第127話 from now on
トーフ――国立東京第一高等学校附属中学校の入試翌日――
会議室では昨日の実技試験を踏まえた入試結果の検討会が行われていた。
(ふむ……3色持ち2名に2色持ち1名……しかも見事に特技を決めている、ですか。それに単色ながら爆裂でブースの扉を吹き飛ばした、ですか……)
約480人程の実技試験受験者の報告書に目を通した御魂は、その4人の異質さに気付いていた。
2色持ちは1万人に1人と言われているからそこまで希少と言う訳でもないが、更に1億人に1人と言われている3色持ちが2人も今年の受験生に含まれている。
また、対妖魔の技術の粋を込めて作り上げている第3格技室の扉を吹き飛ばす――その前に隕石群、火口炎、細氷と言った超弩級の威力の特技が使われていたとしても――爆裂の威力を特装器も使わずに発揮するとは、御魂としても中々聞いた事が無かった。
(今年の新入生は……と言うよりこの4人は、最早特異点と言って良いかもしれませんね……)
御魂は静かに星野希美、神野剛、本田翔、鈴木奈緒の4名の名前と実技試験の様子が書かれた列の右端の枠に「A」と記入するのであった。
トーフの入試から2週間後――
剛の元にトーフからの書類が入ったA4封筒が郵送で届いた。
(まあ、当然来るよな……学科を通過した時点で俺達なら間違いなく受かるだろうし)
剛は封筒を開封して中の書類を確認し、自分で記入する書類、親に記入してもらう書類、入学の案内など熟読しておく書類に分類する。
その中に、入学後のクラスと出席番号が掛かれている書類を発見する。
「1年Aクラス……か……」
こちらも剛の予想通りである。学科と実技の比率が50対50と言われており、初日の学科試験で上位1/3に絞られている時点で学科では殆ど差は付かず、そこからは事実上の実技勝負であった。
剛達4人が発動させた特技は第3格技室で実技試験を受けた受験生の中では頭一つどころか次元が違うレベルであり、実技試験ではこの4人が上位4人と思って間違い無い。
(……そう言えば桂は見なかったな……あいつは第4格技室で受験だったんだろうか……)
2024年4月8日――
国立東京第一高等学校附属中学校の入学式が執り行われる日となり、剛と翔はJR中央線快速で新宿駅まで行き、徒歩でトーフに向かう。
1年Aクラスの教室に入ると、そこには既に希美の姿があった。
「希美、おはよう」
「おはようさーん」
剛と翔は先ずは希美のすぐ前の翔の席に向かうと、席に座っている希美に挨拶する。
「おはようございます、剛、翔。改めてこれからよろしくお願いします」
希美は席を立って二人に頭を下げる。
「あーっ!希美と剛と翔だー!」
剛達3人が集まっていると教室の出入口から指を指して声を上げる人物――他ならぬ奈緒である。
剛達が声の方を向くと何が嬉しいのかぴょんぴょん飛び跳ねるような動きで近寄って来た。
「ねぇねぇ♪剛と希美って付き合ってるの?ラブラブなの?」
剛はこれまでの人生で何度も見聞きしてきた奈緒の言葉から、そして希美は剛から聞かされていた話から、奈緒らしい発言だと顔を見合わせて苦笑する。
「俺と希美は受験の時より前に会ったのは、2年前の1月に1回会って話しただけだよ。付き合っている訳じゃないよ」
「えっ?そうだったん?」
剛の言葉に驚いたのは翔であった。既に長年の知り合いのように話し合う様子を見ていて、付き合っているは兎も角1回しか会った事が無かったと言う事実に驚愕していた。
「ええ、会ったのは1回だけです。でも、剛と会った事で、元々トーフ進学は考えていましたが強く決意する事ができました」
そう言うと希美は穏やかな顔で剛を見遣ると、剛も微笑んで黙って頷き返す。
二人の様子を見た奈緒は顰めっ面を翔に向ける。
「う~~~、何か腹立つ。翔、殴ってもいい?」
「いや俺に当たんなし」
入学式とその後のオリエンテーションは恙なく終わり、剛達4人は学食に向かった。
それぞれ好みのメニュー――剛と希美は鰆の西京焼き定食、翔はシラスとカツオの海鮮丼、奈緒はミートソーススパゲティとわかめサラダ――を注文して受け取り、4人掛けのボックスシートに座って食事を取り始める。
「今日からの模擬戦ですが、翔は剛とトレーニングしていたと聞きましたが間違いないでしょうか?」
希美が尋ねると丼を掻き込んでいた翔は丼を下すと咀嚼しながら黙って頷き、飲み込んでから答える。
「ああ、5年になってすぐから平日は木刀で素振り500回と週1で特技訓練やって、夏休み辺りから型稽古とか打込稽古に変わって、6年になってからは模擬戦主体で鍛えられたよ。」
その言葉を聞いて軽く頷くと、希美は今度は隣の奈緒に顔を向けて尋ねる。
「奈緒は何か武道は経験しているのかしら?」
言葉を向けられた奈緒は口の周りをミートソースで赤く染めた状態で、笑顔になって答える。
「ブドウ美味しいよね~♪夏になると山梨のお爺ちゃんが送ってくれるんだけど妹と取り合いだよ~~♪」
「いやそのぶどうじゃねーよ」
奈緒の答えと翔のツッコミに、剛と希美は今日だけで何度目かとなる苦笑いをお互い向け合うのであった。
「で?……何で模擬戦用の武器がソレ……?」
翔がツッコむのも当然である。剛は前世以前で見てきたから解っていたが、奈緒が選択したのはハンマー――それもウォーハンマーのようなヘッドが金槌と変わらない大きさのものではなく、どう見てもスレッジハマーと呼ぶのが正しい、戦闘用と言うより建築物解体用と言ったハンマーであった。
「だってどっかんどっかん強烈に妖魔ぶん殴れそうじゃん?じゃん?」
「何故どうでも良い所を2度言った?!」
「申し訳ないですが、長柄物……で良いのでしょうか?少なくとも剣とは全く違うので、奈緒の事は剛にお任せしたいのですが……」
確かに希美は剣をメインに使ってきており、槍とか斧とかの柄物は分からないのも当然であろう。対して剛はハルバードと言う柄附き武器をメインにしているため、少なくとも剣よりは相関性が高い。
「分かった。奈緒は俺の方で見るから、翔を頼むね」
そう言うと剛は奈緒を伴って希美と翔が居る場所から5m程離れる。
剛はこれまでの転生の中での奈緒の戦い方を思い浮かべながら語り掛ける。
「まずは奈緒が自分で思ったように振ってみて貰えるかな」
すると奈緒はハンマーの柄の一番下を両手で握り、思い切り振り被ってから振り下ろす。
ハンマーヘッドは床に激突してドゴォッ!!と激しい音を発生させ、床に振動が広がる。
剛は天を仰いで顔に手を遣るとはぁーーっと溜め息を吐き、気を取り直して奈緒に向き直る。
「うん、最初は持ち方から覚えて行こうか」
ハンマーの柄を握る両手を20cm程離した状態で、奈緒は素振りを始める。
その様子を見て剛は改めて感心する。
(身体の軸が強いんだよなぁ……これだけの重さのハンマー振るってるのに殆ど体幹がぶれてない……)
とは言え飽き性の奈緒の事だから、これを10分とか続けていると変な事を始めかねない。そう思い、剛は1分程で一度止めて、違う要素を交えた説明を行い、再び奈緒は1分程ハンマーを振り続ける。
20分程奈緒の修練に付き合ったところで一旦切り上げ、剛と奈緒は希美と翔がいる方に向かう。
「そっちの様子はどう?」
剛が希美に向かって尋ねると、希美は薄らと汗を滲ませた顔に笑みを浮かべる。
「正直驚いたわ。翔がここまでしっかり戦えるとは思ってませんでした」
「いや結局俺は手も足も出なかったじゃねぇか」
翔がぼやくが希美の言う通り、しっかり基礎ができているから少なくとも形にはなるのであろう。
その後も型稽古や打込稽古などを行いながら、日が傾くまで特技室での修練は続けられた。
第127話 『from now on』 美郷あき




