第13話 Next Stage
― 転生準備完了。人類個体識別番号 281474976710655、出生名『神野剛』の転生を実行します。 ―
― 出生名『神野剛』の転生に成功しました。転生を終了します。 ―
もう何度目だろうか。
10回を超えた辺りで数えるのを止めた。
恐らく30回は超えているのだろうが、数えていないので正確なところは剛自身にも分からない。
(また……この場所か……)
30回以上見た、2026年3月31日の吉祥寺の光景。
繁華街を我が物顔で闊歩する妖魔の大群。炎上し崩壊する吉祥寺のビル。長剣を振るい妖魔を刈り続ける星野希美。
毎回出現する修羅・天道光。そして希美の機転――いや、計算し尽くされた特技により、法力の檻に天道は閉じ込められる。
(そして1年半後……また、俺は死ぬ……)
剛にとっては、もう何十回も見た映画を記憶しているように、その場その時の動きはイヤと言う程に見てきた。
(そう、天道が左上から振り下ろしてそれを希美が右に流して切り返す。それを天道が下から力業で弾き返す……)
全く同じ光景。全く同じ行動。全く同じ結果……
(……あれ……?)
剛は[当たり前]の光景に違和感を持つ。
(何で……これまでと一つも変わらないんだ……?)
気付いたのは、これまで30回以上見てきた光景――一挙手一投足――が、何一つ変わっていない事だった。
(何で……何で、同じ事しか繰り返していないんだ……)
不思議に思って見ているが、ふと、一つの可能性に剛は気付く。
(前世の……俺と違って、前世の、記憶が……無い、の、か……?!)
考えてみたら……同じ事、それも悪い事が起きるのが分かっているのに、誰も何も対策を採らないと言うのはあり得ない事だろう。
目の前で起きている吉祥寺での災禍において、天道は希美の特技による法力の檻で閉じ込められる。
それを知っているのであれば、今まで見てきたのとは違う動き方をしていてもおかしくない。
(変える事が……できる……のか……?)
今は無理だ。個性を持たない以上は妖魔に、そして天道に対抗する手段を手にする事が出来るはずも無い。
だが――個性を――剛が獲得する事ができたなら――
「で、何で剛ちゃんはココに来ようって思ったの?」
翌日の4月1日、剛と翔は午前中からトーサンの図書室に居た。
普通の高校であれば所属している生徒以外は立ち入る事は出来ない。
だがトーサン――国立東京第三高等学校は対妖魔特設校であり国の施設であるため、身分証――剛たちの場合は中学の学生証を提示するだけで入室する事が出来る。
そして剛は今図書室内の検索端末を使って、目的の書物がどの書架にあるか探していた。
答えない剛に代わり、翔は剛が捜査している検索端末を後ろから覗き見た。
「個性獲得??」
翔は眉根を寄せて、検索条件に記載された文字を読み上げた。
そこで初めて剛は翔の方を見た。
「うん。何か取っ掛かりでも構わないから、調べてみようと思ってね」
そう言うと検索結果をプリントアウトしてから立ち上がり、印刷された結果からどこの書架に本があるのか確認するために歩き始める。
「ふーん。それでトーイチに入って昨日の長剣の子のストーカーでもしちゃうの?」
翔は目的の場所に向かう剛の後ろを歩きながら茶化すと、剛は凄く嫌そうな顔をして翔を軽く睨む。
「……ストーカーはしないよ」
「でもトーイチは目指すって事ね?」
翔の言っている事は間違えてはいない。
「トーイチと言っても特技科だけじゃなく、特装科や特医科もある訳だし」
「トーイチ目指す事は否定しないんだ」
はぁーーっと溜息を吐く翔。
「剛がトーイチ行ったらお別れかぁ。俺はトーサン目指すし」
「はぁっ?!」
翔の言葉に、剛はつい大きな声で応じる。
「剛、声がでかいって」
案の定、近くにいるトーサンの生徒と思われる人から剛たちは見られて――人によっては睨んで――いた。
剛と翔は周りの人に頭を下げて謝り、印刷された紙に書かれた書架にいそいそと歩いて行く。
「翔……トーイチには……一緒に行ってくれないのか……?」
剛は不安そうな顔――いや、実際に翔の言葉は剛を不安にしたのだが――で、小声で翔に話し掛ける。
そんな剛を真顔で翔は見返し……急にヘラっとにやけた顔になって答える。
「嘘やでーー」
「…………は?」
呆けた顔で一言しか返せない剛に対し、翔はニヤニヤと言うよりニヨニヨと言う感じの笑いで返す。
「剛ちゃん、今日何月何日か覚えてる?」
「……4月1日……あっ」
そう、今日は4月1日――エイプリルフールである。
「ぐぬぬぬぬ……」
「リアルでぐぬぬって言う奴、初めて見たわ」
剛のリアクションに対して妙に冷静に返す翔。
「えっ?1冊だけ?」
あれだけ本を選んでいた剛に、借り出しが1冊だったことを翔は訝しむ。
「そんな、あれもこれも見てたら集中できないじゃん」
剛は自身に転生――[死に戻り]がある事を分かっているから、試す事を決めていた。
どのやり方が効率的なのか。何度でもやり直してみせると言う、そう言う意気込みで。
「まぁ……剛ちゃんがそう思うなら止めないさ」
ん、と返事をして、借りた本をリュックに仕舞い、剛は自転車置き場に向かうのであった。
(これ、白の個性得るのに本当に正しいのかよっ?!)
― 出生名『神野剛』の転生に成功しました。転生を終了します。 ―
(赤の個性、これで行けるのか?……もっと効率いいのは無いのか?)
― 出生名『神野剛』の転生に成功しました。転生を終了します。 ―
(青、ムズイ!難しすぎる!!このままだと獲得できない!!)
― 出生名『神野剛』の転生に成功しました。転生を終了します。 ―
(緑はこれでいいのか。もっと効率良い方法もあるのかな……)
― 出生名『神野剛』の転生に成功しました。転生を終了します。 ―
(これだ!赤はコレの方が圧倒的に効率的だ!!)
― 出生名『神野剛』の転生に成功しました。転生を終了します。 ―
(こうすれば……青が手に入るのか……手順が面倒くさすぎるな……)
― 出生名『神野剛』の転生に成功しました。転生を終了します。 ―
(緑をこう獲得すると、白が合わせて簡単に手に入れられるのか!!!これは凄い!!)
― 出生名『神野剛』の転生に成功しました。転生を終了します。 ―
(待てよ……緑の個性手に入れたけど、特技はどうやって発動するんだ?……個性の法力をこうやって……ダメだ、分からん……)
― 出生名『神野剛』の転生に成功しました。転生を終了します。 ―
(これだ……こうすれば法力を特技に変えられるのか……やっと……やっと隣に立つ立場に……一歩近づいた!!)
― 出生名『神野剛』の転生に成功しました。転生を終了します。 ―
2026年4月7日。
剛にとって、中学3年生の始業式の日である。
「移動だ。全員体育館へ」
教室に入ってくるなり担任の教師が生徒に声を掛け、全員が立ち上がり――立ち話をしていた者も何人かいたが――教室を出て体育館に向かう。
そこからは何度も……何十回も経験した、普通の始業式の景色。
その日の夜7時。家族四人で夕食の食卓を囲んでいる時に、剛は徐に想いを発した。
「父さん……俺、トーイチに……行きたい」
全員が黙る。
当たり前である。個性が無い剛がトーイチ――国立東京第一高等学校――に進学すると言う事は、50倍を超える妖魔研究科を受験するか……個性を獲得してそれ以外の科を受ける以外ありえない話である。
「そ、そうか。……妖魔研究科は倍率高いが……大丈夫だぞ、都立でも私立でも、剛が行くには困らないからチャレンジす…」
「違うよ、父さん」
剛は父親のフォローに割り込む。
「俺が行きたいのは……特技科だよ」
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
恵が声を上げる。
「アンタこの間の吉祥寺の件でアタマ可笑しくなったの?!無個性のアンタが!何で!特技科行ける訳!!」
第13話 『Next Stage』 AAA




