第20話 Bad Communication
国立東京第一高等学校――通称トーイチ――の入学式は格技棟の第一格技室――サッカーコート4面分程の広さがある場所で開催された。
だらだらと長い校長先生の話が始まるのか……と剛は思っていたのだが、1分程度と何とも簡潔に挨拶を済ませた校長先生はさっさと降壇し、その後の式次もこんなに簡素で短時間で良いのかと面食らう程スムーズと言うかスピーディーに消化されていく。
来賓挨拶、在校生代表挨拶が済むと、次は新入生代表挨拶となる。
登壇したのは……星野希美、その人であった。
剛がふと翔の方に目を遣ると翔は口の橋を上げてニヤッと笑う。
鼻でフッと息を吐いた剛は正面に向き直り、希美の代表挨拶を聞き逃さないように意識を集中させる。
「校長先生、教師職員の皆様、式にご同席いただいております上級生の皆様、そして新しい学び舎で共に学び研鑽する仲間となりました新入生の皆さん、こんにちは。本日、新入生代表として大勢の方々の前で話す機会をいただき、誠にありがとうございます。
栄えある東京第一高等学校の生徒として、高校生と言う新しい生活を送ると共に、私達は対妖魔の先陣を切れるべく各々の科に応じた学びを心に、体に、魂に刻み込み、卒業後にはSUADや自衛隊の隊員、或いは防衛省職員と言った東京を、この国を、世界を守る一端を担うためのスタートラインに辿り着いたことを嬉しく思います。
323名の同期入学生と切磋琢磨し、自らの知識技能を分かち合い、夫々が思い描いた未来に向けて邁進するためには、教師職員の皆様、先輩方のご支援が不可欠で、何卒お力添えを頂けますよう心からお願い申し上げます。
高校への進学と言う事で、これまでの義務教育とは異なり自らが選び、勝ち取った東京第一高等学校の生徒と言う立場は、時には妖魔の矢面に立つと言う危険であり困難を伴う事も発生し得ますが、それを乗り越えて人の、国の、世界の護り手と成るべく、新入生一同力を合わせて共に成長して行きたいと思います。
最後に、323名の同期の仲間と本日この場を迎えられた事を誇りに思い、この喜びを忘れる事無く、高校生活を一生懸命に過ごす事をここに誓います。ありがとうございました。
令和九年4月8日
令和九年度入学式、新入生代表、星野希美」
見事なスピーチである。対妖魔特設高校である国立東京第一高等学校の生徒であると言う事は、高校生と言う身分と併せて対妖魔専門家候補生の準公務員と言う側面を持ち、特に特技科の生徒は有事には「特務実習」と言う名目で妖魔殲滅に出動する事がある。
まだ高校生と言う護られる立場でありながらも人命を守ると言う責務に対して、希美は「誓う」と言う言葉を使い、決意を示したのだろう。
静まり返っていた入学式会場は、誰かの拍手を契機に会場中から響き渡った。
剛も拍手を送りながら、降壇する希美を他の生徒に紛れて分からなくなるまで目で追い続けるのであった。
トーイチの特技科はAクラスからEクラスに分かれており、AクラスとBクラスはトーフ――附属中学校――からのエスカレータ組で占められており、両クラスに入れなかった10名ほどがCクラスに割り当てられている。
トーフのAクラスからCクラスまでは対妖魔特設高校にエスカレーションできるため、20名程がトーイチ以外の特設高校に進学したか、対妖魔特設高校以外の進路を選んだと言う事になる。
それに対して一般入試組は成績上位者からCクラス、Dクラス、Eクラスと割り当てられることになる。
そして剛と翔はCクラス――一般入試上位者と言う事で、所属できる最上位のクラスに割り当てられていた。
(トーフで3年間一緒だったから、やはり集まる感じになっているのかな……)
クラス内では10人ほどの集団が固まって話をしているのを横目に、剛は翔とこの先の事などを話していた。
「で、剛ちゃんはこの後どうするの?模擬戦見てく?それとも帰る?」
オリエンテーションなど今日の入学式に連なる一連の行事は終了していた。
翔の問い掛けに対して、剛は以前から考えていた事を口にする。
「星野さん……星野希美さんに手合わせをしてもらおうかと思ってるんだ」
は?と言った顔をする翔。剛ちゃんが一方的に知ってるだけで、相手は剛ちゃんの事知らなくね?と身も蓋も無い事を翔は思わず口に出しそうなり、辛うじて飲み込んだ。
「今ならまだ教室にいると思うから、すぐ行くよ。翔はどうする?」
カバンを掴んで立ち上がり、教室を後にしようとする剛を翔は慌ててカバンと一緒に追いかける。
1年Aクラスの教室内では、希美が帰り支度を終えて椅子から立ち上がろうとしていた。
そのタイミングで黒板に向かって後ろ側になるドアから剛が教室に入って来て、軽く見回すと希美の姿を見止め、足早に近づいて行く。
「星野さん。星野希美さんだよね」
剛は手を伸ばせば希美に触れられそうな距離まで詰めて声を掛ける。
「……誰、ですか……?」
希美は怪訝そうな顔で剛に問いかける。トーイチの制服を着ているからトーイチの学生なのは何となく分かるのだが、知っている顔で無いため誰が何の用で声を掛けてきたのか分かりかねていた。
(そうだ、ちゃんと自分の事を知ってもらわないと)
剛はそう考えると希美に向かい自己紹介――後で翔曰く、事故紹介――をする。
「俺、Cの剛!」
「……しいの、ごう……?」
(しいの……椎野、かしら……やっぱり知らない名前ね……)
キョトンとする希美に対して、あれ?と思いながらも剛は目的である手合わせ……模擬戦の相手をお願い――後で翔曰く、いきなりナンパ――をする。
「星野さん、俺と付き合ってよ!」
はぁ?と眉根を寄せて不快な表情を希美は表す。
(うーん、何か希美に想いが伝わって無いのかな。希美に相手して欲しいって伝えないとだな……)
そう思った剛は模擬戦の相手を是非やって欲しいという希美に対して思いの丈を――後で翔曰く、もはや変質者の発言――を伝える。
「キミと、やりたいんだ!!」
「最っ低……!!」
椅子から立ち上がった希美はキッと剛を睨み、カバンを手にして教室のドアに向かって歩を進めた。
その後をトーフから一緒だった女子生徒2人が追いながら話しかける。
「凄いねー希美、初日からラブコール?」
「何がラブコール、よ。単なるスケベ心じゃないの」
怒りが収まらない希美は話しかけてきた鈴木奈緒に吐き捨てるように言い放つ。
するともう一人の女子生徒の前原が思案気な顔しながら希美に話しかけてきた。
「でもおかしいなぁ。神野くん、あまり女子と話したりするタイプに思えなかったんだけど」
「……かみの?しいの、じゃなくて?」
「うん、神野剛くん。私はトーフに受かったから中学は別だったけど、おな小で3回クラスも一緒だったから覚えてるよ。しいの……親が離婚した……のかな?」
そう言われて希美は怒りから困惑の思いが強くなっていく。
(……何だったんだろ、「しいの」だか「かみの」だか分からないアイツは……)
教室には取り残されて呆然とした表情の剛と、対してアチャーやっちまったなーと言った顔に手を当てている翔の姿。
(え?何で?模擬戦誘おうと思っていたのに、何が最低、なの……?)
自分が何を言ったのかさっぱり分かっていない剛は、傍から見たら全く的外れの思いを抱いていた。
救いを求めるかのように翔に目を向ける剛であったが、翔は溜め息を吐きながら剛に伝えるのであった。
「剛ちゃん、後で反省会な……」
第20話 『Bad Communication』 B'z




