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Limitless  作者: 神 賢一
第八章 生まれゆくものたちへ

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第129話 いつの日も

 剛がトーフに入学して3か月が経過し、あと2週間程で夏休みに入る頃。

 世間では様々な事が起きていたがトーフに通う剛達4人には余り関係無く、7月に入ってから梅雨は開けていないものの35度を超える日もあり、朝から汗を噴き出すような蒸し暑さが目下の悩みであった。

 とは言え、格技棟は空調完備のため外気温に左右されず、6月以降になると放課後は毎日4人で本格的な模擬戦を行っていた。


 その日は週3回の格技の授業があり、AクラスBクラス合同で授業を行っていた。

 両クラスの生徒64人は経験者枠と未経験者枠に分かれて、経験者枠は模擬戦を、未経験者枠は素振りから型稽古を行うのだが、希美は言うまでもなく、剛は2回目から、翔は3回目から、奈緒も6月からは経験者枠扱いで模擬戦に参加していた。

 今回、剛の相手はBクラスの――桂であった。同学年における都内屈指の剣士であり、かつての人生で肩を並べて戦った事もある同士であった。

(俺ですら油断したら危ない相手だ……慎重なのは大事だが、それだけでは簡単に勝たせてもらえない……どう出るか……)

 桂は剣道経験者らしく木刀を、剛は教官に許可を取って持ち込んだ自作の木製ハルバードを構え、正対する。


(真っ当に行こう。それで、今のお前に対してどういった戦いができるのか。それを、お前から教えて貰うぞ、桂!)

「始め!」

 掛け声と共に剛は牽制の突きを繰り出すと、桂はそんなのは児戯だと言わんばかりに回避して間合いを詰めて木刀を振るう。

(成程な。流石だ……だが!)

 剛は間合いに踏み込んできた桂に対して暴力的にハルバードを横薙ぎに振るうと、桂は木刀を縦に受けて間合いを取る。

 だがその間合いは剛に有利な距離となり、鋭く突きを3回見せた上で一歩踏み込み斧頭の一撃を見舞う。

 突きは軽く捌いた桂であったが斧頭は体勢を崩しながら回避すると、わざと床を一回転して剣を正眼に構えた状態で膝立ちからすっと立ち上がり剛に相対する。


 暫しの間対峙した状態でお互いに手の読み合いを行い、先に動いたのは――桂であった。

 正眼のまま滑るように間合いを詰める事で剛に次の手を読ませず、そのまま自分の間合いを作り出すと素早く上段に振り被る。

 間合いが近すぎる剛は真っ向斬りを受けるためにハルバードを両手で前に掲げるが、それは桂の誘いであり上段から円を描くように右下に切っ先を下げるとそこから逆袈裟斬りを繰り出す。

 だが――それは剛の読み通りの動きであった。

 剛はハルバードを持つ右手を斧頭近くに握り返すと、左手を引きながら斧頭を桂の首筋に突き付ける。

「そこまで!」


 桂は信じられない物を見るような目で、剛を見詰めた。

「あれを、見透かされるとは思いませんでしたよ……」

 桂の首に突き付けていたハルバードを引いて、剛は一歩引いて直立して桂に向き直る。

「桂が真っ当な剣士だったら、そう来るだろうなと想像したんだよ。タイミング的にはかなり危なかったけどな」

 その言葉に桂は若干鼻白む。

「神野くんが今の学年では突出しているんですね」

 その言葉に剛は首を振る。

「一番強いのは希美……星野さんさ。毎日放課後模擬戦やってるから、桂も来るか?翔と奈緒も一緒だが」

「バケモノしかいないじゃないですか」

 桂は肩を竦めて苦笑いすると一礼し、終わりとばかりに剛に背を向けて生徒溜まりに歩いて行った。


「中々手強い使い手って感じだったですね」

 戻って来た剛に希美は労ねぎらいの言葉を掛ける。

「Bクラスなのが不思議なくらいですね。まあ、入試では剣技を見せる機会は無かったから、加点される要素が少なかったのかもしれないわ」

 希美の言葉に翔はそんなもん?と言った顔をする。その隣で奈緒は、どこから持ってきたのかメイス3本で何故かジャグリングをしていた。

「鈴木!曲芸の授業じゃないんだぞ!」

 案の定、現世でも奈緒は担当教官に叱られる羽目になる。




 今週で1学期も終わると言う週の月曜日――

 昼休みの学食で、剛、希美、翔、奈緒と言ったいつもの顔触れで昼食を取っていた。

「夏休みの間だけど、模擬戦はどうしますか?皆さんも予定有ると思いますが」

 希美の申し出に剛は軽く頷くと3人を見回して口を開く。

「今まで通り毎日で良いんじゃないかな?特別に予定がある時だけ調整すれば良いんじゃないかと思うよ」

 その剛の言葉に翔も奈緒も頷く。


「じゃあ日曜日は~~」

「デートはしねぇぜ」

「何で分かったの?!翔、あ、あたしの心読んだわね?!エスパー?!超能力者?!」

「剛の時と同じ事言ってんぞ」

 奈緒と翔の掛け合いに、剛と希美は苦笑いをお互いに向けるのであった。




 その年の夏休みは土日から始まった。

 前日の土曜日は4人で模擬戦を行っており、日曜日は基本的に休みにしていたのだが、剛は朝から中央線快速に乗ってトーフに向かっていた。

 荻窪駅でJRから東京メトロに乗り換え、西新宿駅からトーフ――正確にはトーイチと合同で使用している格技棟を目指す。

 3年生になるまでは特装用のロッカー――対象は特装ですらないのだが――は割り当てられないため、剛は自作の模擬戦用ハルバードを取りに1年Aクラスの教室に向かう。

 教室には誰も居ないかと思っていたが、目的までは不明だが3名程の生徒が教室に居た事に前世通りだと納得する。

(こう言う所はあまり変わらないんだな……)

 そう思うと剛は教室内のロッカーに収納していた模擬戦用ハルバードを取り出し、格技棟に向かった。


 格技棟の予約端末の前に行くと、剛は端末を操作して第3格技室を予約する。

 予約が終わると第3格技室に向かい、4階層分の高さにある天井のフロアに入室する。

 30m程先に的がある射撃系特技の訓練ブースに入ると、軽く準備運動を行ってから的に向かってハルバードを手に正対する。

(本格的なのは久し振り……何回だっけ?希美は64回って言ってたかな……それだけ本格的にはやってなかったから……)

 翔と入学前に特技訓練は行っていたが、第3格技室のような本格的に全力で叩き込めるのは、入試の実技試験依頼であった。

 格技室の射撃型ブースに歩を進めた剛は、3時間程緑と白と赤の、今持てる個性の特技を一頻り試すのであった。


(あ、またやった……)

 剛は今が夏休みに入っているため、トーイチ同様に学食での昼食は予約制の弁当になっていたのを失念しており、予約するのを忘れていたのだった。

 昼食をどうするか途方に暮れて、模擬戦用ハルバードを教室に片付けた後昇降口に向かった剛は、ポニーテールを揺らして所在無さげに立っている人影を見付ける。

「希美?」

 声を掛けられた希美ははっとして、声の主である剛の方を見遣る。


「成程……希美も今日来ているとは思っていなかったよ。で……昼食で困っている、かな?」

 剛がそう言うと、希美は少し困った顔をして軽く後ろを振り向く。

 すると物陰から翔と奈緒がバツが悪そうな顔をして現れる。

「え?翔……奈緒……?来てたのか?」

 4人が4人、弁当の手配を失念していたと言う事で苦笑しながら顔を見合わせ、新宿西口の飲食店が多いエリアを目指すのであった。


「ちょっと行ってみたい所があるんだけど、時間空いてるなら付き合ってもらえる?」

 剛は前世でも見た、あの衝撃的な守るべき物を改めて見たいと思い、3人を誘う。

「時間あるけどどこ行くんだ?」

 翔の疑問に剛はニヤリと笑って答える。

「それは行ってからのお楽しみ、って事で良いかな?」

 そう言うと剛は西新宿でも駅に近い、トーフから更に一本東側の通りを進んで目的地へと進む。


「……美術館?」

 希美の疑問に剛は頷く。

「トーフ周辺の時間潰せそうな場所調べた時に見付けたんだ。高校生以下は無料で入れるって書いてたし」

 そう言うと剛は洗練された建築物である美術館に歩を進めるのであった。

第129話 『いつの日も』 遊佐未森

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