第133話 ピースサイン
夏休みに入り、5日程経った日の事であった。
その日も剛達4人は格技室で模擬戦を行い、一通り終わってそろそろ昼食にしようかと言う時間帯。
≪対妖魔警報発令。対妖魔警報発令。妖魔出現場所は渋谷区代々木神園町。校内に居る特技科生徒は特装具を装着、特装器所持の上、地下駐車場に集合せよ。繰り返す。対妖魔警報発令……≫
その瞬間、剛が緊張した顔をした事を希美は見逃さなかった。
「……天道、なの……?」<
希美の問い掛けに剛は黙って頷くと、翔と奈緒に向き直り二人に向かっても黙って頷き、格技室の出入口に向かって駆け出して行く。
地下駐車場に向かうと160名程の生徒が集まっていた。
妖魔出現場所は代々木公園、その数およそ1000体。特別警報の発令には及ばないが、SUAD本隊がスクランブルで出動する妖魔の数である。
今回は場所が代々木公園と渋谷に程近いためトーニ生も特務実習として出動し、代々木公園道路を挟んだ南側である代々木競技場方面をトーニが、道路北側の公園緑地帯をトーイチが担当する事になっている。
そして剛はそこに天道が居る事を知っており、剛から話を聞いていた希美もその事を理解していた。
代々木公園の北西に位置する駐車場に剛達が搭乗している装甲輸送車が停車すると、屋上の特装器格納庫に置いていたハルバード型の特装器を掴むと剛はハッチから飛び降り、すぐさま当たりの様子を確認する。
既にトーイチの3年生から1年生が各所に分散して組織だった討伐を開始しており、遠距離範囲攻撃の特技は使用する事が難しい状況となっていた。
剛と希美は顔を見合わせて頷くと、公園北側に位置する国立オリンピック記念青少年総合センターに沿うような場所を目指して妖魔を討伐し始める。
〈溶岩弾!〉
剛が上空に屯しているランクD妖魔のグレムリンに向けて銃弾サイズの100発を超える溶岩をマシンガンのように放つと、曳光弾のように尾を引いた溶岩は次々と命中して炎を発し、30体を超えるグレムリンの集団は煙となって消えていった。
〈飛翔斬!〉
希美は地上で破壊行為を行っているゴブリンやコボルドの集団に対して空気の刃を連発で3発放つと、音を置き去りにする速さで妖魔の集団を切り裂いて塵と化していく。
翔は空気矢で木々の間を抜けた先のオークを数体倒し、奈緒はハンマーを振るって手近な妖魔を殴り飛ばす。
妖魔を次々と討伐している中、希美がある違和感に気付く。
(飛翔斬で倒しているのに爆発?……一体何が……)
希美は素早く剛に駆け寄りながら数体のゴブリンを炎刃で倒すが、やはりその中の1体が不可解な爆発を起こして四散する。
「剛!倒すと爆発する個体がいます!何か敵に狙いがあるのかも知れません!」
その希美からの言葉を聞き、嘗てこの場に特務実習で出動し、天道と対峙した時の事を思い出す。
「青少年総合センターだ!理由は分からないが、奴らはそこを爆破しようとしている!」
敵の目的を剛から教えられた希美は一瞬驚愕の表情を浮かべるが、直ちに表情を引き締めると視線の先に居る妖魔達を睨んで長剣の特装器に法力を――黒の個性を用いて込めていく。
「なら、確実に殲滅しなくてはいけませんね」
〈法力吸引〉
数十体の小型妖魔から法力を奪い取ると生命力を奪われた妖魔は次々と地面に倒れ伏して、数体が爆発すると同時に残りの妖魔と合わせて消滅していく。
奪い取った法力と自らの法力を特装器に込めると、その先に見える3体のサイクロプスに向けて長剣を振り下ろした。
〈即死〉
希美の特技を受けたサイクロプスはガッ!と呻いたかと思うと仰向けに、前のめりに、横倒しに倒れ、激しい爆風を撒き散らしてこの世から消え去って行った。
「妖魔が爆発するんだったらあたしも爆裂使って良いかな~?」
「駄目に決まってんだろ!」
相変わらずボケとツッコミのような会話をしながら奈緒がハンマーで数体の妖魔を殴り飛ばし、生じた隙を埋めるように翔がトリッキーな動きでレイピア型の特装器を振るい、その数を減らしていく。
「もー翔んるんは煩いなぁ~~」
そう言うと奈緒はハンマーを胸の前で斜めに構えると法力を込め始めた。
〈火炎柱!〉
奈緒が特技を発動させると15本程の炎の柱が立ち上がり、その場にいた妖魔を瞬時に焼き尽くす。
「……そう言うの使えんなら爆裂よりそっち使えよ」
「もー翔んるんは煩いなぁ~~」
二人は口々に言い合いながら、妖魔を次々と屠って行くのであった。
剛達が青少年記念センターに向かう妖魔を一頻り討伐し終わったその時――
絶対零度を思わせるような凍り付く空気が戦場に蔓延する。
悍ましさを凝縮したような何かが、この場に居る事を知らしめるかのように。
(この気配、天道だな!!)
剛は四方に目と気を配り、最悪の災禍を探すべく動き始めた。
気配を察したのは剛だけでは無く希美も同様だったが、希美としては初めて感じる背中を爬虫類が蠢くような艶めかしい不快感に、簡単にその不快感を捕らえるための動きが出来なかった。
(何……何ですか、この……気持ち悪さ……同じ世界に居てはいけない何か……それが、天道……光……?)
胃を突き上げるような不快感に耐えながら、希美は剛が駆け出した方向に向かうのであった。
10秒も駆けたその先に、そいつは存在していた。
そこに立っているのは、身長150センチにも満たない小柄な体に青みがかったショートボブの銀髪、白を基調としたロリータ風の衣装に身を纏い、真っ白にも見える顔に輝く金色の瞳は大きく見開かれてどこに焦点があるのか定かでない女――重警戒対象修羅第255号、天道光――
爬虫類のようなヌメッとしたその目を見開き、不自然に大きな口を開けて、人とは思えない鋸の歯のような牙を見せつける。
「あーーあ。ボウヤが邪魔してくれなければ今日のお仕事とーーーーっくに終わってたのにぃ」
蛇のような舌で唇を舐めると、天道は手にしたメイスを肩に担いで剛の方に近付いて来る。
「それなら先に仕事では無く……お前の命を終わらせてくれないか、天道!」
剛は力を込めて握る特装器に法力を込めると天道に切っ先を向けて特技を発動する。
〈岩石弾!〉
小指の先程の大きさの岩石120個程を発生させると、宛らマシンガンのように一点集中で天道目掛けて襲い掛かるが、天道は手にしたメイスを風車のように回転させると悉く弾き飛ばす。
〈炎刃!〉
天道が剛からの一点集中の攻撃に気を取られている隙に死角に回り込んでいた希美が特技を発動させて5mの炎の刃を叩き込むと、天道は忌わし気な表情を浮かべて左手を光らせる。
〈光防壁〉
天道が左手を翳して特技を発動すると自らを包み込むような光の半球が発生し、天道に迫る炎刃は半球に沿って分かたれる。
今度は意識が希美に向いた事を瞬時に悟り、剛は天道に素早く駆け寄ると緑の法力を込めて真向に斬り掛かる。
〈剛力斬!!〉
振り下ろした斧頭が衝突すると、天道の光防壁はガラスが割れるような音を立てて砕けて光の塵となり、天道は慌てて右手を引き、後ろに跳躍してからメイスを振るう。
〈破砕光球〉
野球のボール程の光球が迫るが剛は穂先の突きで爆散させ、辺りは光の爆風に覆われる。
周囲を満たした光で視界を奪われながらも、剛は天道に向かって素早く踏み込んでハルバードを振り下ろすと天道はメイスで受ける。
「何かアンタ達、気に喰わないわね……顔は覚えたよ。次は楽しい時間にしましょうよ」
天道が両手を翳して直視できない程の眩い光を生じさせて姿を消すと、オリンピック記念青少年総合センターに取り付く事ができなかった妖魔が次々とその場で爆発して行くのであった……
第133話 『ピースサイン』 米津玄師




