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Limitless  作者: 神 賢一
第二章 Through the Dark

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第17話 Believe in myself

 ゴールデンウィークが明け、2週間も経つと休みの浮ついた感じから徐々に学校生活は落ち着きを取り戻していく。

 とは言え、5月下旬となると1学期の中間テストが始まる。


(……これ、何十回回答したんだろう……)

 正確に数えてはいないが、既に剛は60回を超える中学3年生を過ごしている。

 小学校のテストと違い、中学の定期テストは担当教師が問題を作成しているから違うパターンもあるかも……と想像していたのだが、一字一句レベルで全く同じ問題が毎回出てくるので、剛としては考えるまでも無く条件反射的に回答することが出来る。

 ただ、全教科100点を取っていては何かを疑われかねないので、ちょっとしたイージーミス――漢字書取りなら点を忘れるとか、数学なら掛け算と足し算を間違えた答えとか――を紛れさせて、3教科程は95点から98点くらいの結果になるように調整していた。


(何だかくだらないテクニックだけ上手くなってもなぁ……)

 頭の中でボヤきながらも、剛は解答用紙に答えを書いていく……



「終わったーーーーー!!」

 最後の数学のテストが終了して試験監督の教師が教室から出ると、クラスの男子が大声で歓声を上げた。その声を合図と言う訳でも無いのだろうが、クラス全体がざわざわし始めて仲の良い者同士で話し始める。

「翔、この後どうする?ウチで飯でも食ってくか?」

 剛は翔に歩み寄って声を掛ける。

「んぁーー……そうだな、久しぶりに剛ちゃんママの手料理を美味しくいただくとするかな」

「何かその言い方……違う言い回しあるだろ」

 剛の軽い抗議に翔はニマニマと言った表現が似合う笑顔を浮かべる。

 剛が溜息を吐いた後「行くよ」と言ってカバンを持ち、教室を後にすると翔もすぐに横に並ぶようについてくる。


「あらあら、翔ちゃんお久しぶり。いらっしゃーい」

小母おばさんこんにちはー。お邪魔しまーす」

 剛より先に靴を脱いで、翔は剛の家に上がり込む。その様子を剛は呆れ顔で眺めていた。

「剛ちゃんどうしたの?上がりなよ」

「いや俺の家だよ」

 即座に剛は突っ込みで返す。

「ほらほら二人とも、カバン置いて手を洗ったらテーブル着いてね」

 その母親の言葉に、剛と翔は「ん?」と思って顔を見合わせた……


 ダイニングのテーブルに向かうと、そこには3人分(・・・)のご飯とみそ汁、キャベツの千切りの上に乗ったから揚げ、ほうれん草の胡麻和えが並べられていた。

「剛……俺が来るって朝のうちにお母さんに言ってたのか?」

 ひそひそ声で剛に尋ねる。剛も声を潜めて翔に答える。

「いや、誘ったのもあの時の思い付きみたいなものだし」

「……剛のお母さんって超能力者?魔女っ子?」

「魔女っ子はやめてくれ……」

 立ったままひそひそ声で話す二人を剛の母親は不思議そうに眺めながら声を掛ける。

「あらあらまぁまぁ、二人とも早く座ってちょうだい。お腹すいてるでしょ?」


「ところで剛ちゃんはテストは……聞くまでも無いか」

 いつもは父親が座ってる席に翔が座ってご飯を食べながら剛に話し掛ける。

「まぁ……だいたい出来たかな」

 まさか全部答え込みで知っているとは言えない剛は曖昧あいまいに答える。

 答えに納得したのかしていないのか剛には分からなかったが、翔は「ふーん」と言った顔をすると話を続ける。

「じゃあ明日からまた部活?」

 うん、と剛が頷くと、翔はまた「ふーん」と言った顔をする。



 翌日放課後――

 体育館の剣道部が練習するエリアに剛が向かうと、そこにはジャージ姿でぽかんとした表情で立っている1年生、馬場の姿があった。

(……馬場だけ?秋山はどうしたんだ……)

 そう考えていると馬場と目が合い、フラフラした様子で剛の方に近付いてきた。

「神野先輩……秋山くん、帰ってしまいました……」

 力なく馬場の呟くような言葉を聞き、剛はすぐに察する事が出来た。要するに、部活を止めるのだという事だろう。

 しょげ返っている馬場を見て剛は一瞬天を仰ぎ、軽く息をいて言葉を返す。

「分かった……桐野には俺が伝えておくよ。馬場は今日はどうする?」

「やります。やりますよ!僕まで帰ったら1年生はみんな根性無しみたいに見られるじゃないですか!」

 馬場はキッと剛を睨むように見て力強く答える。

 その言葉に、いやそんな事は無い……と言おうとした剛であったがそれは余計な言葉と考え直し、軽く手を上げて馬場に背を向け、歩き出した。



 同じ頃、国立東京第一高等学校――略称トーイチ――の格技棟。隣接する附属中学校――トーフ――の3年生が、1年生、2年生を相手に模擬戦を実施していた。

 当然そこにはトーフに通っている星野希美の姿も……無かった。

 いや、希美は居るには居るのだが、模擬戦を行うのではなく、下級生たちの戦いぶりを見て問題点を指摘する指導教官役をやっている。

 不満げに憮然とした顔をしている希美であるが、模擬戦の監督を担当する教員から「星野相手じゃ下級生は10人束になっても勝てん」と言う言葉で、自身が模擬戦に参加する道を塞がれてしまっていた。


「やーーーーーーっ!!……っっとっとっと。あーーーーっ!!」

 模擬戦相手の3年生に向かって全力で駆け出して上段から剣を振るった1年生であったが、3年生が軽く身をよじると剣は大きく空を切り、1年生はたたらを踏んでバランスを崩し、格技場の床に勢いよく倒れ込んでしまう。

 希美は一瞬やれやれと言った表情をするが、すぐに顔を引き締めてから倒れ込んだ1年生の方に向かい、ダメ出しをする。

「君は勢いは良いが、無茶な攻撃はバランスを崩して隙だらけになる。体が突っ込まないように力任せじゃなくて速い斬撃を打ち込むように意識した方が良い」

 ほへっ、と呆けた顔で見上げる1年生に対して、希美は手にした模擬戦用の木剣を片手で振ると、剣は空気を切り裂いてビュッと言う風切り音を残して振り下ろされる。

 その一振りに対戦相手をしていた3年生男子もほう、と声を上げて剣筋の鋭さに感心する。


「なあ星野、俺と手合わせしてくれないか?」

 先ほどの1年生と模擬戦を行っていた、3年生男子……希美は顔は知ってても名前までは知らない相手だった。

「いや、私は先生から監督とアドバイスを行うように言われていて……」

「それは星野が1年生にとっては強すぎて、模擬戦やっても参考にならないからじゃないか?3年生同士なら充分意義があると思うんだ」

 そう言われても……と思い、希美が監督教員の方を見ると意図を悟ったのか、教員が黙ってうなづく。

 やれやれと思い小さな溜め息を吐くと、声を掛けてきた男子生徒を目で促してまだ床にへたり込んでる1年生から離れ、片手で剣を中段の位置に構える。


 カン!カン!カンカン!……

 木剣同士が打ち合う音が格技棟に響く。

 井坂と言う名前の男子生徒と希美の模擬戦が行われており、ほぼ全ての生徒が手を停めて模擬戦の様子を見入っていた。

 そしてその模擬戦は、希美の圧倒的な斬撃――ではなく、様々な角度から打ち込まれる井坂の剣戟を、涼しい顔をした希美がひたすら受け流す――受け止める、ではなく――と言う光景が続いていた。

(ここで左から袈裟掛け、これは半歩下がって踏み込んで突き、今のは懐に入り込んで左から胴切り……)

 希美は井坂の件を受けながら、返す一手を常にシミュレーションしていた。その結果からしたら井坂は20回以上希美の反撃を受け、木剣でなかったら命を落としていたことになる。


(そろそろ……いいかな)

 そう思うと希美は井坂の上段からの一撃を左に身を翻して躱し、その回転する動きに合わせて左から右へと剣を振るい、井坂の首筋に剣先を突き付ける。

「ぐっ……ま、参った……」

 井坂の声で希美は剣を下して辺りを見回すと、あっけに取られている生徒たちの姿と、半分呆れ顔の教員たちの姿。


(……またやり過ぎたか……)

 と思いつつも、下手に手を抜いて将来同僚となり得る同じ生徒たちの技量が向上しないと言うのは、助かる命も助けられない事に繋がる。

 そう考えなおすと希美は周囲を見回して声を上げる。


「他に手合わせしたい人はいる?」

第17話 『Believe in myself』 LiSA

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