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Limitless  作者: 神 賢一
第八章 生まれゆくものたちへ

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第132話 明日をとめないで

 剛達4人は5月、6月と2回の特務実習を行っていたが、どちらも剛達からすると物足りない物であった。

 トーフどころかトーイチの更に先を目指して小学4年生の冬から鍛え上げてきた剛や希美は勿論、5年生から剛にしごかれてきた翔にとっても、そしてその3人から1年以上に渡り鍛錬を付けて貰っていた奈緒にとっても、300や500の妖魔の相手ははっきり言って役不足であった。

 立場上最低学年である事から、出動順がトーイチの3年生、2年生、1年生のその後となるため、ある程度妖魔の討伐が終わっていたり、既に混戦状態となっており大規模範囲攻撃が使えなかったりと、フラストレーションが溜まる戦いを強いられてきていたのである。


 梅雨入り前の6月中旬――

 いつも通り模擬戦を行っていた4人であったが、1時間程過ぎた所で希美が剛に対して提案してきた。

「模擬戦だけど、もう少し変化が欲しいと思いません?」

 かつて希美から聞いた言葉であるため、剛には直ぐにその意図を汲む事ができた。

「4人だけで模擬戦続けるのも幅が広がらない。そう言う事かな?」

 その言葉に希美は黙って頷くが、翔は眉根を寄せて困惑した顔をする。


「でも2年生じゃ話にもならねぇと思うぜ。格技の授業でも真面にやり合えるの片手も居ないんだし」

 その言葉に今度は剛が頷き、そして第9格技室を見回す。

「いるじゃないか。2年生3年生が」

 剛の答えに翔はぎょっとする。まさか3学年以上上の、トーイチの2年生3年生と遣り合おうと言うのか――

 困惑している翔の横でニヨニヨした笑みを浮かべた奈緒は、剛の意見に同意する。

「面白そ~~じゃん♪やろうぜやろうぜ♪」


「そんなに簡単に相手して貰えるかしら?」

 希美は自分から提案しておきながら疑念を口にするが、そんなのはお構い無しと奈緒は第9格技室に響き渡る声を放つ。

「トーイチの2年生、3年生の方ーー!どなたかあたし達と模擬戦やって貰えませんかーーー!!」

 その呼び声に応じたのは、剛の記憶にしかと刻まれているトーイチ2年Aクラスの男子生徒2人組――伊達と富澤であった。

「君らだろ?トーフ2年生なのに既に100体以上の妖魔を討伐しているのって。トーフ2年生で簡易特技士どころか特技士で前線に立っているって」

「それにさっきの模擬戦見ていたら、油断してたら俺達の方が危ないくらいだ。むしろお手合わせ願いたい所だったよ」

 その二人の申し出に、剛は笑みを浮かべて頷くのであった。


「君ら本当に中2か?……俺らも小学生から剣道やって来てたけど、ここまで勝ち筋が見えないって3学年下じゃなくて逆に3学年上を相手しているみたいだよ……」

「俺達一応トーイチの2年Aクラスなんだぜ……それを翻弄する君達って一体どんなバケモノなんだよ……」

 剛達が4人に対して伊達と富澤が2人と言うハンデがあるとは言え、2人が剛達4人全員と模擬戦を終えた時には二人とも足腰が立たないレベルで床に這いつくばっていた。

 対戦成績は――1対1の模擬戦で4人を相手にして、伊達も富澤も全敗であった。


 しかし、伊達と富澤が4人と模擬戦を行った事が呼び水となり、剛達の元に次々とトーイチ生が模擬戦を申し込んでくるようになる。

 声を掛けられた順に剛と翔、希美と奈緒で対戦するが、その顔触れを見て剛はある事に気付く。

(平沢さん達4人がいないな……)

 希美と奈緒が模擬戦をやっているタイミングで剛が第9格技室を見回すと、やや遠巻きにして模擬戦の様子を見逃す事無いように凝視している平沢達4人の姿を見付ける事ができた。

(成程……間合いや癖などどう言う戦い方をするのか分析しているんだな……)


 剛が4人の様子を眺めていると一瞬平沢と目が合い、ふっと笑うと平沢は目を逸らして3人を促し、自分達の模擬戦に戻って行った。

(流石だな……敵を知り己を知る、と言うところか……)

 剛は既に次に平沢達と模擬戦を行う事になった場合、どのように攻撃の手を繰り出すかを早くも考え出すのであった。



 7月に入るとその平沢達4人も模擬戦の相手に加わり、剛達4人は毎日のように格技室で研鑽を積み上げていった。

 その年は空梅雨で6月末辺りから既に猛暑が続いており、西新宿駅から地下通路経由でトーフに向かう剛や翔ですら教室に着いた時にはかなりの汗をかいているのだが、不思議な事に中野坂上から徒歩25分程で通学している希美は軽く汗をかいた程度の涼しい顔をしていた。

 そして奈緒はと言うと……西新宿駅から剛達と同じように地下通路経由で来ているのだが、汗だくとなり自席でぐったりしていた。

「と……溶けるぅ……」

「上から塩掛けてやろうか?」

 翔のツッコミにナメクジじゃないんだからと剛は苦笑いするが、それすら反応したくないのか奈緒は机に突っ伏して暫く動かない状態であった。


「最近模擬戦ばっかりで詰まらないと思いま~~す!」

 昼休みの学食で突如として奈緒が現状の不満を言い始めた。確かに模擬戦以外のイベントと言えば、春休み期間中の4月1日に小金井公園の屋外修練場での模擬戦後に吉祥寺にウインドーショッピングに出掛けたくらいで、中学生らしからぬ日々を過ごしているのは事実であった。

「お前朝の通学だけで溶けてただろうが。この時期昼間の屋外なんて死ねるぞ」

 翔の言う通り、今日の東京都心部の最高気温は35度予想となっており、この気温は日陰で風通しが良い観測所のものであるため、直射日光が当たるアスファルト路面上は更に3度以上上がっていてもおかしくない状況である。

 ただ、今日の夕方から雨予報となっており、明日そして明後日の土曜日は最高気温は26度前後の予想となっているため、比較的過ごしやすい日になりそうなのも確かであった。


「それは良いけど、奈緒はどこか行く当てあるの?」

 希美の質問に奈緒は満面の笑みになり、席を立ち上がって指を立てて答える。

「今は池袋が熱いと思いま~~す♪」

 池袋、と聞いて3人は顔を見合わせる。どうしても動線は新宿駅までのJR中央線沿線か東京メトロ丸の内線沿線が多く、基本的に池袋に足を運んだ事があるのは朝霞から小金井に引越して来る前の翔くらいであり、それも5年程前の話であった。

 そのため翔も朧気おぼろげな記憶がある程度で、剛と希美に至っては全く土地勘が無い場所であった。

 とは言え提案してきた奈緒も3年程前に家族と出掛けた1回きりしか行った事が無いため、どこに何があると言った詳しい事は分からなかった。


「目的がぇと行ってもつまらねぇだろ?何かあるのかよ」

 翔が奈緒に尋ねると目を輝かせて答える。

「プラネタリウム!屋上展望台!水族館!テーマパーク!!」

「いや一つにしろよ金持たねぇわ」

 確かに奈緒が言った施設を全部回ると中学生の料金でも5,000円を超える中々の金額になりそうであった。

 話し合った結果、午前中に展望台を予約して屋上から眺めを楽しみ、一旦外に出て昼食後に水族館に行く事が決まったのであった――



 その週の土曜日午前9時、池袋駅東口北交差点付近――

 池袋の待合せと言えば『いけふくろう』が有名であるが、駅コンコースにあり人の流れが激しいため、駅を出て交差点を挟んだ家電量販店の前で剛と翔は希美と合流していた。

「またいつものパターンか?今度も何か食ってんじゃねぇよな」

 いつも、と言うものの校外での待合せはこれまで2回……なのだが、どちらも奈緒は待合せ場所に何か食べながら現れている。

 今日は誘惑多そうだな、などと剛が考えていると、交差点の駅側から歩いてやって来る奈緒――手には交差点の角の店で買ったと思われるカスタードアップルパイ――が姿を現した。

「やっぱまた食ってんじゃねぇかよ!」

 剛は苦笑いしながら希美に視線を送ると、希美も苦笑いを返すのであった。

第132話 『明日をとめないで』 美郷あき

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