第123話 浸食〜lose control〜
― 転生準備完了。人類個体識別番号 28147497671066、出生名『星野希美』の転生を実行します。 ―
― 出生名『星野希美』の転生に成功しました。転生を終了します。 ―
(また、ここなのね……)
目を開けると炎上し崩落するビル群が視界に広がる、2026年3月31日の吉祥寺。
状況把握のために素早く見回すが、そこに剛の姿は無く、手にする特装器もやはり今日でその身分では無くなるトーイチ3年生が制作した物。
(また……剛が居ない世界で、戦えと言うの……?!)
妖魔が闊歩する吉祥寺の路上で希美は項垂れ、苦悶に満ちた表情を浮かべる。そして――
「うわあああああああああああああああああ!!」
天を仰いで大声で叫ぶと、危険を顧みることもなく妖魔の群れに突入していくのであった……
― 出生名『星野希美』の転生に成功しました。転生を終了します。 ―
(もう3回目……最初の人生含めると4回目になる……何度、繰り返すの……)
― 出生名『星野希美』の転生に成功しました。転生を終了します。 ―
(剛の家に行けば……いや、剛が私の事を知らない可能性を考えると……)
― 出生名『星野希美』の転生に成功しました。転生を終了します。 ―
(10回目……もう、全て同じ事の繰り返しで、手に取るように分かる……そして、天道には……勝てない……)
― 出生名『星野希美』の転生に成功しました。転生を終了します。 ―
(15回目……涙も、出てこないわ……)
― 出生名『星野希美』の転生に成功しました。転生を終了します。 ―
(25回目……何のために、繰り返してるの……?天道に……殺されるため?)
― 出生名『星野希美』の転生に成功しました。転生を終了します。 ―
(40回目……もう……本当に死なせて欲しい……)
― 出生名『星野希美』の転生に成功しました。転生を終了します。 ―
(55回目……あの場にいたと言う事は、剛は近くにいるはずなのに……どうして……)
― 出生名『星野希美』の転生に成功しました。転生を終了します。 ―
(63回目……今の私は、どんな顔してるのかしら……)
希美はそう思いながら、63回の転生を終えて64回目の吉祥寺の災禍に身を投じる。
この63回の間、剛は三校合同夏季特別講習のあの日にしか姿を現さなかった。
そして、希美と共に天道に殺される――
(今、この場で天道を倒せたら……!!)
だが今の希美にはその力は無く、天道を深淵の監獄で捕らえる事が精一杯であった。
4月7日になって、3年生としてトーフに初登校した日も同じであった。AクラスからEクラスのどこにも、剛の名前も――そして翔の名前も――存在しない。
「希美……あの日以来だけど、何か疲れてない……?」
奈緒が心配して声を掛けてくるが、希美は悲し気な笑みを浮かべて軽く首を振り、ポニーテールを揺らす。
「大丈夫……ちょっと思い出しただけだから……ありがとう、奈緒」
そう言うと奈緒の顔を見て頷いてから、3年Aクラスの教室に向かった……
翌年――2027年4月8日――
トーイチ入学式の日であるが、やはり剛の名前はどこにも見当たらない。
(どうして……何でこんな人生を繰り返させられてるの?……この人生に、何の意味があるの……)
希美は50回目の転生から、トーフ3年生に昇級すると毎日のように模擬戦を――それもトーイチ生と――行ってきており、現世でも同じように行ってきていた。
それにより1回目の転生の時に比べると、繰り返して来た転生における記憶を合わせて剣技は大幅に向上している。
だが、それは希美個人の話であり、共に肩を並べる存在と言える者は存在しない。
孤独な闘い――いや、孤独との闘いを、希美は64回も繰り返してきている。
6月12日の戸山公園箱根山地区における妖魔討伐は、最早希美にとっては作業に過ぎなかった。
分かり切った妖魔の出現数とその種類、僅かながら威力が向上した特技を発動させて主力であるサイクロプスを殲滅し、残党を狩り取る。
SUAD本隊が到着した時には既に敗走する残党もおらず、1回目の転生の時のように無様に意識を失う事もなく、泰然とした様子で隊員達を迎える。
(だって私は……バケモノだもの……)
転生を繰り返す度に心が荒んでいく事を希美は自覚していた。
諦念とも言える感傷が心を覆い潰し、人がましい感情が失われていく――バケモノと呼ばれるに相応しいと、希美は自虐的に考えていた。
そんな希美の変わりように、トーフ1年以来の親友である奈緒は心を痛めるのであるが、希美は悲しそうな笑顔で「大丈夫」としか言わない。
(大丈夫な訳ないよ……元々はクールな印象だったけど、今の希美は……生きる事に疲れた老人みたいな……そんな顔だよ……)
奈緒の考えはあながち間違いとも言えない。何しろ63回の転生で1年半近くを過ごすと言う事は、100年を超える年月を過ごしているのと同じであるのだから……
奈緒の懸念を余所に、希美は和田濠公園付近で、新宿御苑で、妖魔を殲滅し修羅を討伐する。
少しずつ、この63回の転生で蓄積された心の澱に侵食されながら……
夏休みに入っても希美は毎日――それこそ土日も休まずに――格技室で模擬戦に明け暮れていた。
この頃になると最早トーイチでも3年Aクラスの、それも上位10人程しか希美と互角に渡り合える生徒はおらず、2年生を相手にする時は2対1で対戦するが、それでも希美の方が相手の力量を上回る事が多かった。
≪対妖魔特別警報発令!!対妖魔特別警報発令!!妖魔出現場所は目黒区駒場!推定妖魔出現数2,000体!校内に居る特技科の生徒は特装具を着用、特装器所持の上、地下駐車場に集合せよ!繰り返します!対妖魔特別警報発令!!対妖魔特別警報発令!!……≫
希美にとってはまたか、と言う思いしかない。
何十回も繰り返してきた通り、ロッカールームで特装具を装着して特装器を手にすると、地下駐車場に向かい特務実習として出動する。
東京大学駒場キャンパスに到着すると、目に付いた妖魔の群れに対して隕石群や火炎矢を叩き込み、炎刃で手近な妖魔を斬り裂いていく。
感情も見せずに妖魔を狩り、出現した修羅をも苦戦しながらも討ち果たした希美を、トーイチ生は[舞うように死を与える存在]として遠巻きに見る以外に成す術も無かった。
夏休みもあと1週間で終了する8月25日――
三校合同夏季特別講習が行われる日で、希美を含めたトーイチ・トーニ・トーサンの3校の生徒はトーイチの第1格技室に集結していた。
既に60回以上、同じ事を行ってきた希美にとっては何の変哲も無い行事――それより、この後出現する妖魔、そして天道にしか意識は向いていなかった。
≪対妖魔特別警報発令!!対妖魔特別警報発令!!妖魔出現場所は新宿区西新宿!推定妖魔出現数は8,000から10,000体!!東京第一高校の特技科生徒は特装具を着用、特装器所持の上、第1格技室に再集合せよ!!繰り返す!対妖魔特別警報発令!!対妖魔特別警報発令!!妖魔出現場所は新宿区西新宿!――≫
特装に身を包んだ希美は第1格技室から屋外に駆け出し、妖魔の大群に向けて特技を放つ。
63回繰り返して来た自らの死――西新宿駅直結の40階を超える高層ビルが、突如崩壊した事でその命を狩る厄災が姿を現した事に希美は気付く。
(そして、私はまた天道に殺される……)
その時、これまで希美を支えてきた心根の強さが――折れた。
天道を前に、希美は特装器である長剣をだらりと下げ、その瞳から溢れ出る涙を押し留める事も出来なかった。
「……しを……てよ……私を!助けてよ!!神野剛!!」
― 人類個体識別番号 281474976710655、転生を開始します。 ―
第123話 『浸食〜lose control〜』 L'Arc~en~Ciel




