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Limitless  作者: 神 賢一
第二章 Through the Dark

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第25話 逢いたい理由

 格技授業で教わったハルバード――は模擬戦用には置いていないため、木製のポールアックスを使った型を修練しようと思い第8格技室に来た剛であったが、先に来ていた希美に詰め寄られ、その後の遣り取りで何とも言えない微妙な雰囲気になってしまい、完全にやる気を削がれてしまった。

 碌に修練を始める事も無く、剛は翔を伴い帰宅の途に就いていた。


 剛と翔はJR新宿駅から中央線快速に乗り、自宅最寄り駅である武蔵小金井駅に向かう。

「……もうちょっとくらい、希美タンに優しくしてあげた方が良かったんじゃね?」

 翔が心配そうに声を掛けてくるが、剛は項垂れたまま答える。

「でも……今の俺の状態だと模擬戦はできる訳無いし……それに、あの勢いで来られると、なぁ……」

 あー、と言う表情で翔は剛が言った言葉に納得するが、一言だけ添えておく。

「なるべく態度に表さないように、だな」

 二人が乗ったJR中央線快速は滑るように西へと走り続けていく――



 希美は自宅――祖父母の家、ではあるが――で、自室のベッドに顔から倒れ込む。

(やらかした……思いっ切りやらかしてた……骨折させてるとかありえないし、その相手に突っ掛かるって……)

 申し訳無さと恥ずかしさと自己嫌悪が希美の頭の中で渦巻いており、他の事に手が付けられる余裕が全く無くなっていた。

 気持ちを静めるためにうつぶせのまま両手で枕の端を持って頭に押し付け、そのまま数分……大きく息を吐くと、希美はのろくさとベッドから起き上がる。

(……明日にでも神野くんに謝らないと……)



 剛は自宅――家族で住んでいるマンションの一室――で、自宅のベッドに仰向けに寝転ぶ。

(いや……ちゃんとフォローしたつもりだったんだが……翔が骨折なんて言うから変に気を遣わせてしまったかなぁ……)

 翔のせいにしてみたものの、事実、ここ数日は極力希美に会う事を避けており、態度が余所余所しかったのは否定できない。

 これ以上気まずくなって模擬戦どころか、会話すらしてもらえなくなったら何のためにトーイチに入ったのか分からなくなる。そう思い、小さく溜め息を吐くと剛はのろくさとベッドから起き上がる。

(……明日の朝、希美に謝らないと……)



 翌朝、希美はいつも通り7:45頃に家を出て徒歩でトーイチへ向かう。トーイチまでは道程みちのりにして1.6km程で、自転車なら10分掛からない……と言いたいが、往きは成子坂の長い勾配が結構きつく、また朝夕の青梅街道は交通量がかなり多く、自転車で走るには少し危険であった。そのため、希美は徒歩で25分ほど掛けてトーイチに登校している。

 成子坂から東都医科大学付属病院の前を経由してトーイチに向かうと裏門――業者の車両や、妖魔が出現した際の特務実習時に特車と呼ばれる装甲輸送車が出入りする入口であり、普段は閉鎖されているため、都庁に面している正門の方に回る。

 正門に辿り着こうとしたそのタイミングで、中央通りと立体交差している都庁通りのガード下から歩いて来る人影を希美は見止めた。

 いや、トーイチの生徒は多くJR新宿駅から同じルートを辿るので何人もいるのだが、その中に希美が逢いたい人がいた(・・)


 翔と同じ電車になった剛はJR新宿駅からトーイチまで、高架化された道の突き当りまで来たところで階段を降りて地上部分を進み、格技棟の前を通過して正門に向かうのがいつものルートであり、今日もその道筋を辿っていた。

 格技棟を過ぎて都庁通りの高架下を潜った正門前に、トーイチに吸い込まれるように入っていく生徒達の中に、剛の逢いたい人がいた(・・)


 剛と希美は期せずしてお互いに歩み寄り、1m程の距離で正対する。そして……


「「昨日はごめんなさい!」」


 翔の目の前で剛と希美がお互いに頭を下げている。

(あらー息ピッタリで仲いいわねぇ……)

 そんな翔を余所眼に、剛と希美はお互いに「え?」と言う顔をしている。

 頭を上げてお互いに顔を見合わせた状態で、何で相手から謝られたのか分からないと言った様子で、剛と希美は正門前で固まる。

 その二人を翔は冷めた目で眺めていたが、らちが明かないと思い二人に声を掛ける。

「いいから校舎入ろうぜー。このままだと遅刻しちまうぞー」

 翔の言葉で止まっていた時間が動き出したかのように、二人は見合わせていた顔を反らして校舎に向かい歩き始める。


「で、だ。剛、星野さん。取り合えず二人がちゃんと話す場を用意したんですけど!」

 何故かキレ気味に翔が話すこの場は昼休みの学食。

 翔がマグロとシラスの二色丼セットなのに対して……剛と希美は数多くあるメニューの中から奇遇にもB定食――魚介ミックスフライ――を頼んでいた。

(何この朝の正門前といい、息ピッタリ感……既に二人付き合ってるって言っても不思議じゃねぇよ……)

 辟易としながら翔は二人に視線を送る。


「あ、じゃあ俺から良いかな?」

「はい、神野ー剛くん」

 茶化したように翔は国会で議長が参考人などを呼ぶような言い方をしたのだが、それに気付く余裕も無く剛は希美に語り掛ける。

「あ……えと、昨日は折角話し掛けてくれて、模擬戦も星野さんから言い出してくれたのに、あんな返事して……ごめんなさい」

 頭を下げる剛を横目に、おずおずと手を上げる希美を見て翔は声を掛ける。

「星野ー希美くん」

「いや……骨折させてたなんて……普段なら寸止めしてるところ、冷静にならなきゃいけないのに思い切り振り抜いちゃって……ごめんなさい」

 あらぬ方向を向いて、翔は呆れたように……実際に呆れていたのだが……大きな溜息を吐く。

(何だろうねぇ、この擦れ違いカップル状態は……俺の得意分野じゃないんだよなぁ……)


「で?君らは今後どうして行きたいの?」

 翔の言葉で、剛と希美は意図せずお互いを見合わせる。

(うーん、これは剛ちゃんのバディとしては嫉妬しちゃうわねぇ……)

 そう思いながらも口を挟む事無く、翔は二人の言葉を待つ。


「俺は……今まで通り接して貰えたら……」

「その今まで、が無いから聞いてんだよっ!」

「わ、私は普通に接していただけたら……」

「ほぼ初対面の星野さんの普通って知らんのですよ?」


 似た者同士過ぎる……翔は仲介役を引き受けた事を既に後悔していた。

 会話が噛み合ってるようで噛み合ってない。本来知らない人同士(・・・・・・・)が何を今まで通りとか普通とか、何年も一緒だった関係みたいな言葉を言ってるんだか……どう軌道修正するか頭を悩ませる。


「あれーー?希美、彼ピくんと同席ーー?」


「アカンやーん、ウチにも紹介せぇやーー」

 剛と翔はまともに会うのは初めてだが、希美の一の友人である鈴木奈緒がエセ関西弁で話し掛けて来て、希美の隣に座る。

「あーー、希美んみんと彼ピくん、B定やーん!ウチ食べたかったんよー」

「……ごめん奈緒、その希美んみんって呼び方と、偽関西弁で掻き回すの止めてくれるかな……」

 あははーと笑いながら奈緒はサバ味噌と揚げ出し豆腐のA定食を突き始める。


「何々?お互い今後どうして行けば良いか分からないって?」

 奈緒はどこで聞いていたのか、話の核心を突く。

 少し考えた後、奈緒はにやーーっと笑って話し始める。

「とーーっても良いこと、思いついちゃったー♪」

 ふふふん、と笑った奈緒は、希美の顔を覗き込み、そして剛の顔を覗き込んだ後、名案を発見したが如くこう言った。



「翔んるんはあたしと、希美んみんは彼ピくんと、毎日模擬戦やればみんな分かり合えると思うよーー」




(((ぇ???)))

第25話 『逢いたい理由』 AAA

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