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Limitless  作者: 神 賢一
第二章 Through the Dark

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第26話 君のためにできること

 剛と希美の話し合い――と言う名の、奈緒による謎の決定事項を押し付けられてから2日後の放課後、剛と翔はおのおのの得物……模擬戦なので特装器ではなく木製の、剛はポールアックス、翔は細身の片手剣を手に、第7格技室に来ている。

「なあ、翔……どうしてこうなった……」

「……俺にもさっぱり分からないよ……」

 釈然としないと言った表情で第7格技室の空いている一角で佇んでいる二人の元に、準備が整ったのかこれまた憮然とした表情の希美と、元気溌剌(はつらつ)と言った感じの奈緒がやって来る。

「やっぴー彼ピくん、翔んるん、お待たせー♪」

 奈緒のノリが完全にダブルデートの待ち合わせだが、これから始めるのはデートなんかじゃなく模擬戦である。

「奈緒……遊びに行くんじゃないのよ……?」

 頭が痛そうな表情――実際に精神的な意味で頭が痛いのだろうが――で希美が突っ込みを入れると、奈緒はあっけらかんと答える。

「えーー。じゃあ今週末ホントにデートにでも行く?」

「行きません!」


 あ、秒で否定された。

 そう言う関係ではない事は頭で分かっている剛ではあるが、いとも簡単に拒否されると流石にメンタルに響く。

「無駄話してても時間が過ぎるだけだし、準備ができたら始めようか」

 落胆している剛の様子を見た翔はこの場を取り成そうとする。

(つーか奈緒がいるとマジやりにくいわ……場の調整役なんて俺の役割じゃないんだけどなぁ……)

 翔の言葉ももっともと、希美は軽く頷く。

「神野くん、向こうで始めましょう」

 希美に促されて剛も少し離れた空いた場所に移動する。


「鈴木さんさぁ、模擬戦やるって何をどう考えたらそんな発想に辿り着いたの……?」

 翔が細身の――レイピアが無かったため近い形状――片手剣のを動きを確認するようにゆっくり振り下ろす。対する奈緒はその体格に全く似つかわしくないハンマー――ヘッド部分が直径15cm程、幅40cm程のかなりの大型な――を救い上げるようにゆっくり振り上げる。

鈴木さん(・・・・)なんて他人行儀だよ~~。奈緒でいいよ~~奈緒で」

 いや他人だろ!良くて同学年であってクラスメイトですらないわっ!と突っ込みたくなった翔であるが、その言葉を飲み込んで片手剣を手元に引いてゆっくりと突き出す。

「じゃあ奈緒さん、お互いの理解を深めるのに何で模擬戦って発想になったの?」

「やだ~~翔んるん。奈緒って呼んでよ奈緒って♪何でって……ほら、拳を交える事で男同士の友情が生まれる、みたい()?!」

 そう言いながら奈緒はハンマーをゆっくり……ではなく全力でフルスイングしてきて、翔は慌てて大きくバックステップで何とかかわす。

(もーやだこの女!!)



 翔と奈緒が型稽古のような事を行っている場所から少し離れた場所で、剛と希美は寸止めの打合稽古を行っていた。五合を1ターンとしてお互いに繰り返し、お互いのターンが終わったところで止めて感想戦を行う。

 2回も繰り返すと希美は前から思っていた事に改めて気付く。

(やっぱり……私の剣筋が全部見抜かれている……)

「上段からの左袈裟で右下に切り下げた後、だいたい逆袈裟を選んでるけど対妖魔で考えたら足元を横に払うのも……星野さん?」

(今時SNSに動画がアップされる事もあるからそれで見たのかもしれないけど……トーフの頃だからそんなに頻繁に特務実習は行っていないし、防衛省の方でそれらしい動画は即座に削除申請出しているから……そう考えると、どこで……?)

「星野さん?……星野さん!」

 剛から少し大きめな声で呼ばれて、希美は深い思索の森から引き戻される。

「あ……ごめんなさい。少し考え事してて……」


(何だろう……こんな場で考え事って……自分の技とか立ち居振舞いの確認だろうか……)

 剛は凝視しないように敢えてぼんやり気味に希美を見ていた。

 その希美は何やら思い詰めたような、何か言いたげな、複雑な表情で木剣をだらりと下げて佇んでいる。

「何か、言いたい事があるの……?」

 その剛の問い掛けに、希美は少し考えて口を開く。

「神野くんは……私の戦うところ、どこで……何で見たの……?」


 直球でぶつけられた希美からの質問に剛は一瞬息を呑んだ。

 本当の事――何度も人生を繰り返している中で、天道と闘う姿を幾度となく見た、と言ったところでどう考えてもアタマおかしい人認定されるだけなのは、考えなくても分かる事だった。

(何て……どう答えるのが正解なんだ……?)

 剛は頭の中で様々な考えを巡らせ、無難と思った回答を口にする。

「SNS、で見たんだと思うよ。動画とかアップされてたし」


(「見た」じゃなくて「見たんだと思う(・・)」……私が対妖魔で実戦に出てからまだ1年程しか経っていない、最近の事なのに「思う」って……何を隠しているの……)

 剛の言葉に違和感を感じた希美は剛の言葉を嘘と断定する。

(言いたくない何か……犯罪的な事は……神野くんにはできそうに無いわね……だとしたらどうやって……)

 希美は考えながら表情を消した状態でじっと剛を見据えていた。

「星野さん……その目、怖いよ」

 少しおどけたように肩を竦めて剛に指摘されるまで、希美は剛を睨み付けていた事に気付いておらず……剛から声を掛けられた事でハッと気付いて気まずそうな表情に変える。

「つ、続きをやりますよ!構えてください!」

 希美は胡麻化すために剛に模擬戦を再開する事を促す。

 ん、と剛は頷き、木製のポールアックスを構えて五合1ターンの打込稽古を希美と繰り返すのであった。



「じゃあね、希美。あたしは新宿駅だから二人と一緒に駅まで行くね」

 時刻は午後6時。4時前に授業が終わったので2時間近く格技室でそれぞれの修練を行っていた事になる。

 この時間の4月末の新宿の空は高層ビルの隙間から沈みかけた夕日が僅かに覗き、空一面を茜色に染めていた。

「うん、じゃあまた明日。神野くん、本田くんも今日はありがとう」

 希美は奈緒に声を掛けた後に剛と翔に礼を言い会釈をする。

 そして自分だけ反対方向――中野坂上方面に徒歩で帰宅するため踵を返そうとしたタイミングで、剛から声が掛かった。

「星野さん、来週もよろしくね」

 その言葉に一瞬きょとんとした顔をした希美であるが、直ぐに表情を引き締めて軽く頷いて踵を返して剛達から歩み去って行く。


 トーイチから新宿駅までの道を三人で歩き始めて少し、奈緒が口を開いた。

「希美もね……希美が悪い訳じゃ無いんだけど、皆から避けられて友達と言う友達はあたしくらいしか居ないんだよね……」

 翔は何でここで口調が変わった?と訝しがったが、そこまで接していない剛はその違いに気付かず、奈緒の言葉を受けて半ば納得する。

「あれだけの実力者……大人でも、SUADの現役隊員でも、あれだけの実力を持ってる人はいない……そうすると、彼女は[特異点]扱い……なのかな?」

「分かり易く言って良いよ。バケモノ(・・・・)扱い、なのよ……」

 敢えて剛が言わなかった言葉を奈緒は事も無く口にする。

「だから神野くんみたいに、希美の事を恐れたり避けたりしないで、むしろ自分から首突っ込んでくれる奇特(・・)な人って、希美にとって凄く大事な人になると、あたしはそう思ってる」


 こっちが本来の鈴木奈緒って子なのか。

 剛は感心しながら、何十回もの人生の中で会っているはずの希美の事を全然理解できていない事を自覚する。

 そして、自らを道化として敢えて自分と希美の接点を作ってくれた奈緒に対して敬意を持った。

「一つ、聞いて良いかな?」

「何?」

 剛は一つ大きく息を吸い、そして大きく息を吐いた。

 奈緒に言う事では無いのかも知れない……そう思いながらも、言うタイミングは今しか無いと思って、口を開く。




「彼女を……星野希美さんを、俺が独り占めにして良いか?」

第26話 『君のためにできること』 GACKT

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