第30話 Yeah! めっちゃホリディ
カン!カンカン!カン!カンカン……
第4格技室に響き渡る甲高い木が打ち合わされる音――翔が間合いに入り、右手に持つ木剣で突き、斬り払うのを、剛はポールアックスで受けては柄の部分で薙ぎ払う。
剛としては自分の間合い……木剣が届かない槍の間合いで戦いたいのだが、距離を取ろうとするとすかさず翔が間合いを詰め、常に翔の間合いとなっている。
得物も剛がポールアックスと言うそれなりの重量がある物に対し、翔は木剣でも特装器のレイピアに近い細剣を遣っているため普通の木剣より軽く、そのため剣道など未経験の翔でも手数が経験者の希美とあまり変わらないため、剛は防戦一方の状況だった。
「剛ちゃん!下がってばっかりじゃ戦いにならないよ!」
普段は決して見せない獰猛な笑みを浮かべながら、翔は剛を挑発しつつ剣を振るう。
だが、希美と模擬戦を行っている剛からすると翔の剣筋は鋭さが欠けており、冷静にポールアックスの柄で受けて自分の体に剣を届かせていない。
何度も繰り返される翔の斬撃を受けたその時、剛は単に受けるのではなく強く弾くようにポールアックスの柄を叩き付ける。
その勢いに押された翔は僅かに体勢を崩すが、その一瞬を付いて剛は穂先を繰り出す。その早さは先日希美から指摘されて修正し、鋭くなったと認められた一閃。
翔は崩した体勢のままスウェーの要領で体を反らして剛の突きを避け、そのままバク転して距離を取って立ち上がり木剣を構える。
その様子を見ていた、模擬戦を行っていない周りの生徒から騒めきが起こる。
しかし、距離を取ってしまっては完全に剛の間合いに変わってしまう。
突き、斬り付け、薙ぎ払いを剛は繰り出し、今度は翔が防戦一方になる。
何度目かの攻撃を仕掛けたところで剛は突き……と見せかけて、翔の木剣を斧頭で引っ掛けて右に――翔にとっては左に――振るって、翔の手から木剣を奪い取る。
周りの生徒からの反応は騒めきからどよめきに変わった。
一瞬呆気に取られた翔は、苦笑いを浮かべて両手を上げる。
「あー負けた負けた。剛ちゃんマジ強いわー」
「まさか翔があんなに打ち込んでくるとは思ってなかったよ」
模擬戦を別の生徒達と入れ替わった剛は、翔に率直な感想を述べる。
「ま、ね。剛ちゃんが希美タンと模擬戦やって腕上げてるけど、俺も鈴木さんと型稽古とか打込とかやってるからね」
事も無げに翔が答える。
「伊達に鈴木さんもAクラスじゃないって事だな。トーフで3年間みっちり格技の授業やってたんだろうし」
ん。と返事をする翔。
「指摘が適切なんだよな。使ってる武器は真反対って言って良い位なのに」
翔がそう言うと、剛は昨日の奈緒の姿――普通の女子高生と言った体格なのに、筋骨隆々の大男が持ってそうな巨大なハンマーを振り回す様子を思い返し、何となく残念な感覚に襲われる。
「うん……何で、あの巨大ハンマーにしたんだろうな……」
「あ、翔んるんに彼ピくんだー!」
放課後となり帰宅するために廊下を歩いていた剛と翔の後ろから明らかに二人を呼ぶ声が聞こえたが、剛が隣の翔を見ると苦虫を噛み潰したような表情をして……翔は足早に歩き始める。
「あーん。翔んるん待ってよ~♪」
後ろから走って来て剛を追い越し、翔の腕を掴んだのは――勿論奈緒である。
「あー!鬱陶しい!離せ!」
「も~翔んるんつれないんだから~」
じゃれ合っている二人に呆れた剛は奈緒が走って来た方を見遣ると、げんなりとした顔をして額に手を当てている希美の姿があった。
(あー……まあ、そういう気持ちになるよね……)
昇降口に行くまでの間、奈緒はひたすら翔や剛、希美に話し掛ける。
「あ!そうだ!」
その奈緒の一言に、翔はビクッと身を震わせ、希美は奈緒に怪訝そうな視線を向ける。
(コイツ何を言い始めるんだ……?)
(奈緒、変な事言わないでよね……)
そんな二人の思惑を無視して奈緒は話を続ける。
「彼ピくんと翔んるん、明日は予定無いよね?無いよね!うん、じゃあ決まり!」
奈緒の言葉に剛はきょとんとした表情になり、翔と希美の顔は引き攣る。
「折角のお休みだし、4人で遊びに行こう!」
――翌日、午前10時。中野駅北口――
ロータリー東寄りにある木を囲んだ円形ベンチが待合せ場所に選ばれ、剛と翔は良く分からないままベンチ前に立っていた。
殆ど待つ事無く、改札口から希美が姿を現し、剛と翔の姿を見止めると歩み寄って来る。
「神野くん、本田くん、おはようございます」
「星野さんおはようございます」
「おはよー」
挨拶を交わした後、奈緒がまだ来ていない事を確認すると、二人に小声で話し掛ける。
「何も本気にしなくても良かったのよ……態々来なくても」
「そうなんだけど……来なかったら週明け、何をやらかすか分からないでしょ……」
色々巻き込まれて警戒感MAXの翔が心底嫌そうな顔をして答える。
「おーい、希美んみーん、彼ピくーん、翔んるーん♪」
声はサンモールの方から聞こえたので3人は顔を向けると、奈緒が3人に向かって横断歩道を渡って近づいて来る――何故かたい焼きを齧りながら――。
「何食ってんだよっ!」
翔が小声で怒鳴ると言う器用な事をするが、奈緒はへらへら笑って意にも介していない。
「美味しいって有名だったから買ってみたかったんだー。ん~~、あんこの甘さが丁度良い!」
剛は呆れて希美に視線を向けると、希美も残念そうな表情で頭を振って軽く溜め息を吐く。
「それより早く行こうよ!時間が勿体ない!」
「お前が言うな!」
4人は2列になってサンモールの中を5分程歩き、最初の目当ての中野ブロードウェイの入口に到着していた。
その間も奈緒と翔は言い合い――剛と希美は「夫婦漫才か?」と思うような、傍から見たらコントみたいな――を続けていた。
その二人の後ろを剛と希美が付いて行き、一行は中野ブロードウェイの中に入って行く。
中に入ると目に付くのは、ジャンク屋、洋菓子店、カメラ屋にパソコンパーツショップ、奥の方にはブティックのようなファッション関連の店、そして左手側にはゲーセンの入口が見える。
(凄いな……ここまで見事に統一感が無いってのも……)
4人は2時間程かけて、中野ブロードウェイを1階から4階まで、奈緒が先導して――と言うより好き勝手に歩き回って――見て回り、気になった店には中に入って商品を見たりした。
一通り回ったところで12時を少し過ぎた時刻になっていた。
「お腹空いたーー。ご飯ご飯ーーー」
奈緒が騒ぎ出したので、剛はスマホのマップ機能で飲食店を探し始める。
「ここはどうかな?牛丼メインだけど定食なんかもあるチェーンでそんなに高くないはずだよ」
「えーー。却下。それより、地下1階にあるって書いてあったインド料理がいいなーー」
「いや攻めすぎだろ」
あれじゃない、これじゃないと言い合った結果、無難にサンモール内にある有名チェーンのファストフード店に入るのであった。
「え?彼ピくんと希美んみんって元からの知り合いじゃないの?」
フライドポテトを齧りながら奈緒が疑問を口にする。
「いや、剛ちゃんの入学初日のやらかし見てなかったの?」
翔の言葉にハンバーガーを口にしていた剛は喉に詰まらせかけて、慌ててコーラで流し込む。
「まあ、会った事はあるらしいんだけど……状況が状況だったから、私も全然覚えてなくて」
ふーん、と言った顔をした奈緒は直ぐに笑顔に切り替えて発言を……爆弾を投下する。
「なら今日が希美んみんと彼ピくんの初デートだね!!」
第30話 『Yeah! めっちゃホリディ』 松浦亜弥




