第131話 往け
入間に依頼した特装器については、剛を含めて全員が前世でトーフに入学した時と同じ内容であった。
「特装器としては、神野が長さ2.5mのハルバード、鈴木が直径15cm長さ40cmのヘッドのハンマー、星野が刀身100cmの諸刃直剣、本田が刀身90cmのレイピア……片刃で良いのか?」
入間の問い掛けに翔は頷く。その翔の様子を見た入間はふむ、と頷いて顎に手を置き、少し思案した後答える。
「良かろう。並行作業になるが、特装具と併せて3日もあれば出来上がるぞ。期待して待っておれ」
「あの入間って人、1年生なんだろ?任せて良かったのか?」
当然とも言える疑問を翔が投げ掛けてくるが、剛は自信を込めた笑みで返す。
「特装の事なら入間さんに任せておけば間違いない……いや、凄い物が出来上がるはずだ」
剛の言葉に胡散臭いと言った顔を翔は見せるが、希美は話を聞いていた事から剛の判断に異を唱えるどころか全面的に信用していた。
「おっぱいは正義だ~~!あのおっぱいならきっと我々の期待を超えた物を作るであろうぞ~~~!」
「煩えよ」
急に謎の演説を始めた奈緒に対して翔が軽くチョップで突っ込む。
刃渡り15cm~~!おっぱいの敵~~!と喚く奈緒を余所眼に希美は剛に尋ねる。
「3日、と入間さんは言ってましたが、そうすると今日が木曜日ですので……金、月、火で水曜に取りに来れば良いのでしょうか?」
剛はふっ、と笑うと希美に向けて答える。
「違うよ。金、土、日。日曜の夕方には出来上がってるから、月曜の昼に行くのさ」
その言葉に流石の希美も目を丸くして驚くのであった。
翌週月曜日――4月14日。
剛は少し早く家を出てトーフ……ではなくトーイチの特装科工作室に入間を訪ねていた。
「来たか少年。とっくに特装は出来上がっているぞ。今から持って行くか?」
工作室内のゲームチェアのような椅子にどかっと座った入間が相変わらず胸を強調するように腕を組んで剛を迎えるが、剛は薄らと笑みを浮かべて軽く首を振る。
「3人を驚かせたいので昼食後に来ます。俺も仕上がりが楽しみですよ」
その言葉に入間はニヤリと悪どい笑みを見せるのであった。
昼休みになり学食で昼食を取った後、トーイチ特装科の工作室に4人が向かうと廊下に入間が腕を組んで――その体勢は自慢の胸を強調するのだが――仁王立ちで待っていた。
(相変わらずと言うか……ブレない人だよなぁ)
苦笑いをしつつ、剛は入間に向かって歩み寄る。
「手に取って良いですか?」
「おうよ!お前らのために制作したんだ。遠慮なく手に取るが良い」
入間に言われるがままに特装器を手に取ると、4人はそれぞれ感銘の吐息を吐く。
(これは……やはり凄い……)
「気に入って貰えたようだな。特装技師冥利に尽きるよ」
その言葉に剛は頷き返す。
「最高です……入間さんに頼んで、正解でした」
その言葉に、恵曰くのおっぱいお化けは胸をゆさゆさと揺らしながら剛達の反応を楽しんでいた。
「まあ、足りん所とか違う所とかあれば遠慮なく言うが良い。特装に関しては労力は惜しまんぞ」
その入間の言葉に4人は笑みを浮かべて頷くのであった。
放課後になり、4人は特装器を手にして第4格技室に向かった。
前世の記憶がある剛を除く3人は本物の特装器を手にするのは初めてであり、特装器を使用した特技の発動もこれが初めてとなる。
最初に剛が的から30m程の定位置に立ち、ハルバード型の特装器を掲げて法力を発生させる。
〈隕石群〉
剛が特技を発動すると第4格技室の天井近く、約15mの上空に30個程の黒い点が現れ、赤く燃え上がって灼熱を放ち始める。
(やはり30個程度……5倍の増幅量だな……)
しかし、通常は特装器を使用する事で3倍程度増幅される事を知っている希美は唖然とした表情を浮かべ、翔と奈緒もその威力に驚愕して言葉が出ない状態であった。
「あり得ないですね……以前剛が特装器無しで発動した時は隕石の数は5個……少し特技が強化されてると考えても、3倍どころか5倍位に増幅されています……」
事前に入間の事と、入間が製作した特装の事を聞かされていた希美ではあるが、実際に目の当たりにすると驚きを隠せなかった。
剛に続いて翔は空気矢、希美が炎刃、奈緒は爆裂――を発動しようとしたが翔から軽くチョップを喰らって止められ、止む無く火炎矢を発動させるが、やはりどの特技も5倍程度の増幅量を見せていた。
「これは……剛ちゃんが入間さんに製作を依頼したのが良く分かるぜ……」
翔の言葉に希美も奈緒も頷くのであった。
その特装の真の威力を試す機会はそう遠く無く訪れた。
ゴールデンウィークに入る直前の4月25日。5時限目の授業を受けている最中に対妖魔警報が発令され、トーフの2年生、3年生は特務実習が行われる。
ただ、3年生の内AクラスからCクラスの生徒は基本的に特装を装備してトーイチ特技科生徒の戦闘の見学が主体で、妖魔が接近するなど危険な場合のみ自らも戦闘を行うが、基本的には手を出さないように指導されている。
DクラスやEクラスの生徒や2年生に至っては特装を所持していないため、3年生の護衛の下見学するに留まる。
その2年生の中で剛・希美・翔・奈緒の4人は例外であり、特装具に身を纏い、特装器を手にトーイチ1年生の列に加わる事となる。
妖魔出現現場は新宿区大久保三丁目。名門大学のキャンパスや公務員宿舎などが立ち並ぶが、隣接する戸山公園大久保地区内――トーイチの時に剛達が妖魔殲滅を行った戸山公園だが、箱根山地区では無く明治通りを渡った西側――に300体程の妖魔が出現したとの事であった。
だがその中にランクC妖魔のトロルも10体程確認されており、数こそ多くないが警戒度はやや高めであった。
(それでも、今の俺達なら一人一体のトロルくらいなら簡単に討伐できるだろう――)
現場に到着すると剛と希美、翔と奈緒の2人1組となり、最後列から妖魔の群れに突入して行く。
「混戦状態だ!特技を使うにしても法力を絞ってトーイチ生に当たらないようにするぞ!」
そう言うと剛はハルバード型の特装器に法力を込め、乱戦となっている地帯の妖魔に狙いを澄まして特技を放つ。
〈岩石弾!〉
拳大では無く銃弾程の大きさの岩石を発生させ、ばら撒く方法でなく精密射撃のようにゴブリンやコボルドの頭部に狙いを付けて放たれた特技は、1体1体と妖魔に命中してその姿を塵に変えていく。
続く希美と翔は上空5m程を漂うグレムリンに向け、こちらは地上とは違い味方への誤射はないため遠慮なく飛翔斬や空気矢を放ち一網打尽にする。
奈緒は開けた空間を駆け抜けてトロルに向き合うと脚部をハンマーで殴り飛ばし、崩れ落ちた所を軽く跳躍して頭部から叩き潰す。
「お前それ特装器の威力関係ねぇなぁ!」
翔のツッコミを背に、奈緒はハンマーを遠慮無くぶん回し続けるのであった。
終わってみるとトーイチ特技科生徒約460人がいる中で、剛と希美が30体ずつ、翔と奈緒が20体ずつと、4人で100体と言う全体の1/3を討伐していた。
その結果にトーイチ1年生は嫉妬の、2年生は憧憬の、3年生は賞賛の視線を剛達4人に向けるのであった。
そしてその4人の戦いぶりを装甲輸送車の屋上で胡坐をかいて双眼鏡で眺めていた男は、ただでさえ細い眼を細くして普段以上の満面の笑みで称えるのであった。
「いやぁ、想像を遥かに超えるトーフ2年生ですねぇ。これは困りましたねぇ」
第131話 『往け』 LiSA




