第122話 If... 〜I wish〜
御魂は珍しく焦っていた。
(拙い。星野さんが天道に向かって行った……今の星野さんでは余りにも危険すぎる!)
しかし今の御魂と天道に向かって走り去った希美の間には、サイクロプスやケルベロスと言ったランクB妖魔を含む1,000体以上の妖魔が壁となっており、如何に御魂とは言え容易に希美に近付く事は出来なかった。
現役SUAD最強特技士の異名を持つ御魂はその壁を取り払うべく4色の特技を駆使しながら妖魔を数十体ずつ駆逐していくが、無限に湧いて来るかのようにその空いた空間を違う妖魔が埋め、中々希美に近付く事は叶わなかった。
天道は爬虫類のようなヌメッとしたその目を見開き、不自然に大きな口を開けて、人とは思えない鋸の歯のような牙を見せつける。
「アンタのおかげで1年も封印されちゃって、人を殺す楽しみを味わえなかったじゃないですかーー!!」
その言葉に希美はくっと声を漏らしながらも、特装器を構えて天道と対峙する。
「そんなアンタには永遠と言う封印を賜っちゃおうかしらねえ!!」
そう言うと天道は希美に飛び掛かり手に持つメイスで襲い掛かると、希美は極力受け流すように捌きながらできるだけ時間を稼ごうとしながらも、時折突きや斬撃を繰り出しながら隙を伺う。
何合も討ち合った後お互いに激しく得物をぶつけ合い、天道は希美から距離を取るとメイスの先端を光らせて振るう。
〈神の光弾〉
メイスの先端の光はバレーボール程の光球となって亜音速で希美に向かって飛来する。
希美は長剣の特装器で一刀両断にすると、分たれた光球だった物は希美の背後の妖魔の群れを襲い、数十体の妖魔が消失していく。
背後で起こった妖魔の不運をまるで気にも留めず、希美は手首の動きで剣を翻すと切っ先を天道に向け、特装器に青の法力を込める。
〈空気矢!〉
希美が特技を発動させると50本程の無色の矢が音の速さで天道に殺到するが、天道は苦も無く自身に中る見えない矢をメイスで叩き落す。
防がれた様子を見る間も無く希美は天道に駆け寄り、特装器に赤の法力を込めると左袈裟斬りに振り下ろす。
特装器である長剣の切っ先から3m程の炎の刃が発生して天道がいる場所を切り裂くが、天道は跳躍して炎の斬撃を避けると左掌を希美に向けて光の球を放つ。
〈破砕光球〉
向かって来る光の球を希美は返す刀、炎の刃で逆袈裟に切り上げて粉微塵に砕くと、炎刃を解除すると同時に切っ先を天道に向けて再度赤の法力を込める。
〈火炎矢!〉
50本程の炎の矢が天道に襲い掛かるが、メイスをプロペラのように回転させるとことごとく弾き飛ばし、天道はニマニマとヌメヌメとした顔で希美を見据える。
「アハハハハハハハハハ!楽しいね!楽しいねぇ!!希美チャンとこうやって遊べるって、とーーーーーっても、楽しいねぇ!!」
天道が光を纏わせたメイスを振るうと希美が長剣で受け止めるが、勢いで希美は4,5m程飛ばされてバク転の要領で着地して長剣を振るう。
〈飛翔斬!〉
希美が放った特技を跳躍して回避すると、天道は一跳びで希美に迫るとメイスを力任せに振るい、希美は長剣で信じられない程の衝撃を受け流す。
強烈な一撃を受け流された天道だが、メイスを軽々と振り回すと何度も何度も希美に向けて叩き付け、希美は受け流すだけで精一杯であった。
防戦一方となる希美を、天道は大きな口の端を大きく上げて、瞳孔が開きまくった目で希美の姿を捉える。
「アーッハッハッハッハァ!!あの頃とは違うのよぉ!封印してくれたお陰で力を発散できなかったから、その分カラダの中の力を漲らせる分のエネルギーを貯めさせてもらえたわぁ!!」
「希美!どこなの?希美!!」
奈緒は際限無く湧き立つ妖魔に手間取りながら、西新宿の路上を駆け廻り親友である希美の姿を探していた。
ハンマー型の特装器を振り回しては数体の妖魔を弾き飛ばして消し去り、間合いを作ると特装器に法力を込めて特技を発動する。
〈火炎矢!〉
15本程の炎の矢をやや広角に放つと、着弾した個所で炎が上がり数体ずつの妖魔を巻き込んで灰と化していく。
(限が無い……この集団を一掃しないと……)
奈緒は特装器に赤の法力を込めて斜めに掲げると、自身が持つ最大級の威力の特技を発動させる。
〈爆裂!!〉
西新宿の路上約5mの高度に赤い点が渦巻くように現れ、次の瞬間半径15mにも達する巨大な爆炎が交差点を覆い周囲は阿鼻に包まれ、その爆風は直径150mに及んでその範囲は叫喚に飲み込まれる。
爆炎の直撃を受けた妖魔はその炎で消滅し、至近距離にいた妖魔はその熱で焼かれ、爆風に飲み込まれた妖魔は吹き飛ばされてビルに、妖魔同士で衝突して挫滅し、その姿を消し去って行く。
爆裂の余波を残した西新宿の路上は焼け焦げた跡以外は何も残さず、先に見える妖魔の集団と――そして天道に対峙する希美の姿が遠くに見えた。
「希美!」
奈緒は希美の姿を見止めて疲労が溜まり始めた体に鞭打ち、駆け出して行くのであった。
奈緒が放った爆裂の光を見た瞬間、危険を悟った御魂は〈光防壁〉を発動させてその爆炎・爆風から身を護ると、妖魔が姿を消した西新宿の路上を素早く見回す。
(鈴木さんですね、これは……こんな市街地の真っ只中でこんな特技を放つとは……困ったものです……)
爆風の吹き返しを凌いだ御魂は路上の先を見遣ると、100m程先に激しく打ち合っている希美と天道の姿を見付ける。
(星野さん!それに天道!……急がないと!)
御魂は光防壁を解除すると両手剣型の特装器を脇構えに、希美が居る方へ走り出すのであった。
「アーッハッハッハッハァ!!あの頃とは違うのよぉ!封印してくれたお陰で力を発散できなかったから、その分カラダの中の力を漲らせる分のエネルギーを貯めさせてもらえたわぁ!!」
天道のその言葉を聞いた瞬間、希美は背筋が凍り全身が粟立つ感覚に襲われた。
その時であった。
『希美!来るぞ!左だ!!』
(えっ?)
希美の脳裏には、何故か剛の声が聞こえたのであった。
気配を感じて右斜め後ろを見ると、そこには夢遊病者のようにフラフラと当所無く彷徨う剛の姿。
「剛!」
予期せぬタイミングで姿を現した剛に対して、希美は一瞬頭の中が真っ白になったような感覚で思考が停止してしまう。
「終わりよ」
天道は淡々とした、それでいて地響きのような声で言い放つと、その場から姿を消し、希美の動体視力を遥かに上回る速さで希美の左懐に入り込む。
「希美!!」「星野さん!!」
まだ20m以上先から、駆け付けた奈緒と御魂が声を掛けた事で希美は意識を引き戻したが、既に天道は希美が反応するには近過ぎる距離に存在していた。
〈神力の刃〉
希美は身を捩り長剣を振るって討ち合おうとするが一瞬遅い。
天道は特技を発動させ、右手に生み出された光の刃を逆袈裟切りに振り上げると、数十倍、10メートルほどにまで延び、希美も、そして彷徨っていた剛も切り裂いていく。
「あ……ぐ……」
天道が振るった剣に切り裂かれ、胸から下が焼かれるような激しい痛みに襲われた希美は大量の吐血と同時に、目の前に帳が下りてくるのを感じる。
「希美ーーーーーーーー!!」
朦朧とする意識の中で奈緒の悲痛な叫びを聞いた希美は、その五感を深淵に引きずり込まれて行く。
(また……死ぬの……?それなら……もし転生するなら……この次は剛と……)
その時、前世で天道に消滅させられた時と同じ言葉が希美の頭の中に響き渡る。
― 人類個体識別番号 281474976710656、転生を開始します。 ―
第122話 『If... 〜I wish〜』 美郷あき




