第128話 虹
剛達4人はトーフ入学から、登校日は毎日のように格技室で修練を続けていた。
剛と希美は手加減無しの模擬戦を演じる事ができ、4月下旬位からは翔が気を遣えば奈緒も翔との模擬戦を行えるようになってきていた。
そしてゴールデンウィークに入る直前の4月26日。
「やだやだやだーーーー!模擬戦ばっかりつまんないつまんなーーーーい!!」
急に奈緒が子供みたいな駄々を捏ね始める。
場所はトーフの学食。午前の授業を終えて昼食を取っているといきなり奈緒の感情が爆裂した。
「何言ってんだおめぇ。平日は模擬戦やるって決めてただろ」
翔がツッコむが、奈緒は全く譲る気が無い。
「デート!デートするのーーーー!きゃっきゃうふふしたいのーーーーー!!」
奈緒の様子に手が付けられず弱り顔の希美が剛を見遣る。
「まあ、そうだね。偶には息抜き必要だから、この4連休のどこかで遊びに行こうか」
その言葉を聞いて奈緒はにぱーーーっと満面の笑みを浮かべて瞳を輝かせる。
「どこ行く?どこ行く?江の島?浦安の夢の国?それともロックハート城?!」
「どれも遠すぎるかお金がかかり過ぎるよ」
剛は苦笑しながら奈緒の提案は却下する。
「奈緒の家が井の頭公園駅が最寄りって行ってたじゃない?だったら、井の頭公園を散策したり、吉祥寺でブラブラするのも良いんじゃないかなって」
剛の言葉に希美が首肯する。
「そうですね。場所は兎も角、緊張を維持し続けるのは消耗しますから、気を紛らわせるのは良いかと思います」
希美の同意も得られて奈緒はにぱにぱし始める。
「うん、じゃあパフェをあーんし合おう!ねっ!ねっ!」
「誰と?」
「誰とですか?」
「誰とだよ?」
奈緒は学食のテーブルに突っ伏して、夢を壊した3人に対しての抗議行動を行っていた。
「いや、だってさぁ……あーん、なんてした事ある?」
剛は困り顔で翔と希美に問い掛ける。
「俺は……翼がもうちょっと小さい頃にしてあげた事あるかなぁ」
「ああ、翼ちゃんね。それなら何か分かる」
剛は翔の3歳下の妹である翼を思い浮かべながら納得する。
「私は一人っ子ですから……」
希美の言葉に剛はあぁ、と頷く。
「俺は……姉ちゃんがアレ、だから、ねぇ……」
翔は恵のアンダーリムの奥から冷めた目であーんされるのを想像して、それはそれでアリかな……などと思っていた。
「翔……?大丈夫か?……」
剛から声を掛けられて現実に戻った翔は、現実に引き戻されて慌てた様子で何かを否定する。
「そ、そんなの考えてねぇぞ。恵姉ちゃんから……違う違う!」
「大丈夫か、翔……?」
恵の事を知らない希美と奈緒は、何事か分からずにきょとんとした顔で首を傾けるのであった。
翌日午前9時――
待合せにしていた吉祥寺駅南口に、同じ電車に乗り合わせた剛と翔は予想外にも既にオープンしているカレーショップの前に来ていた。
「……すげぇ良い匂いするなぁ……」
「朝飯食って来たんじゃないのかよ?」
そうしている内に希美がJRの改札がある東側から姿を見せる。
「おはようございます……あら、いい香り」
まだ来ていないのは奈緒だけになった状況で、翔は周りを見回す。
「アイツの性格だと中でカレー食ってんじゃね?」
そう言ってカレーショップ内を見回すが、奈緒の姿は見当たらない。
「流石に奈緒もそう言う事はしないんじゃないでしょうか?」
希美はフォローしつつも来るはずである南側の道路を眺めるが、一向に奈緒の姿は見当たらない。
(ひょっとして……こっちかな?)
南側の道路を見ていた剛が真後ろを振り返ると、おむすび屋から出ながらラップを剥いでおむすびをパクつく奈緒の姿が目に入る。
「成程。今日はそこだったか」
剛の声で翔と希美も振り返る。
「うん♪ここのおむすび美味しいんだよ~~~♪」
翔は大きく溜め息を吐き、剛と希美はいつもの如く軽い苦笑いで顔を見合わせるのであった。
「吉祥寺はあまり分からないから、奈緒にエスコートしてもらっても良いかな?」
剛が促すと奈緒は満面の笑みでブンブンと首を縦に振り、目的とする場所を指さす。
「じゃぁさぁ~♪先ずはあのお店で腹ごしらえ♪」
奈緒が指差したのは全国チェーンのハンバーガーショップ。
「おめぇ食ったばかりだろうがよ!」
すかさず翔が奈緒の頭に軽くチョップを入れる。
割れたー!バンズ分かれたー!と意味不明な喚きをする奈緒を捨て置き、剛は希美と翔に向き直り提案する。
「まずは井の頭公園に行って、何か目に付いたものから見てみようか」
剛は希美と、手漕ぎボートに乗って中々進まないボートを漕いでいた。
「思った以上に……進まないなぁ」
「私も漕ぎましょうか?」
希美の申し出はありがたい。だが、剛としてはここは男の見せ所だと勝手に思っていた。
「これも……トレーニングの一種、かな?それに、オールは一組しかないし、ね」
(成程、面白い……角度、面の向き、速度……色々な要素があるな……)
コツを掴み始めた剛はゆっくりと、だがしっかりと水をオールで捕らえながら漕ぐと、二人を乗せたボートは速歩くらいの速さで進み始める。
その変化に気付いた希美は、少しだけ驚きの表情を見せると穏やかに微笑む。
「剛は……ホントに凄いですね」
「凄い?」
希美から言われて剛は理解できずに間の抜けた表情をする。
「ええ、凄いです」
何を?と言う想いであったが、希美がそう言うなら受け止めよう。剛はそう考えると薄らとした笑みを希美に向け、ボートを漕ぎ続けるのであった。
その後4人はボート場の対岸付近にある屋外修練場を見た後、自然文化園の水生物館から道路を挟んだメインの自然文化園で動物と触れ合い、モルモットやカピバラに癒され、ヤギの塩対応に困惑し、様々な生き物と遭遇してはその生命の力強さに心を打たれる。
そうやって時間を過ごす事3時間――
「お昼だーーーー!ご飯だーーーー!!」
奈緒の宣言を契機に、剛達4人は井の頭公園のすぐ北にある店に入り、和テイストな定食を注文する。
「え?剛って3年前は無個性だったの?」
食事を取りながら色々話をしていると個性の話題となり、自然と剛が個性を獲得した話になっていた。
「まあ、ね。ただ、個性は後天的に獲得できるのは知っていたから、トーフを目指すこと決めてから色々と、ね」
「その特訓に付き合わされる身にもなって欲しい所だよ……まあ、お蔭で俺も白の個性獲得できたけど」
その言葉に希美が驚く。翔も2色持ちなのだが、白の個性は最近獲得した物とは知らなかったからである。
「私も……個性獲得しないと、かな……」
その言葉に剛は柔らかい笑みで応える。
「悪くないね。全色持ちになって、御魂衛を超える?」
そう――御魂衛は黒を除いた4色持ちで、現役どころか歴代のSUAD隊員としても最強と謳われる存在である。
だが、後天的に獲得するのが難しい黒を既に持っている希美は、御魂を超える全色持ちとなる事も夢ではない。
剛からの言葉に希美ははにかんだような笑顔を浮かべる。
「じゃあ、どっちが先に全色持ちになるか、剛と勝負ですね」
食事を終えた剛達4人は吉祥寺駅南口側の店舗が犇めき合う商店街に歩を進め、ウインドーショッピングを楽しんでいた。
幾つかの店を回っていた時に、剛はふとある物に目を止める。
(これなんか良いかもな……)
そう思って手に取ると、レジに向かって手早く会計を済ませる。
「ん?剛何か買ったん?」
翔に言われて少し照れたような表情をする剛。その手には商品を入れた小さな紙袋が乗っていた。
「希美、これ貰ってくれるかな?」
「えっ?私?」
困惑して翔と奈緒の顔を交互に見遣るが、ニヤニヤした翔とニパニパした奈緒は黙って頷くだけだった。
意を決して剛から紙袋を受け取り、中を開けてみると――そこにあるのは鮮やかなレインボーカラーのシュシュ。
「俺も、希美も、翔も奈緒も。もっと個性を磨いて輝かせよう。この虹色のように、何色でも」
第128話 『虹』 L'Arc~en~Ciel




