放ち、勢いを活かして回転しながら真一文字に剣を振るって数体の妖魔を狩る。
希美はターゲットをトロル……そしてサイクロプスに定め、剣技と特技を駆使して低ランクの妖魔を殲滅していく。
「くるくるどっかーーーーん!!」
奈緒はハンマーの特装器を大きく振り回し、ハンマーの重さと勢いそのままに回転し続け、次々と妖魔を殴り倒す。
(良くアレで目が回らねぇなぁ……)
大胆な――悪く言えば大味な――攻撃の奈緒に対して、翔はレイピア形状の特装器を器用に取り廻して奈緒が討ち漏らした妖魔を突き殺し、斬り倒す。
「あはははーーー!飛んでけー!飛んでけーーー!!」
(ヤベェ……ヤベェ奴だ……)
剛は剛力斬で数体の妖魔を纏めて消し去った後、法力が漲るまで突き、斬り、払いで1体ずつ妖魔を削り減らしていた。
(一番多くの妖魔を相手しているのが希美だ。だとしたら、希美の負担を成るべく減らして、サイクロプスに専念できるようにするのが俺の役目だ!)
剛は遂に1体目のオークに対峙し、ハルバードを振り回して周りのコボルトを軽く弾き飛ばしてから、1対1の状況を作り出す。
遠慮はどこにも必要ない……剛は鋭くハルバードを突き出すと、穂先はオークの喉に突き刺さり、泥水のような汁を噴き出してオークは消滅する。
油断することなく剛はハルバードを反時計回りに一閃し、襲い掛かって来たコボルトやゴブリンを一蹴する。
(公園に居た人達は……逃げる時間を稼げたな。よし!)
剛は次なる妖魔の集団に駆け寄り、狩り始めるのであった。
作戦開始から5分程。奈緒は40体程を殴り飛ばして、そのフォローの翔は20体近くを倒していた。
剛は剛力斬で殴り飛ばすのを主体に40体程の妖魔を倒している。
そして希美は……軽く100体を超える妖魔を切り刻んでいた。
「みんな!私のところまで下がって!!」
希美が剛達3人に声を掛ける。
「はりゃほれふりゃへりょ……どっかーーーーんにゃ?」
「煩え星野さんが下がれって言ってんだよ」
どうやら目を回した奈緒を翔が後ろから脇を抱えて引きずって来る。
「……星野さん、どうするの?」
「空間が空きました。民間人も居ません。範囲特技を使います!」
希美が特装器に法力を込めると刀身が赤いオーラを纏い、一閃させた後高く掲げて声を上げる。
〈隕石群!!〉
突如として妖魔の群れの上空に数十の黒い点――隕石が現れ、その全てが発火して周囲に熱を放ち始める。
希美が掲げた剣を振り下ろすと、その動きに合わせたかのように灼熱の隕石が落下……大気圏外から飛来して来たかのような速度で降り注ぎ、妖魔を穿ち、火炎に包み込む。
サイクロプスも例外ではなく、落下した隕石により胴体を貫かれ、その熱で燃えて灰になっていった。
直撃を受けなかった妖魔も落下した隕石の灼熱に囚われ、発火して灰となり消滅していく。
「す……凄ぇ……」
翔が辛うじて声を出した頃には公園内にいた殆どの妖魔は消失しており、僅かばかりの個体が逃げ惑っている状態だった。
残党狩りを、と剛が思ったその時、背後から複数の足音が聞こえ始めて近付いて来るのに気付き、振り向くと……20名程のSUAD隊員が駆け寄って来た。
「君達はトーイチ生か……な、何だこれは?!」
幅10m、長さ30mの範囲で燃え盛る隕石による業火を見て、恐らく隊長であろうSUAD隊員は声を上げる。
背後の隊員達も、うわぁ、と言った歓声とも呻きとも取れない声を上げており、思考停止に陥っているようだった。
「国立東京第一高等学校特技科所属、星野希美、以下3名です。大方の妖魔は退治しました。ご指示をお願いします」
希美に声を掛けられ、はっとした様子で希美を……そして剛達3人を眺めた隊長は所属、官位、姓名を名乗り、言葉を続ける。
「状況をお聞きしたいので少しお時間を頂けますでしょうか」
まだ燃え盛る広範囲の猛火に圧倒されているのか、学生に対してだと言うのに丁寧な口調で述べる。
隊長からの依頼に希美が同意すると、隊長が指示を出し、剛達1人毎にSUAD隊員1名が付いて隊員達がやって来た――恐らく装甲輸送車がある――方へと案内される。
「よし、残りの妖魔を討伐する。総員散開!各自の判断で戦闘を開始せよ!」
隊長の声を背後に、剛達は公園の敷地を後にするのであった。
状況の聞き取りは装甲輸送車内で行われ、剛と希美、翔と奈緒の二組に分かれて実施された。
翔は「また鈴木さんのお守りかよ」と不満そうではあったが、奈緒と組んで戦っていたのは翔なので、そこは諦めてもらうしかないと剛から言われ、翔はぐうの音も出ない様子だった。
装甲輸送車――要するに兵員輸送のための車両なので、車内は向かい合ってベンチが存在しているだけでテーブルは無かった。
後部ハッチから入って右側に希美と剛、その向かい側にSUAD隊員が座り、IC録音機とノートパソコンを取り出した。
剛と希美は今回の妖魔の出現と討伐に関して、最初から説明していった。
剛が起伏のある場所での鍛錬を切り出した事に対して3人が同意した事、場所として箱根山がある戸山公園を選んだ事。
一度せせらぎ広場近くで型稽古を行った後、起伏がある箱根山麓付近で模擬戦を行っている最中に、対妖魔警報が戸山地区に発令された事。
箱根山頂から確認したらアスレチック広場付近に、サイクロプス1体を含む300体程の妖魔が出現していた事。
「サイクロプス、だって?!」
30歳前後のSUAD男性隊員は、ランクB妖魔の名前が出た事に驚愕した。
「はい、あれは間違いなくサイクロプスでした」
希美の答えにSUAD隊員は再度驚き……顔面を蒼白にして立ち上がり、声を上げた。
「そ、そんなのが市街地付近に現れたなんて、周辺の被害が――」
「星野さんが倒しました」
「……へ?」
剛の言葉にSUAD隊員は呆けたような顔になる。
「先程、広範囲に炎上していたのを記憶していますでしょうか。星野さんが特技で、サイクロプスを含む数十体の妖魔を退治しました」
SUAD隊員の男性はその答えを聞いて、剛と希美を交互に見ては、え?え?と言葉にならない言葉を発していた。、
(本当は100体超えてたんじゃないかと思うんだけどね……)
流石にそれを言うのは剛にも憚られたため、敢えて数十体と言ったのだが。
「ご協力感謝する。初動が早かったおかげで、民間への被害は確認されていない。残りの妖魔も討伐完了したので、これで撤収する」
漸く先程の衝撃から気を取り直したのか、本来はこうだと思われる口調で隊長が希美を先頭にした4人に言葉をかける。
「出動ご苦労様でした」
希美が隊長に対して敬礼をすると、剛と翔は見様見真似で――奈緒はトーフ時代に経験があるのか慣れた様子で――敬礼する。
SUAD隊員が装甲輸送車で帰投すると、この後は警察による現場検証が行われて公園内に留まる事が難しいので、剛達も戸山公園を離れるのであった。
第34話 『Meteor -ミーティア-』 T.M.Revolution




