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Limitless  作者: 神 賢一
第八章 生まれゆくものたちへ

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第124話 さよなら傷だらけの日々よ


 ― 人類個体識別番号 281474976710655、転生てんしょうを開始します。 ―


『私を!助けてよ!!神野剛!!!』


 ― 記憶領域を increment します……成功しました。 ―


(何で……希美が、俺の名前を……?)


 ― 転生準備完了。人類個体識別番号 281474976710655、出生名『神野剛』の転生を実行します。 ―


(だって、トーフに入学した時以降会ってないはず……まさか、その時から希美も転生を?!)



 ― 出生名『神野剛』の転生に成功しました。転生を終了します。 ―


 剛が目を開くと、トーフに入学した時からずっと同じ光景である、小金井市立第五小学校の校舎と、その上空を覆う冬の分厚い雲が視界に広がる。

 そして何度も繰り返し見て来た、身長140cm程の翔の姿。

「どうした剛?ぼーっとしちゃってるぞ」

 声変わりする前の翔の声が聞こえるが、俯いた状態の剛は転生中の思索に囚われて耳に入ってこない。

(希美が転生していたのだとしたら……何十回、一人で戦ってきたんだ……?!)

「希美……」

「えっ?!」

 剛がつい声に出した言葉の意味が理解できずに翔が尋ね返すが、剛は顔を上げて翔を見据えると身を翻して校門に走り始めた。

「済まない、翔。俺、急用を思い出した」

 翔がええーと声を上げるが、剛はその抗議の声を受け流して五小の校門を抜け、武蔵小金井駅に走り始める。


 駅に到着した剛は慌てて自分の財布を確認すると、500円玉が入っている事で安心する。

 券売機で荻窪までの子供料金110円の切符を買うと、改札を抜けて駆け足でホームに向かい階段を駆け上がる。

 到着した中央線快速に乗り、荻窪駅で降りると再び駆け足で階段を駆け下りると改札を抜け、東京メトロの駅に向かい中野坂上までの90円の切符を買い、改札を抜けてホームまで駆けて行く。

 中野坂上駅に到着すると一目散に改札を抜けて、前世の記憶を頼りに希美の家に走って向かう。


 希美の家の前に到着した剛は息を切らしながらもインターフォンを押すと、10秒程してインターフォン越しに声が返ってくる。

「どちら様ですか……?」

 電車の中は立っていたとは言え中野坂上の駅から全力で走って来た剛は、ゼイゼイと荒い息を何とか整えながら、インターフォンから聞こえる誰何の声に応える。

「俺、神野剛と言います。希美……星野、希美さん、ですよね?」

 カメラ付きのインターフォンであるため、剛はカメラに顔を向けると、10秒ちょっとで家の扉がガチャリと音を立てて開いた。

「……入ってください」


 リビングに通された剛は椅子に座るように希美から促されると、目の前に氷が入った水のコップが置かれ、一息に飲み干す。

(真冬なのにこんなに汗をかいてるなんて……どこから走って来たのかしら……)

 剛が飲み干したコップを手にして、2杯目の水を剛の前に差し出した希美は剛の向かいに座りその様子を観察していると、先程の水を飲み干して一息ついた剛が口を開く。


「星野希美さん、貴女に会いに来たんです。これから話す事は、バカバカしい……と言うより、頭がおかしいんじゃないかと思うかもしれない。でも、俺にとっては事実で、ちゃんと話さないと伝わりもしないと思うから、俺の知ってる事を全部伝えます」

 そう言うと剛は一旦息を整え、希美に向かってこれまでの事――最初の転生から、吉祥寺で希美に助けられた事、西新宿で天道に二人とも殺された事、何度も転生して個性を身に付けた事、トーイチで共に研鑽し戦った事、ある時から日付で言えば今日――2022年1月15日に転生するようになった事、共にトーフで競い合った事、そして……天道に勝てず絶望に苛まれた事を伝える。


「そして、星野さん。貴女も何十回か転生していた事。トーフに通った時に会ったのが最後で、それ以来俺は……貴女を見殺しにしていた……」

 剛は苦悶の表情を浮かべると涕泣ていきゅうし、左手で顔を覆い隠す。

「……俺は……逃げたんだ……天道に勝てず……貴女を……死なせてしまって……結局……何もできない……自分から……逃げたんだ……」

 それだけ言い終わると剛は口を閉ざし、リビングには時折剛のすすり泣く音だけが響いた。


「私は、貴方を、知らない……」

 沈黙を破るように希美が口を開く。

「でも……貴方の事が、解る……気がします……」

 その言葉に剛ははっとして顔を上げ、希美の顔を見据える。

「貴方の言う前世……私にとっては知らない、遠い昔に、貴方と会った。そんな気がしてならないです」

「希美……」

 剛は涙で滲む希美の姿を目に焼き付けようと見詰めたまま、前世までの呼び名を口にしていた。

 そして一度少し俯いた希美は、真っ直ぐに剛を見詰め返した。


「だから、私は貴方を信じます。神野剛」

 その言葉を聞いて、剛は再び声を押し殺して涙を流すのであった……



「それで、奈緒って女の子と、翔って男の子とトーフで同じクラスになって、3年以上一緒に過ごす、と言う事ですね」

 改めて剛からの話を聞きながら希美は確認するかのように応じると、剛は頷いて言葉を続ける。

「それで奈緒は……ちょっと変わってる子かな。何かあると直ぐにデートだ、ラブラブだって、そう言う事言うから翔から突っ込まれたり、時には頭に軽くチョップ喰らったりするんだよ。それを俺と希美が……あっ」

 話の途中で希美の事をつい呼び捨てにしている事に気付き、剛は気まずそうにする。

「……下の名前でみんな呼び合ってたんでしょう?なら、私の事は希美で良いですよ。剛」

 希美の言葉に意外な顔をする剛であったが、直ぐに気を取り直して黙って頷く。


「入間さんって言う人が、俺達がトーフの2年生になる時にトーイチ特装科に入学するんだけど、この人が製作する特装がとんでもないんだよ」

 話は多岐に微細に渡って続けられた。

「それなら、天道と言う修羅を倒すには、入間さんと言う人に特装を製作していただくのは必定ですね……」

 剛は頷いた後言葉を繋げる。

「勿論特装の威力も必要だけど、天道に討ち勝つには……もっと、もっと鍛えないと。だから、トーフに入学したら直ぐにでも模擬戦を始めて、少しでも底上げしたいんだ」

 希美にもその言葉に異論はなく、静かに頷く。


「それでしたら、是が非でも4人でトーフに入学しなくてはなりませんね」

 穏やかに微笑みながら希美が告げると、剛はきょとんとした顔を希美に向けてしまう。

「奈緒って子はまだ誰も会った事が無いので来てくれるのを待つしかありませんが、剛と翔はお友達なんでしょう?でしたら、二人がトーフに入学していただかないと始まりませんね」

 希美の言葉にはっとする剛。言われた事も当然であり、剛と翔がトーフに入学しなければその先の事は夢物語でしかない。


 部屋が薄暗くなってきた事に気付いた希美がリビングの柱に掛けられた時計を見ると、時刻は16時を少し回った所であった。

「午後4時……暗くなり始めましたし、そろそろ自宅に帰らなくてはならない時間では?」

 希美と話し込んでいて時間など全く意識になかった剛は、その事実を突きつけられて天を仰ぐ。

 できる事ならずっと話し込んでいたかった……だが、まだ小学4年生と言う立場では暗くなる前に家に帰らないと色々問題となる。

 諦め切れない思いを抱えながらも、誰にも行き先を告げていない事もあり、剛は名残惜し気に頷いた後席を立つ。


 玄関まで希美に見送られ、靴を履いてドアを開けて別れの挨拶をしようとした剛に対して、希美が声を掛けた。



「2年後の4月、必ずトーフで会いましょう。神野剛」

第124話 『さよなら傷だらけの日々よ』 B'z

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