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Limitless  作者: 神 賢一
第二章 Through the Dark

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第22話 あなたを知っているから

 翌日――


 昇降口前で剛は待ち構えて、希美を見かける途端駆け寄る。

「星野さんおはよう!神野剛です!今日は放課後模擬戦お願いします!」

「お断りします」


 昼休みの食堂でB定食を選んだ剛はあたりを見回し、希美を見付けると空いていた正面の席にダッシュして座る。

「神野です!模擬戦相手してください!」

「お断りです!」

 希美はトレーを持って席を立ち、違う席に座って食事を再開する。


 放課後――

「星野さん神野です!」

「お断りだって言ってます!!」


 翌日以降――

「神野剛です!星野さん模擬戦お願いします!!」

「何度頼まれてもお断りです!!」


「星野さん神野です!模擬戦お相手してください!!」

「無理です!!」


「神野剛です!!」

「イヤです!!」


「星野さん神野です!!」

「来ないでください!!」



 ここ数日で希美は神経をかなり擦り減らしていた。

 毎日どころかタイミングがあれば、ここぞとばかりに模擬戦の相手してくれと寄って来る剛に対し、辟易へきえきとしていた。

(何なのよアイツ……最初の発言こそ許したけど……)

「希美ー?アンタ大丈夫ーー?」

 そう声を掛けてきたのはトーフ時代からのクラスメイトで、希美としては心許せる数少ない友人の鈴木奈緒である。

「ムリ。って言うか、あの神野ってどういう神経してるのよ……」

 んー、と考えてみたところ、奈緒としては言える言葉は数少ない。その中であえて(・・・)希美に対して奈緒は言ってみた。

「希美の事が好きなんでしょ」



(ムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリ。


 ……どうせアイツも私の事をハケモノだと言って離れて行くだけ。

 だったら最初から期待なんか持たせないで。


 だって、私はバケモノ(・・・・)なんだから!!)



「……なかみの(・・・)ことは……」

 ビクッ!


「ごつごう(・・)はいかがかと……」

 ビクッ!!


「近江の国を支配していた備前のかみの(・・・)浅井長政は……」

 ビクッ!!!


「金()峯寺で……」

 ビクッ!!!!



「もうイヤ!!何であいつに振り回されなきゃいけないのよ!!」

 昼休みの食堂で消耗した状態で突っ伏した希美は、奈緒に不満……と言うより鬱屈うっくつをぶちまけていた。

 今日のA定食であるアジのひらき定食を食べながら、奈緒は希美の苦悩に対してさらっと返す。

「でも神野くんって、模擬戦してくれって。それだけでしょ?一回相手してあげたらいいじゃん」

 希美は顔を起こすと、えーーーーーーと言う感じで心底嫌そうな顔をする。

「え?まさか希美、神野くんに負けちゃうの?」



 ムカムカムカムカムカムカムカムカ。

(奈緒のやつ、何て事を言うのよ……)

 希美は斜め上の奈緒の言葉に、今まで感じた事が無い感情を覚えていた。

(何よ!私があんな奴に負ける?ああ、しつこさでは負けるわね。でも模擬戦……立ち合いで、あんな!ひょろい!チャラい!男に!!負ける訳がないでしょ!!!)


 希美が気が付かない内にときは放課後になっていた。

(あいつが……あいつがあんな事しなければ……)

 希美の想いは明らかに剛に対するイラつきや怒りで、周りの事を気を遣う余裕が全く無くなっていた。

「……星野……さん……?」

「あぁぁぁぁぁーーー!!もう!やめてーーーーーー!!」


 希美が声の主を見上げると、そこにいるのは神野剛。

 ――こいつが!!こいつが私を困惑させている元凶なのか!!――

 そう言う黒い思いが渦巻いた希美はこれまで誰にも見せた事が無い程の剥き出しの感情を見せ、最早自分の意志とは関係なく言葉を放った。

「神野剛!相手しなさい!!私が!あなたを!完膚なきまでに叩き伏せてあげます!!」



 10分後、格技棟第6格技室――

 特技を使用しない純粋な剣術、槍術などによる模擬戦に使用される一角に、希美はどんよりとした様子で木剣を持ってたたずんでいた。

(……何で……何で、こうなったの……?)

 周りからは冷静沈着――あまり親しくない者からしたら感情を伺う事すらできない――そう見られている希美であるが、今回ばかりは剛に対する怒りと、奈緒の煽りを受けて勢いで模擬戦を受ける事となってしまった。

 感情を抑制できなかった己の不甲斐なさに項垂れるしか無い希美であった。


「お待たせ……だ、大丈夫……?」

 自分が使用する特装器であるハルバードは模擬専用の武器に無かったため、似た武器であるポールアックス――槍に斧頭が加えられた長柄の武器――を手にした剛は、そんな様子の希美を見て声を掛ける。

 その声に対して希美は顔を上げて、忌々し気な表情で剛を睨みつける。

(誰の……誰のせいだと思っているのよ……!)

 右手に持っている木剣を一閃した後、希美は剛に切っ先を向ける。

「神野剛!望み通り模擬戦で、あなたを叩き伏せてあげるわ!!」


 希美は素早く剛を間合いに入れるべく跳躍し、木剣を振り上げて袈裟斬りを剛に見舞うが、剛は半歩下がって躱し……と言うのを想定していた希美は更に一歩踏み出して慣れた動き(・・・・・)で手首を返して左逆袈裟斬りで剛に襲い掛かる。

今まで見てきた通り(・・・・・・・・・)だ!)

 これまで何回も……それこそ何十回も見てきた希美の剣筋の癖を見切った剛は、希美の左逆袈裟をポールアックスの柄を両手で握って真っ向から受け、押し返して距離を離したところでポールアックスを真横に振るう。

(止められた?!)

 素人相手なら最初の袈裟斬りだけで充分だし、ある程度の経験者でも左逆袈裟を回避したり受けたりする事は出来ない……経験から選択した初手が通用しなかった希美は内心動揺しながら後ろにステップしてポールアックスの間合いから離れる。


(こいつ、何者?!)

 得物を手にしたたたずまいは素人に毛が生えた程度でしかないのに、必勝とも言える連撃に対応されるとは想定していなかった希美は次の手を素早く考え……右へ――剛の左へ――スライドするように足を運び、少し身を低くしてから右から真一文字に剛に斬り付ける。

 その鋭い斬撃を剛は左に体を開いて躱すとポールアックスの穂の側を握っている左手一本で右袈裟のように柄を希美に対して振るう。

 逆を突かれた形となった希美は木剣を斜め上に引き上げるて剛の一撃を受け流す。


(何で!……何で私の動きが読まれるの?!)

 既に模擬戦を初めて2分、希美は何度も鋭い斬撃を放つも、剛はその動きを全て読み切ったように受け、流し、躱す。

 既に焦りを隠す事が出来ず表情に表れていたが、まだ出していない手――危険なので使いたくはなかったが――を繰り出す。

 剛に向かい二歩素早く踏み出すと右手に持った木剣を剛に向け、鋭い突きを……出そうとした時、一瞬剛と目が合う。

(この技も……この人は知ってる!!)

 驚愕に目を見開いた希美はとっさの判断で木剣を大きく引き――その瞬間ポールアックスは木剣が存在していた空間を切り裂く。

 剛としては木剣を叩き落とす勢いでポールアックスを振り下ろしており……何も無い空間を切り裂いたポールアックスは勢いのまま床を叩き、木剣との反動を想定していた剛は体勢を崩した。

(今だ!!)

 その瞬間を逃さず、希美の木剣が左からの逆一文字に閃き、剛の脇腹を強かに捉えるのであった。



「剛!!」

 ぐっ!と言う呻き声をあげてポールアックスを取り落とし、右の脇腹を抱えて倒れ込んだ剛に翔が駆け寄る。

 息苦しそうに口をパクパクする剛を見て、翔はその背中をバシバシと何度も叩く。

 その光景を肩で息をしながら希美は見下ろしていた。

 2分ほどして少し落ち着いた剛は、左手でポールアックスを掴んで柄を床に突き立て、漸く立膝状態で体を起こす。

「ははっ……さ、流石に……星野さん……強いね……」

 その言葉に希美は背筋が凍るような感覚を味わう。

「な……何で、あなたは……私の剣を見切る事が出来たの……?」

 すると剛は苦しそうな表情ながらニヤッと笑って希美に答えた。



「何度も……一年前に吉祥寺で助けられた時に……何度も見た、から。ね」

第22話 『あなたを知っているから』 鈴木祥子

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