第134話 Hold the Line
2学期の始業式もあと1週間と迫った8月25日――
剛達は教官から、10時半には第1格技室に来るように通達を受けていた。
その日は都内の対妖魔特設高校三校合同夏季特別講習が行われる日であった。
そして剛達4人が呼ばれた理由は――特技科生徒における三校合同の模擬戦に参加するためである。
通常なら有り得ない話であったが、そもそもトーフ2年生が特技士として活動する事自体が有り得ない話であり、有り得無なさで遥か上に行く特技士の活動に掻き消されて剛達は対妖魔特設校の3年生との模擬戦を行う事が、剛達の知らぬ内に勝手に決まっていたのであった。
(まあ……あの時より4人とも強くなってるから、拒否は無理、だろうなぁ……)
特技士である以上『戦う』ことに対して、簡単には断れないと言うのが実情である事を、剛は肌で感じ取っていた。
「うおっ……すげぇ人数だな……」
特技科はトーイチが5クラス、トーニも5クラス、トーサンが2クラスの12クラスあり、それが3学年で36クラス。1クラスの定員は32名のため、1,100人を超える3校の特技科生徒が一堂に会していた。
剛達が第1格技室に入ると、三校の高校生特技士達は4人を見て――トーフの制服を着ているため目立っており――周囲では声を潜めながら値踏みするように剛達の事を眺めていた。
定刻となり全員が整列すると、トーイチ特技科の格技担当教官が壇上から簡単な説明が行われた。
その後学年ごと、トーイチ・トーニのクラスごとに15組に分かれ、トーサンは事前に説明されていたのか12、3名ずつに各グループに組み込まれた。
剛達4人はトーイチ3年Aクラスがいるグループに入れられる。その中にはこれまで何度も模擬戦を行ってきた平沢達と言った面々が顔を揃えていた。
だが、そこで担当教官から発表された事に騒めきが起こる。
剛達4人は、トーイチ生こそ1対1の模擬戦であったが、トーニ・トーサン生相手は1対2、2回目は2対4の、自分達より多い人数を相手にした模擬戦を行う事になっていた。
「おいおい……無茶過ぎんじゃねぇかよ……」
翔がドン引きしながら呟くが、剛は然程心配はしていなかった。今の今のこの4人であればトーイチ3年Aクラスならまだしも、トーニ・トーサンの特技科生徒であれば凌駕している事を理解していたからである。
「大丈夫。やってみれば分かるさ」
剛は翔に気楽に声を掛けて、模擬戦用の木製のハルバードを振り回してウォーミングアップを始めるのであった。
剛達4人は同時にトーサン3年Aクラスの2名を相手に、第1格技室の夫々の場所で対峙して模擬戦用の武器を構える。
「始めっ!!」
トーイチ格技担当教官の掛け声で二人を相手にした模擬戦が始まると、剛は相手の事を理解するため少し様子を見る。
(槍使いと両手剣遣い……ある種、オーソドックスな組み合わせだが、どう出てくるのか……)
だが、トーサン生は牽制はしてくるものの実際に打ち込んで来る気配が無い。
(それなら……こちらから)
剛は相手の出方に注視しながら少しずつ対戦相手の二人に歩み寄って行く。
「い、イヤーーーーーーッ!」
両手剣遣いが溜まらず間合いでも無いのに無理やりに長剣を振るう。
剛は乱雑に振られた両手剣を軽く捌いて体を流すと、振るわれた両手剣士では無くその先に駆け寄って槍使いにハルバードを振るい、斧頭を見舞う。
首筋に木製とは言え斧頭を突き付けられたトーサン生はへなへなとその場に崩れ落ちる。その間、踏鞴を踏んで通り過ぎていた両手剣遣いが振り向きざまに力任せに剣を振るうが、剛は柄で受け流すと再び踏鞴を踏んで通り過ぎたトーサン生の後頭部にハルバードの穂先を突き付けた。
開始僅か18秒。穂先を突き付けられたトーサン生は前のめりに崩れ落ちて立ち上がる事ができなかった。
状況は他の3人も戦況としては似たようなものであった。
希美は剣士とバトルアックス遣いであったが、瞬時に得物を叩き伏せて7秒で終わらせていた。
奈緒はハンマー――スレッジハマーとも言える直径15cmのヘッドのハンマーを叩き下ろした時点で相手は戦意を喪失し、僅か4秒で担当教官からそこまでの掛け声が掛けられた。
翔は長槍とウォーハンマーと言う苦手な長柄武器を獲物とした相手と対峙したが、剛より遅い突きの槍と奈緒より温いウォーハンマーが相手で瞬時にステップを繰り出して手首を叩き、得物を落とさせると言う立ち回りで10秒で勝負を決めていた。
続くトーニ生との1対2の模擬戦も、その次のトーイチ3年Aクラスの特技士との1対1の対戦も、その先のトーニ生との2対4の模擬戦も大差が無い状況であった。
剛と希美、翔と奈緒に分かれた二組はどちらも20秒以内に対戦を勝利で終わらせており、その異常な強さを見せつけていた。
そして最後のトーイチ3年生との対戦となり――剛は平沢、希美は田井中、翔は秋山、奈緒は田中との対戦となる。
得物の相性と言う点で一番良かったのは、細剣の翔を相手にした槍使いの秋山であった。
獲物の間合いの差を活かそうとした秋山であったが、そのリーチの差は全く役に立たかった。繰り出す穂先をステップと細かい斬り払いで悉く防ぐ翔は徐々に間合いを詰め、恐怖感を抱いた秋山が力任せの突きを繰り出すば、翔はサイドステップでその突きを掻い潜ると秋山の喉元に細剣の切っ先を突き付けるのであった。
相性と言う意味ではスレッジハマーとバトルアックスと言うパワー系同士で五分の、ハンマー遣いの奈緒を相手にしたバトルアックス遣いの田中であったが、遠慮無く振るわれる奈緒のハンマーに手を焼いて真面に討ち合う事ができず、自身の頭を襲って来たハンマーにバトルアックスを翳したが軌道を変えられて横殴りに得物を刈り取られ、痺れた手を押さえる事になった。
相性で言えば一番最悪なのは田井中であった。刃渡り75cm程の双剣遣いであるが、刃渡り1m程の長剣を使う希美からしたらリーチの差がかなり大きい。
しかも、実際に討ち合い始めたら双剣遣いの田井中よりも希美の方が手数が多く、防戦一方となっているところに軌道を変えられた斬撃を受け、左脇腹の1cmに添えられた希美の木剣を驚愕の目で見る事しかできなかった。
平沢は剛と対峙するが、正対した時から背筋に冷や汗が止まらなかった。
(何だこの、殺意に近い気合を込めながらも氷点下のような冷ややかな感情は……この男、どれだけの修羅場を潜っていると言うのだ?!)
長剣とは言え刃渡りは120cm程で、2.5m程のハルバードに対しては間合いが遥かに短いため、剛の懐に潜り込まらなくてはいけないはずの平沢であったが、剛から発せられる熱と冷気に当てられて足を進める事ができなかった。
(ならば……後の先で……一瞬で決める……!)
そうやってジリジリとした焦燥感の中で長剣を構える平沢に対し、剛は右手一本で演舞で旗を振るようにハルバードを八の字に描き始めた。
(何だ?!何のつもりだ、これは?!)
少しずつ、一歩ずつ、近寄ってくる剛のプレッシャーに押し負けて、平沢はじわじわと後退するも長剣は正眼に構えたままであった。
(この馬の骨め……何のこけおどしだ?!)
僅かに切っ先を上げたその瞬間、剛のハルバードが軌道を変えて穂先が平沢の炭田辺りを指し示した。
(こんな……こんなバケモノが4学年下……だと?!)
トーイチのトップを誇っている平沢は、対戦した剛の次元の違う戦いを目の当たりにして恐れ戦くのであった。
第134話 『Hold the Line』 TOTO




