第16話 You're My Best Friend
ゴールデンウィークに入った学校が休みの日。教師も休みに入るため、監督する大人がいない事から部活も休みとなる。
トーサンの図書室から借りてきた本は既に2冊目となっていた。その本を、自分の部屋のデスクで剛は隅から隅まで、何度も繰り返して読み込んでいた。
(まだ……実感は無いな……)
これまでの経験――前世、前々世、前々々世……何十回も繰り返した1年半程の人生で得た、個性を獲得する為のコツを基に剛は修練を続けていた。
緑を最優先に、それでいて白も獲得する事に近付く方法――剛は知らなかったが奇しくも希美が持たない個性――で、個性の獲得と、個性から生み出される法力を使用した特技の発動を、12月中旬のトーイチの願書提出までにクリアする必要があった。
(一番早かった時で10月……半年近く掛かるからな……)
一朝一夕で個性が獲得できるはずがない。何度も経験してきたからこそ、剛にはそれが理解できていた。
(黒なら……妖魔を喰らえば……喰らう?妖魔を?……考えるだけで気持ち悪くなるな……)
翌朝――なかなか時間帯が合わない神野家であるが、祝日で母親が9時ごろからパートで家を空ける以外は全員休みと言う、珍しく朝の食卓に全員が集まる事が出来る日だった。
「なあ、姉ちゃん……」
「ん?」
トーストを口に含みながら恵は剛に答える。
「緑の個性使う時って、どう言う事意識してる?」
剛は個性取得に向けて、緑の個性持ちである恵に何かヒントが無いか尋ねる。
んーーー、と言って恵は天を仰ぎ、徐に剛の方を見やる。
「あたしは特装科だから、特技科の……特技の使い方は分からないよ。あたしらは法力を特装に注ぎ込んで、その先どう法力を特技に変えるか、それは持ち手次第、としか言えないかな」
「特装……特装器と個性の相性なんかは何かあるの?」
「あー……剛が言わんとするのは分かるよ。そうだね……赤は大体どんな形状でも合うけど、青は選ぶかな。杖とかレイピアと言った、指向性がある方が発動のベクトルが合うって聞いたことがある」
ベクトル、か……特技をそれ程習熟していない剛にとっては、そう言う恵が漠然とでも知り得る知識が全く足りていない。
「で、緑は?」
本質的な事を聞けていない。
「緑だと……バトルアックス、パイル、メイス、ランス……それとハルバード辺りが、相性はいいのかもしれない」
なるほど。重さと斬撃を活かすような、そう言う特装器が緑には合うと言うのか。
(なら……ハルバード、だな。)
中世でランツクネヒトと呼ばれる傭兵集団が好んで使ったとされるハルバード。
長柄の槍に斧が付与された様な武器は、突く、斬る…と言うより叩き切る、の他、突起状になってる斧部分で引っ掛けて体勢を崩したり、棹部分で殴り倒したりと、多岐にわたる戦い方が出来る武器である。
特に敵の騎兵と戦う場合は突起部で馬の脚を引っ掛けて倒し、敵兵を馬上から引き摺り下ろすと言う戦法が使える事から、対妖魔でも足元を狙って機動力を奪うと言うのは有効な戦い方だと思った。
「ってアンタもう個性獲得した気になってんの?啖呵切ってからまだ一か月も経ってないのに、気が早すぎるんじゃない?」
恵の突っ込みも真っ当である。
これまで最速で獲得できた10月までは約半年。その一か月の段階では、剛は個性の幻影すら見えてきていなかった。
だが――剛はこれで良い事を、何度もの経験で理解していた。
むしろ「これだ!」と言う思い込みをした時に限って、個性は身につかなかった。
その理由までは剛にははっきりとは分からなかったが、これまでの経験から考えると急速に成熟した個性の[因子]とも言える物は、何故か急速に減衰していくのがこれまで何度も剛が経験した事であった。
(リバウンド……みたいな物、なのかな……)
リバウンドなど経験した事無い剛であったが、何となくそう言うイメージを持った。
「なあ、姉ちゃん」
剛がそう言ったタイミングは、丁度恵が食事を終わり、食器をもって流しに持って行こうとしたタイミングであった。
恵の顔があると思って剛が顔を上げた視線の先には――全く豊かではない恵の胸部――
(希美の方がスレンダーに見えて、ボリュームは有ったな……)
「おいこら剛。お前今もの凄く失礼な事考えただろ」
視線を更に上げると、眉間に皺を寄せて顎を上げた状態で氷点下の視線で見下ろす恵の姿を剛は捉えていた。
(げっ……マジギレモードじゃん……)
当然である。恵自身もコンプレックスである身体的特徴をよりにもよって弟である剛から思い知らされては、正直持っている皿を頭の上に叩き付けてやりたいと思うくらいであった。
「ち、違う違う!その……表現力の差を考えていて――」
「何の表現力だっつーのーーーーーー!!!!」
全力で頭を叩かれる剛であった……
「何?めぐみんにそんな事言ったの?」
トーサンの図書室で、しょぼくれている剛から話を聞いた翔は呆れたように答える。
「めぐみんって……爆裂魔法使える訳じゃないぞ」
「剛ちゃん大丈夫か?何言ってるかよく分かんないけど、お疲れのご様子だぞ」
剛と翔はどちらも女姉妹が居るのだが、姉であり居るのが当たり前であった剛に対し、4歳近い差がある妹を持つ翔としては「何か増えた」と言う印象を持っており、姉妹に対する感覚とか接し方が全く違っていた。
剛は気付いていたが、翔は実は女の子にモテる。コケティッシュと言える軽いくせ毛にちょっと垂れ目気味で顔立ちも整っていて、身長も同世代では高く均整の取れた体型。
しかも口調は基本的に柔らかく、特に女性に対してはかなり丁寧な言葉遣いをしているので、最初は勘違いをする子もそれなりにいる……のだが、そう言う時に翔は大体「アタシが愛してるのは剛ちゃんだけなのよーん」と言って、決して一定以上の緊密さにはならないようにしていた。
翔は、時間が惜しいのである。平成年間では許されていなかったが、妖魔出現によって男手が足りなくなった昨今は、中学生バイトがかなり盛んである。
父親がいない翔は、家計を少しでも楽にできるように夕食後の午後7時から2時間、自転車で5分ほどの所にある零細の町工場に、バイトとして品物詰めと配送手配をやっていた。
彼女など作ってる暇が無いのだ。それを、親友である剛を出汁にして胡麻化しているのである。
(翔の「努力なんかする訳ねーじゃん」ほど、嘘っぱちは無いなぁ)
剛にも決して努力する姿なんて見せない翔。だからこそ、中間・期末の定期試験でも学年50番以下になる事が無かった。
定期試験はまだしも、別に行われる学力考査試験では翔は大体学年10番以内だった。要するに、直近で習った事の試験は復習時間が足りないため、他の生徒の後塵を拝する事が多々あるが、これまで習熟してきた事で行けば剛も舌を巻くほどの地頭の良さを誇るのである。
己を誇る事が無い。
だからこそ、剛はそう言う翔を信用している。
虚勢を張ったり他人を蹴落としたり。そう言うのとは無縁どころか、事あるごとに自らを道化として場を和ませたり納めたりできると言う、剛には欠片も真似できない事を自然体で出来る翔と言う親友を、剛は誇りに思っている。
「翔。一緒にトーイチ行こうぜ」
声を掛けられた翔は、ほぇ?と言った顔で剛を見るとニヤッと笑って答えた。
「俺だけが受かるかも知れねーぞ?」
フッ。
「その時は翔がストーカーしてくれよ」
「剛ちゃんの彼女候補を潰すの?ダメだろ?いや……アリなのかな?」
気の置けない親友の会話は尽きなかった――
第16話 『You're My Best Friend』 Queen




