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Limitless  作者: 神 賢一
第二章 Through the Dark

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第31話 The Other Side

(疲れた……もうヤだ……)

 奈緒に振り回されっぱなしの希美は、帰宅後着替えもせずにベッドに顔から……俯せに倒れ込んだ。


 ――なら今日が希美んみんと彼ピくんの初デートだね!!――


(馬鹿なの?!そんなの要らないよ!何なら神野くんと模擬戦をしていた方がどれだけまし……あれ……?何で神野くん……?)

 自分の考えに疑念を持ち、希美は体を回して仰向けになり上体を起こす。

(ホントこの1か月は調子が狂う事多すぎだわ……)



 神野家の夕飯の食卓では、恵が気持ち悪い程ニヤニヤしている。

「姉ちゃん……キモいんだけど……」

 それでもニヤニヤ……むしろニマニマと言う笑顔で恵が独り言ちる。

「剛がデート……剛がデート……ぷぷっ……」

 はぁーっと剛は溜め息を吐き、晩のおかずに手を付け始める。すると父親の豊が剛に話し掛ける。

「剛も高校生になったら早速デートか。同じトーイチの子なのか?」

 剛はもう一度はぁーっと溜め息を吐く。

「デートじゃ無いってば……いつも模擬戦やってるメンバーで、買い物と昼ご飯食べただけだよ」

「それをデートって言うんじゃないの~」

 この女は……剛は忌々し気に恵を睨み付ける。

「だから翔と奈緒って子もいたんだって」

「ダブルデートね!」

 ダメだ……それにしてもこのアネキ、ノリノリである。そんなフレーズが剛の頭の中に浮かぶ。

「そんな姉ちゃんこそデートしてるなんて話全然聞かないんだけど?高3にもなって彼氏の一人もいないと?」

「よろしい。ならば戦争だ」



「お兄ちゃん、何か疲れてない?」

 翔の小学6年生の妹、翼が心配そうに声を掛ける。

 夕飯を食べながら翔が苦笑いを浮かべて翼に言葉を返す。

「あぁ……正直、疲れる一日だったよ。振り回されまくって……多分剛ちゃんも星野さんも疲れてるんじゃないかな」

 星野さん、と言う名前を聞いて翼が目を輝かせる。

「星野さんって同級生?剛ちゃんの彼女?デートしてたの?!ちゅーしたの?!」」

「断じてデートでは無いしちゅーもしない」




 週が明けた月曜日。

 剛はいつも通り朝食を取った後制服に着替え、駅まで歩いてJR中央線で新宿駅まで移動後、徒歩でトーイチを目指していた。

 高架から階段で地上の歩道に降りたところで、後ろから声が掛かる。

「あーーっ!彼ピくんだーーー!」

 成程、翔の気持ちが分かるな……そう思いながらも、剛は足を止めて声の主――勿論鈴木奈緒なのだが――がやって来るのを待つ。

「鈴木さんおはよう」

「やだー彼ピくん♪奈緒って呼んだよー奈緒だよ♪」

「ごめん無理。てか、彼ピってやめてくれると嬉しいかな」

「えーー、希美んみんの彼ピじゃ~~~ん」

「いや、そういう関係じゃないから」


「え?でも彼ピくん、希美んの事良く知ってるっぽいじゃん?」

(あ、短縮された。「希美んみん」って言ってたのが短くなってる。)

 とてもどうでも良い事を剛は考えた。

「星野さんには1年前の吉祥寺で助けられたからね。ってか、その彼ピって呼び方止めてもらえるかな?」

「1年前の吉祥寺……?あぁ……あの日、ね……」

「うん?何かあったの?いや勿論妖魔が大量出現して、修羅まで現れたから色々あったのは分かるけど」

「ん、まぁその話はまた後でね~~」

 気が付いたら教室前まで来ており、希美はひらひらと手を振りながら1年Aクラスの教室に入って行った。

(何だろ……思わせ振りだなぁ……)

 仕方無く剛も1年Cクラスの教室に向かうのであった。


 昼休みの学食。クラスが違うと言うのに誰が決めた訳でも無く、剛・翔・希美・奈緒の4人は4人掛けのテーブルに集まっていた。

 銘々自分で選んだ昼食を取りながら、今朝の剛と奈緒の話に焦点が移る。

「あの日はトーフの2年生……翌日から3年生、でしょ。AクラスからCクラスの生徒は3年になってから使用する特装の受取日だったの」

「特装の受取日……成程、だから星野さんは特装器の長剣を持っていたんだ」

 剛が納得したように言うが、それに対して希美が反論する。

「でも、本来なら学生の身分の間、特装は持ち出せないでしょ」

 希美に言われて剛はあっと驚いた顔をするが、希美は更に話を続ける。

「その日は卒業した3年生……殆どの人はトーイチに進学するんだけど、ロッカーに特装を取りに来て、トーイチに進学する人はトーイチの方のロッカーに移動、他校に進学する人は入学式の日まで許可を取って一時保管するの」

「ん?それって他校に進学する卒業生は持ち出せるって話だけど、何で星野さんが特装持ってるって話に?」

 話が繋がってこない翔が疑問を口にすると、奈緒がそれに対して答える。

「トーフのロッカーは卒業生がまだ使用している……つまり、受け取った私達はまだロッカーに仕舞う事が出来ないから、同じように許可を取って特装を一時保管、と言う事になるの」


「ん?でも星野さんって自宅は中野坂上って言ってたよね。何で吉祥寺に?」

 新たな疑問が浮かび、剛が希美の方を見て口にすると奈緒が話を引き継ぐ。

「その日は希美がウチに来てたの」

「鈴木さんの家……三鷹、か」

「そう、三鷹なんだけど。三鷹市だけど最寄駅は井の頭公園駅だし、JRなら三鷹駅より吉祥寺駅の方が近いのね。井の頭公園って実は三鷹市だったりするのよ」

 奈緒の言葉に翔がへぇ、と軽く驚く。吉祥寺駅は武蔵野市域に存在しており、徒歩5分程の井の頭公園はてっきり武蔵野市だと思っていた。

「あ、翔んるんのその顔~~。知らなかったわね~~」

 うるせぇ、と翔が嫌な顔をするが、奈緒の説明に剛は納得する。

「そうか。だから鈴木さんは京王線使って通学してるんだね」


「話が脱線しちゃったね。で、希美とウチで話してる時に対妖魔特別警報が吉祥寺駅北口周辺に出て、現地に向かったの。ウチから吉祥寺駅まで歩いても20分かからないし、井の頭公園を突っ切って走れば5分くらいだから」

「あのハンマー持って井の頭公園突っ切ったのかよ!!」

 翔の突っ込みに剛は奈緒がハンマー持って井の頭公園を疾走する姿を想像し……何とも言えない光景に微妙な顔をする。

「あれ、でもあの日は3月31日でまだ2年生だったって事は、妖魔との戦闘は禁止されているんじゃなかったの?」

 昼食のためテーブルについて何度目かの疑問を剛は希美と奈緒に尋ねる。

「原則、で言えば駄目なんだけど、特装を手にした事で妖魔討伐の義務が発生するの。今まであんなタイミングで妖魔が出現した事が無かったから、特例措置らしいわ」

 希美の答えに剛の疑問は氷解する。


「話は変わるけど、今日の放課後模擬戦やってから帰らない?」

「え?別に構わないけど、今日は木曜日じゃなくて月曜日だよね」

 唐突な希美の提案に剛は質問する。ゴールデンウイーク前から毎週木曜日に――初回は祝日だったので金曜日に実施してまだ2回だが――剛は希美と、翔は奈緒と格技室で模擬戦や型稽古などを行っているが、今日もやらないかと希美は言うのだ。

「同じ相手と続けるのも良いけど、今日は神野くんは奈緒と、本田くんは私と手合わせしてみるのはどうかな、と思ったの」


「相手の得物が変わると立ち回りも変わる、と言う事か。俺は良いけど剛ちゃんどうする?」

 翔としては色々面倒臭い奈緒を剛に押し付けられる――そう言う意図があるのだが、剛はその真意に気付いていない。

「ん……そうか。相手が剣の時の動き、ハンマーやメイスの殴打武器と時の動き、槍や俺のハルバードみたいな長柄武器の時の動き。違う武器に対する動きも経験が必要か」

 剛が同意を示した事に翔は内心でほくそ笑んでいたが、表情に出さず澄まし顔で希美に答える。

「じゃあ決まりだね。放課後はお手合わせよろしく、星野さん」

第31話 『The Other Side』 Aerosmith

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