第33話 The Show Must Go On
剛は初夏の日差しの中、高校指定のカバン――リュックを背負ってトーイチに向けて新宿駅から歩いていた。
国立東京第一高等学校――略称、トーイチ――に入学して既に二か月が経過している。
小金井市の自宅からトーイチまで、JR武蔵小金井駅まで歩いてからJR中央線快速に乗って新宿駅まで行き、そこからは徒歩で15分程かけて通学している。
ただ、JR中央線は時々人身事故などで運転見合わせとなるため、その場合はバスで西武新宿線の花小金井駅まで行って西武新宿駅を目指すと言う、かなり時間をロスするルートで向かわなければならなかった。
(トーサンの時は自転車だったから、そう言う自己都合以外で通学に余計な時間が掛かるって無かったよな……)
運転見合わせの場合は決まった別路線で振替輸送が行われるため、定期券の範囲外でも所定区間は料金が発生しない。
ただ、普段と違うルートになり、徒歩の距離も長くなったりするため、色々と面倒臭い事が多いのは間違いなかった。
今日はそんな面倒な事は起きず、問題なく新宿駅に到達していたのだが。
剛がトーイチ正門前に到着すると、丁度正面から希美が歩いて来るのが見えたので、剛は軽く手を上げて声を掛ける。
「星野さん、おはよう」
既に剛の存在に気付いていた希美は、近寄りながら軽く頭を下げる。
「神野くん、おはようございます」
二人は肩を並べて、昨日の模擬戦の感想を述べながら教室に向かって行った。
昼休みになり、いつもの4人で学食のテーブルに自然に集まる。
話はやはり昨日の模擬戦の事が中心となるが、その中で剛が希美に話を振る。
「星野さん、明日って空いてるかな?」
何々?デート?デート?とはしゃぐ奈緒を無視して希美は空いていると答えると、剛が提案してくる。
「格技室じゃなくて、屋外で模擬戦とかできないかなって思って。格技室での鍛錬も勿論重要だけど、妖魔と戦うのって整地された場所だけとは限らないよね?足元の起伏や草木などの視界なんかの、特装器を振るうのに障害となる物が有る場所での立ち回りを、今の内に確認できたらと思うんだ」
そんな剛の言葉に翔は成程と思い、同意する。
「うん、それなら付き合うわ。奈緒は……その顔じゃ勝手に付いてきそうね。場所は新宿中央公園で良いのかしら?」
剛は首を軽く振る。
「新宿中央公園は恐らく格技の野外講習で使うと思うから、戸山公園でどうかな、と思うんだけど」
「戸山公園……ね……」
希美は少し考える様子を見せる。
戸山公園であれば、箱根山を含めた起伏に富んだ広い緑地が存在するため、屋外での立ち回りを確認するには良さそうである。
「分かった。戸山公園にしましょう」
その後4人は集合場所や時間を確認して、翌日の屋外での模擬戦に向けて準備するのであった……
翌日午前9時――
東京メトロ副都心線西早稲田駅から明治通り沿いに100m程南に下ったファストフード店の入り口を避けるように、希美は専用の収納袋に入れた特装器を手にして3人を待っていた。
程無く希美の方に、剛と翔が同じく特装器を手に近づいて来た。
「星野さん、おはよう」
「おはよー星野さん」
「神野くん、本田くん、おはようございます」
希美と顔を合わせた後、剛は辺りを見回すが奈緒の姿が見当たらない。
「鈴木さんは……?」
「奈緒は……私が着く前に西早稲田に着いたってメール来てたんだけど……」
希美はスマホを見て、辺りを見回すがやはり奈緒の姿は見当たらない。
「あいつ、待合せ場所間違えてないか?」
翔は普段から奈緒に振り回されっぱなしなので、やや辛辣気味に答える。
その時、ファストフード店の自動ドアが開いた。
「やっほ~~♪おはよ~希美んみん、彼ぴっぴ、翔んるん♪」
ファストフード店から奈緒が――その手には食べ掛けのハンバーガーを持って――姿を現した。
「また食ってんのかよ!!」
ハンバーガーを食べ終わった奈緒は翔に向かってブーブー文句を言いながら、戸山公園の箱根山地区に向かう3人の後ろから不貞腐れながら付いて来ていた。
「翔んるん、あたしにだけ厳し~~!」
「いや、俺も呆れてるんだけど……」
「奈緒、私も呆れてるわ……」
歩き始めて3分程で右手に団地が現れ、更に進むと正面の緑がどんどん濃くなっていく。やがて道が分岐する地点に辿り着いたところで、剛が希美の顔を見る。
「どっちに行った方が良さそうかな?」
「……左に行ってみましょう。そっちの方が開けてる感じになってるみたいよ」
希美がそう言うと、一行はアスレチック広場の方を目指して進んで行った。
アスレチック広場に到着した剛達が辺りを見回すと、人は疎らで殆どは木陰で日差しを避けるように過ごしていた。
「ここだと地面がかなり均されてるな……向こうの木立の方はどうだろう?」
剛の言葉で4人は更に先に進み、起伏があり柵に囲われていない場所――縦5m、横15m程の広さの――を見付けた。
「この辺りで始めましょう。神野くんと本田くんは、こう言う起伏があるところ初めてだと思うから、特に重心気を付けてください」
4人は持って来ていた特装器を専用の収納袋から取り出し、それぞれが少し離れた場所で自分の得物の感触を確かめるように型稽古を始め、5分程した後に剛は希美と、翔は奈緒と言ったいつもの組合せで、相手を意識した型稽古に入る。
1時間程の間、足元がやや不安定な中での型稽古から全力の半分くらいの早さでの打込稽古を行った4人は、場所を箱根山近くに移していた。
「この辺りの斜面なら……柵も無いし立ち入っても良さそうだね」
箱根山の頂上に向かう斜面は柵がされて立入禁止の看板が立てられているが、逆側の斜面には柵も看板も無く、入っても問題無さそうだった。
「じゃあ、次はここでやりましょう」
本来の目的である、武器を振るうには程良く邪魔になる木立がある場所で、4人は打込稽古を再開するのであった。
≪対妖魔警報発令!対妖魔警報発令!妖魔出現場所は新宿区戸山!近隣に居る方は直ちに安全な場所に避難してください!!繰り返します!対妖魔警報発令!……≫
剛は希美と、翔は奈緒と顔を見合わせる。
「戸山ってここじゃねーかよ!」
翔が剛達の方を向いて叫ぶ。剛は希美と目を合わせて箱根山山頂を指さすと、希美が黙って頷く。
「上だ!どこに妖魔が居るか、上から確認する」
その声に4人は箱根山に駆け上がる。
戸山公園箱根山地区は、標高約44mの箱根山を中心に南側と北側――最初に稽古を行った方面――に広がっている。
「翔!南側はどうだ?!」
剛の声で翔は山南方の東西に広がる緑地帯を眺めるが、少なくとも肉眼では妖魔の姿は見当たらない。
「こっちには居なそうだ!北側はどうだ?!」
「あっ!デカいの居るよ!!」
「……サイクロプスね。さっきの方向に戻るわよ!!」
希美の声に従い、4人は箱根山の階段を二段跳び、三段跳びで駆け下り、先程まで居たアスレチック広場の方に駆けて行った。
(今回のアナウンスは『対妖魔特別警報』では無く、『対妖魔警報』だったな……多くて500体……いや、4人って考えると充分多いぞ……)
斜面を駆け下りて木立を抜け、公園の開けた場所まで来ると目の前には300体程の妖魔が存在していた。
体長4m程のランクB妖魔であるサイクロプスを中心に、2.5m程のランクC妖魔のトロルが3体程、1.8m程のランクD妖魔オークは10体程確認できた。それ以外はゴブリンやコボルトと言ったランクEの妖魔である。
〈剛力斬〉
剛は特装器に法力を込めて力任せに振るうと、5体程のゴブリンを弾き飛ばし、弾き飛ばされたゴブリンが後ろにいたゴブリンやコボルドに衝突し、衝突された一部の妖魔を含めて消滅していく。
「さあ、狩りの時間の始まりだ!!」
第33話 『The Show Must Go On』 Queen




