第126話 EXCITE
「次が希美の番だ……何を繰り出すか、楽しみだな」
剛は不敵な笑みを崩さず、静かにその時を待っていると、希美が振り返って剛を見てからぐっと握り拳を見せる。
希美は所定の位置に立ち、的に向かって正対すると赤の法力を込め始めた。
(まさか……あれを習得したのか……?)
剛は希美の姿を斜め後ろから見詰めながら、その特技発動を待つ。
〈隕石群!〉
群、と呼ぶには少し物足りないが、第3格技室の上空30m程の空間に黒い点が3つ発生すると、たちまちの内に熱を孕み光を発し、希美が手を振り下ろすと同時に格技室の地面を穿つ。
30m程先の的がある場所は溶鉱炉のような高温に満たされてその余波はブースから扉で仕切られた控室をも満たし、室内にいる受験生達は熱の熱さによる脂汗と、希美が見せた特技の威力に慄いた冷や汗を流す。
「ぅゎぁ……」
翔もそう言った者達の一人であった。剛の特訓によって特技を幾つか習得していたが、こんな範囲殲滅は……と思った時に、剛から教えて貰った特技を思い返した。
先に剛の番が来る。小金井五小から願書を出した関係で、出席番号順――本田より神野の方が先に、呼ばれる事になった。
(希美と同じじゃ芸が無いよなぁ……)
そんな呑気な事を考えながら、剛は所定の位置に歩んで行く。
軽く首を左右に振って骨を鳴らすと、剛は徐に手を突き出して法力を――緑の渦を巻き起こし、特技を発動する。
〈火口炎!〉
30m先の地面が蠢いたかと思った瞬間、直径20cm、高さ5mの火山の噴火のようなマグマが噴出する。
少し時間が空いたとは言え、先程の希美の隕石群の熱がまだ籠っている第3格技室は原子炉のような灼熱に満たされ、扉で仕切られているブースであっても昼間の砂漠を超えるような酷暑に襲われる。
その状況下でも涼しい顔をしてブースに戻ってくる剛を、希美もまた涼しい顔で視線を送り、翔は頭を掻きながら自分の出番だとブースに歩を進める。
(はぁ……ホントに上手く行くのかねぇ……)
翔は観念しながら、熱で蜃気楼のように揺らぐ30m先の的を見てから静かに青の法力を掌に込める。
〈細氷!〉
翔が特技を発動すると灼熱に覆われていた射撃ブースは瞬く間にドライアイスよりも低いマイナス100度の超低温に覆われ、水蒸気が煌めく氷片に変わっていく。
「ほぇ~~、涼し~~~♪」
待機しているブース内で感想を口にする少女――奈緒が目を輝かせながら翔の特技を眺めていた。
(さて……次はまた爆裂で灼熱に戻るんだろうな……)
剛は奈緒が現れたのを確認して、最上位の特技を思い浮かべながら苦笑する。
〈爆裂!!〉
爆風が射撃ブースと待機ブースを仕切る扉を吹き飛ばす。
何でこれで発動させた本人は平気なんだと言う爆風と熱波が待機ブースを襲うが、軽く額に汗を滲ませた程度の奈緒は所定の位置からぴょんぴょん跳ねながら剛達3人の所にやって来る。
「ね?ね?あたしのも凄いでっしょ~~~♪」
「凄いね、鈴木奈緒さん」
剛は笑顔で言うと、それを受けて奈緒は満面の笑みを浮かべる。
「でっしょでっしょ~~~。あたしは凄い……ぇ?何であたしの名前知ってんの?……何で知ってんの?あ、あんたエスパー?!超能力者?!」
その反応に翔は唖然とし、事前に剛から聞いていた希美はぷっと噴き出すのであった。
「そう言えばお互いにまだ紹介していなかったね」
実技試験が終わって昇降口に向かう剛と希美と翔……に、何故か奈緒も一緒になって付いて来ていた。
「希美、こっちが前に話した翔、本田翔だよ」
うすっ、と紹介された翔が軽く頭を下げる。
「翔、こっちにいるのが希美。星野希美だよ」
「お、おう。……よろしく、星野さん」
いきなり試験会場で合流し、紹介されて困惑する翔は頭に手を遣りながら頭を下げて希美に挨拶する。
「希美でいいですよ。私も翔と呼びますので。よろしくお願いします」
そう言うと希美は翔に向き合って会釈する。
二人の紹介が終わったところで剛は振り返り、後ろからついて来ている奈緒に向き直る。
「で、改めて鈴木さん……奈緒、で良いんだよね?」
声を掛けられた奈緒は満面の笑みで剛に駆け寄り、犬だったら尻尾をブンブン振っているような嬉々とした表情で応える。
「そうだよ♪よろぴく~、剛、希美、翔~~♪」
その反応に翔ははやっ、既に呼び捨てかよと引き気味になっていた。
「でも紹介し合ったのは良いけどよぉ、まだ合格すると決まった訳じゃないぜ?」
真っ当とも言える疑問を翔が口にするが、剛は薄らと笑みを浮かべて軽く首を振る。
「あれだけの特技発動させたんだ。俺達4人は間違いなくAクラスだよ」
先程実技試験の会場となっていた第3格技室に集まった受験生は240人程。ほぼ同数が第4格技室で実技試験を受けていて、そちらの様子ははっきりとは分からないものの、第3格技室の受験生の内特技を発動させたのは40人程度――正しく発動できた人数に至っては25人程度で、15人程は特技が暴走したり、発した炎がライター程度や爆発が爆竹程度だったりと、まともとは言えない結果に終わっていた。
「それでしたら、奈緒も一緒に模擬戦やりますか?」
剛から聞いていたトーフ・トーイチの4人衆が集まったのだから、誘わないと言う手は希美には無かった。
「良いよ~~やるやる~~♪そんでね~、休みの日は――デート!」
その言葉を聞いて翔は呆れてはぁ?と声に出してしまい、剛と希美は苦笑いをお互いに向けるのであった。
トーフ正門を出た4人は、西に向かう希美と東に向かう剛達3人に別れる。
「じゃあ入学式で。またな、希美」
剛の言葉を受けて柔らかい笑みを浮かべた希美が軽く頭を下げる。
「ええ、入学式で。剛、翔、奈緒、またよろしくお願いします」
「え?入学したら中央線一本じゃないのか?」
剛から入学後の通学ルートについて話を聞いた翔は軽く驚きの表情を見せて応える。
「ああ、交通費は全額国から支給されるだろ?余程変なルート設定じゃなければ学校からも許可は下りるはずだよ」
言われてみれば剛の言う通りである。わざわざJR新宿駅から15分以上掛けて歩いて来る必要は無く、東京メトロ西新宿駅からならトーイチや格技棟まで地下通路で繋がっており、格技棟とトーフ総合舎も地下で繋がっているため、梅雨時や夏の暑い時期などの影響も受けにくくなる。
「ええ~ズル~い!あたしもそっちにしようかなぁ~~」
ズルいとは言ってるものの、一人だけ方向違いになって寂しいんだろうな、と剛は奈緒の性格を冷静に分析する。そして知っていながら知っていると辻褄が合わないため敢えて質問する。
「ん?奈緒ってどこに住んでるの?」
「三鷹市だよ~。でも井の頭公園のすぐそばで最寄り駅も井の頭公園駅だけど、吉祥寺駅も歩いて15分くらいかなぁ~~」
ですよね。と思いながら剛はその言葉に応える。
「なら奈緒もJR中央線から丸ノ内線乗り換えにしたら良いんじゃないか?」
「何か帰りが騒々しくなりそうだなぁ」
少し眉根を寄せて翔がボソッと呟いたのを、奈緒は聞き逃さなかった。
「良いですよ~だ。翔とは話しませんよ~だ」
そう言うと奈緒は顔を顰めてベーっと舌を出して翔に向ける。
(既に掛け合い漫才みたいになってるじゃないか……この二人はホント相性いいなぁ)
遣り取りを見ていた剛はつい苦笑いを浮かべる。
駅についても何故か奈緒がJRの改札を超えてもついて来ていた。
「京王線じゃなくて良いの?」
剛が振り返りながら奈緒に話し掛けると顔を背けて口を尖らせふーふーと音が鳴らない口笛を吹き始めて誤魔化す様子を見せる。
(また賑やかなトーフ時代が来そうだな)
第126話 『EXCITE』 三浦大知




