第130話 NEO UNIVERSE
2024年11月――
来季に向けた検討会議が、防衛省妖魔対策特別部隊本部で行われていた。
会議室には防衛省妖魔対策課長、SUAD本部長・人事部長および東部方面部隊長、東京第一高校附属中学校校長・教頭・1年学年主任など、数々の面々が集まっていた。
議題は来年度におけるトーフ2年生に対する特例措置……具体的には、剛・希美・翔・奈緒に2年次から簡易特技士――ではなく、特技士としての資格を承認するか否か、であった。
「あり得ない!あり得なさ過ぎる!!簡易特技士どころか特技士なんて、常識を考えてみろ!」
「あの4人が常識の範疇にいると思うのか!彼らを前線に出さない事こそ損失だろうが!」
「しかし彼らはまだ中学1年生です!義務教育期間であり、本則通り3年次から簡易特技士として徐々に慣れてもらわないと、何かあった時にそれこそ大いなる損失です!」
既に1時間を超えた会議で議論は平行線を辿り続けており、結論が何時になったら出るのか誰にも分からない状況であった。
その時SUAD制服を着用した一人の男が立ち上がる。
180cm程の細身に見えるその姿は、限界まで引き締まった体を服で隠した一見すると眼鏡の優男にしか見えない。
だが、その室内に居る面々はこの男を無下に扱う事は全くできなかった。
その男こそ――SUAD現役最強特技士、御魂衛である。
「私が、彼らと共に戦いたいのですよ。SUAD隊員でも、トーイチ3年生でもなく。そのためには簡易特技士では、私と共に妖魔を、修羅を、狩れないじゃないですか」
「御魂三佐、そ……それは……」
「なーに。簡単な事ですよ。彼らが戦える、妖魔を討伐できる『法』を整備すれば良いだけですよ。違いますか?」
御魂はニコニコとした笑顔を崩さずに、いとも簡単に持論を述べる。
唖然として言葉が出ない周囲を見渡して御魂は駄目押しと言える言葉を述べる。
「この冬の通常国会に法案を提出します。特例法を制定して、来年4月から彼らを特技士として認定できるようにする……それに尽力してください」
12月になると空っ風による冬の寒さと共にとある噂も風のようにトーフ内を漂っていた。
(何か……チラチラ見られている気がする……と言うか、気がするじゃなくて、実際にチラチラ見られているな……)
剛は他の生徒達――クラスだけでなく上級生も含めた全校生徒からの視線に気付くようになる。
その事は希美も翔も――奈緒は視線を浴びてはギャルポーズを取って気にも留めず――感じ取っていた。
「不可解ですね……今までも忌避するような目では見られてきましたが、何となく気配が違います」
「あーそれは分かるぜ。何つーか、今までとは見る目が違うと言うか」
昼休みの学食で昼食を取りながら3人で話をしていると、奈緒が不思議そうな顔をする。
「ん?みんな聞いてないの?」
その言葉に3人は奈緒の方を見遣ると、きょとんとした表情に変わる。
「あたし達4人、2年生になったら妖魔討伐するんだよ~~♪」
「「え?」」
奈緒の言った事が希美と翔は理解できずにお互いに顔を見合わせるが、心当たりなど全く無く首を振るだけであり、再び奈緒の方を見る。
「何とかって法律ができて、あたし達は特技士になって特務実習に参加するようになるんだよ~~♪」
「……聞いてねぇし、そんな話……」
いつもなら切れ味鋭いツッコミを見せる翔であるが、流石に唖然として言葉を漏らす事しかできなかった。
「ちょっと待って。奈緒、今簡易特技士じゃなくて特技士って言ったよね?」
剛がかつて人生において2年生から簡易特技士になった記憶があったが、奈緒の言葉に違和感を持ち尋ねる。
「そうだよ~~。簡易特技士じゃなくて特技士だって~~♪」
その言葉を聞いて剛と希美は顔を見合わせ、黙って頷いた。
簡易特技士の場合は避難誘導など民間人の安全を守る活動が主体で、妖魔との戦闘は緊急の場合以外は行わない事となっている。
それに対して特技士は対妖魔の最前線――正に命を張って妖魔を討伐する、都内における対妖魔の主戦力である。特にトーイチは西新宿を中心とした半径5km圏内をカバーする東京都心の護り手として存在しており、そのトーイチ生と共に剛達4人はトーフ2年生の立場で妖魔との戦いに挑む事になる。
「それなら特装製作して貰わないと、だな。いつ製作して貰えるんだろ?」
「いや、まだ決まった訳じゃないから。気が早過ぎるだろ」
先走った翔の言葉に剛が苦笑しながら返す。気が早過ぎると言ったものの、ほぼ確定事項である事を剛は理解しており、来年4月に入間がトーイチ特装科に入学してくるのを今から心待ちにしていた。
「何だか嬉しそうね、剛」
3年程前――剛が現世に転生してきたその日に剛本人から話を聞いていた希美は、その話と照らし合わせる事で剛の考えている事が朧気ながら理解できた。
剛が転生を繰り返しているその目的――天道を討ち果たすと言うその日に向けて、より早く、より強く、力を付ける必要がある事を希美は知っており、自らの命を奪う事となる天道に対抗するために希美自身もより高みを目指さなくてはならない。
トーフ2年生からの特技士として活動する事は、そのステップに他ならない事を二人は強く感じていた……
その年の年末の通常国会において「国立対妖魔特設中学校生徒における特例措置法」は可決成立され、2025年4月1日から施行される事が決定した。
クリスマスイブに剛が希美を自宅に誘ったり、元旦には十二社熊野神社に参拝したり、3学期になっても毎日のように模擬戦を行って4人は過ごしていた。
そして2025年4月7日――新年度のトーフ始業式が執り行われ、その後剛、希美、翔、奈緒の4人が特例措置法の対象者である事が発表された。
現時点では特装を所持していないため特務実習には参加しないが、既に特装製作の準備はトーイチ特装科で進められており、3日後の4月10日にヒアリングが実施される事が決定していた。
そうして迎えた4月10日の放課後、剛達4人は特装製作のヒアリングのためにトーイチ特装科工作室がある総合舎のフロアに向かった。
「私に作らせれば良いではないか!2年生3年生は新入生の特装製作が立て込んでいるのだろう!」
工作室前の廊下から聞き覚えがある声が響き渡ってくると、剛は軽く苦笑する。
(まあ……変わらないな、あの人は……)
「お前は1年生だろう!まだ特装の何たるか、これから覚えていく段階じゃないか!」
「そんな物とっくに知っているし、既に何回も特装は作成済みだ!2年生どころか3年生にも引けを取らん!」
声のする方を見ると、特技科の教員と思われる眼鏡を掛けた40歳位の男性と、剛達と身長があまり変わらず白衣に身を包んだグラマラスな少女――入間聆――が言い合っており、剛は二人に向かって歩を進めた。
「あの、入間さんですよね?小金井三中の」
呼びかけられた事で入間は、ん?と言う顔をして剛の方を向き直る。
「ほぉ、ひょっとして君が噂の超法規的2年生か?と言うか何で私を知っているんだ?」
入間は剛の方に一歩歩み寄り、腰に両手を当てて自慢の胸を誇示するかのように胸を張る姿勢を取る。
「はい、今回特装を製作してもらう神野剛です。トーニに進学した三中の神野恵の弟になります」
恵の名を聞いた入間は目を見開き、直ぐに破顔して剛の肩をバシバシと何度も叩く。
「おー!そうかそうか、君があのぺったん娘の弟か!なーるほどぉ、あのぺったん娘の弟が超法規的存在だったとは意外だなぁ!」
翔は入間の「ぺったん娘」と言う表現に恵を思い浮かべてから吹き出し、何度も入間から肩を叩かれた剛は懐かしさ――数十回前の転生の時の事を想い出し、痛みに耐えながらも笑みを浮かべるのであった。
第130話 『NEO UNIVERSE』 L'Arc~en~Ciel




