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Limitless  作者: 神 賢一
第二章 Through the Dark

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第24話 視線の行方

 ――西新宿、東都医科大学付属病院の整形外科診察室。

「うん、まあこれならもう動いても大丈夫だけど、強打するとまた折れちゃうから1週間は程々にね」

 50代くらいの細身の男性医師は、モニター画面に表示されたレントゲン写真とMRI画像を確認してそう述べる。

 希美との模擬戦……その際に右脇腹に受けた逆一文字の一撃により肋骨を骨折してから2週間が経ち、剛は回復具合を確認するために来ていた。

「回復促進剤はまだ残ってるよね?最後まで飲んでね。あと、違和感あったら早めにココ来てね。はい、お疲れ様でした」

 ありがとうございました、と礼を言い、剛は診察室を後にする。


 4月も後半に入り、だいぶ日も長くなった。青梅街道に出ると成子坂の先に傾きかけた太陽が眩しく輝いている。

 剛は新宿駅に向かうために太陽を背にして歩き出す。

(明日から模擬戦ができるようになるのか……やっと、だな。2週間は長かった……)

 医者から運動全般を禁止されている間に、入学式翌日に特装科の3年生に依頼していた剛専用の特装――特装器と特装具――が完成していたのだが、使用感を試す事もできずに受け取った後は専用室のロッカーに入ったままになっていた。

(皆は既に格技の授業で使用していたから、明日の格技で俺も使える……んだよな……?)

 他のクラスメイトは1週間以上前に使用開始しているため、剛は後れを取っていると若干の焦りがあった。



 翌日の格技の授業前――剛は格技棟の専用室で、ロッカーから自分の特装具を取り出して着用する。

(凄いな……こんな見事にフィットするとは思っていなかった……)

 物理的な防具であるため当然全く重みを感じないと言う訳ではないが、剣道の防具に比べるとかなり軽く、また小手ではなくプロテクターのような構造で指関節が動かせるため、極端な言い方をすればそのまま食事もできそうな程細かい指の動きができる。

「遂に剛ちゃんも特装デビューだねぇ。これ着けてたら肋骨も折れなかったかもねー」

 翔の揶揄に何とも言えない顔をした剛は、ロッカーから特装器――ハルバードを模した剛専用の得物――を手にする。

「じゃあ今日の授業では翔に相手して貰おうかな」

「げ、止めて。1年間とは言え剣道経験者じゃん」


 特装着用が初日――しかも2週間見学のみだったため、剛は他の生徒とは別メニューだった。

 格技専任の教員……現役のSUAD隊員から、特装を使用するにあたり心得をとくとくと説かれ、その後は長柄武器であるハルバードの基本的な動作――突き、斬り、引っ掛け、受け、流し等をみっちりと教え込まれる。

 槍なら槍、斧なら斧、として特装器を作っている者が多い中、特にハルバードは槍と斧の複合武器であるため使用している生徒かなり少数である様で、クラス内には誰も居なかった。

 ただ複合武器ならではで、万一槍の穂先が破壊されたとしても斧頭で突き、斬り付けが行えるし、その逆も同じである。

 また長柄武器であるため、力任せに振り回すだけでも小型妖魔なら殴り飛ばす事ができるメリットもある。


(そんな事も分からずに希美に模擬戦挑むなんて、どれだけ無謀だったんだろう……)

 今更ながら剛は学年一……トーイチ全体で見てもトップレベルの希美に対して模擬戦を挑んだ事に対して反省していた。

(だからこそ早く自分の武器を手足のように動かせるようにならないと!)


 放課後、翔を伴い剛は再び格技棟に向かった。

「何?誰かと模擬戦するの?」

 翔の問い掛けに剛は首を横に振る。

「素振り……じゃないけど、今日教わった型を少しでも体に馴染ませたいんだ」

 ふーん、と言う顔をしている翔を従えて、剛は模擬戦用のハルバード、は無いため、似た形状である木製のポールアックスを手に、第8格技室――第6格技室同様に特技などを使用しない模擬戦や、剛のように個人でトレーニングをする生徒のための部屋に入る。

 すると、視線の先に――希美がいた。

 一人で演舞のように滑らかで鋭い剣劇を繰り返している希美の姿に、剛は1分ほど見入っていた。


 希美は一連の動作の終盤だったらしく、最後に大きく踏み出した唐竹割に木剣を振り下ろすとその場で静止し、数秒の残心の後に木剣を中段に構えて背筋を伸ばし、右下に一閃させると木剣の鍔元を左手に握って納刀の状態にある。

 ふっ……と軽く息を吐いて休憩するため自分の荷物の方に向きを変えるその際……剛と目が合った。

(神野剛!!)

 何故ここにいるのか分からないが、希美は警戒するように剛を睨み付ける。

 だが予想に反して剛は希美から視線を外し、室内の誰も使用していない一角に向けて歩き出した。


「剛、いいのか?」

 小声で翔が話し掛けてくるが、剛は素っ気無く返す。

「いいのかも何も、先ずは俺がコイツに慣れるのが一番大事だからな」

 手にした模擬戦用のポールアックスを軽く掲げ、剛は荷物を置いて準備を始める。

「……希美タンだぞ?」

「ああ、星野さんだね。知ってる」

 剛は一瞬だけ希美の方を見遣り……準備完了とポールアックスを両手で構えて今日の格技の授業で習った型を再現し始める。



(今、こっちを見たのに……無視?!何よ!この間まであんなに執着してたのに!!)

 剛が一瞬だけ自分を見たその視線に、希美は自覚無く期待をして……そして裏切られた気分だった。

 あれだけ執拗に模擬戦を頼み込んでた剛が、自分の姿を見止めても碌な反応をしない……他のクラスメイトや上級生であれば、ここまで固執しなかったところだが、希美にとって最大の“喉に刺さった骨”状態の剛が示した態度は、希美の理性を惑わすに充分だった。

 気が付いたら……いや、無意識で気付かない状態で、希美は剛の方に歩みを進めていた。


「お、おい。剛ちゃん……」

 慌てたような翔の声で、型の動きを止めた剛は翔の方を見て……そして翔の視線の先を見る。

 その剛の視線の先には……まるで負のオーラを纏った魔王の如く剛の方に歩み寄って来る存在――希美の姿があった。

 剛は慌てて顔を背けてポールアックスを握り直し、型の修練を遣り直す。

(何でだ?何で希美はこっちに来てるんだ?……終わったから帰るのか?単にこの場所が使いたかったのか……?)


 そんな剛の想いは希美の言葉で簡単に打ち砕かれる。

「神野くん、相手してください」

(うわぁ……ムリムリムリムリムリムリムリムリ……)

 本来であればトーイチのトッププレイヤーである希美との模擬戦は得る物しかないのだが……今の剛はそう言う問題では無く、希美には今は(・・)太刀打ちできない事を半ば本能的に感じ取っていた。

 ましてや希美から感じ取れる殺意にも似た気迫。

 反射的に剛は口にしていた。

「ご、ごめんなさい、お断りします」


 想定していなかった返事に、希美は頭が真っ白になり、自分の耳を疑った。

 断られるとは思っていなかったのか……当然であろう。何日も剛から模擬戦を懇願されていた希美としては、自ら誘った模擬戦を剛は受ける……それが当然だと考えていた。

 だが、現実は異なる。よりによって、剛の方から断ってきたのである。

 そんな状況を察した翔は二人に助け船を出す。

「剛はまだ骨折が完治してないから本調子じゃ無いんだよ」

「えっ?!……骨折って、この間の模擬戦で?」

 翔は希美の問い掛けに軽く首肯する。


 申し訳なさそうな表情に改めた希美が剛の方を見るが、その態度に剛は慌ててフォローを入れる。

「あ、ほら、あれは……流れの中での事だから……事故、事故みたいなものだよ。気にしないで」

「でも……」

「もう、こうやって運動もできるようになったし、あと数日で治るって病院の先生も言ってるから。うん、大丈夫、大丈夫だよ」

 剛は希美に対して、宛ら自分に言い聞かせるような、そんな感じで言葉を繋ぐ。


 何やら場が膠着状態になってしまい……三者三葉の思いながら、同じ言葉を思い浮かべていた。



 ――気まずい――

第24話 『視線の行方』 茅原実里

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