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Limitless  作者: 神 賢一
第一章 (RE)PLAY

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第12話 BLOOD QUEEN

 燃え盛る西新宿高層街。

 公園通りを、北通りを闊歩かっぽする、数千を超える妖魔の群れの中には体長2.5m程のトロルと呼ばれる存在や、4mを超えるサイクロプス、更には体高2m、体長4m程の四足獣のようなケルベロスと呼ばれるランクB妖魔まで存在している。

 それらが人々を襲い、信号機を薙ぎ払い、自動車を踏み潰しながら、西新宿の街で破壊の限りを尽くしている。


(ま……また……この、こんなのを……見るだなんて……)

 剛は呆然とした表情のままノロノロと歩みだす。

 周囲では破壊された自動車から流れ出したガソリンが気化して次々と爆発し、炎が街路樹に、そしてビルの可燃物に延焼して辺り一面が灼熱の業火に包まれていた。

 近くの新宿警察署からプロテクターを付けた警官が出動し、発砲して妖魔を退治しようとするが焼け石に水と言ったが如く、数の暴力で支配を広げていく。


 トーイチから20名程の教員が、特装に身を包んで妖魔の群れに突入し、片っ端から薙ぎ払っていく。

 対妖魔特設校であるトーイチには――トーニやトーサンもだが――対妖魔の専門家を育成すると言う目的があるため、教員の半数程がSUADから出向してきている。

 本職としてはSUAD隊員である教員としては、SUAD本隊がまだ到着していない現状、少しでも被害を食い止めるために妖魔を退治するべく、先陣に立っているのである。

 しかし、ランクEであるゴブリンやコボルトであれば5匹10匹は一人で相手できるが、ランクCのトロルは一対一程度、サイクロプスやケルベロスと言ったランクBの妖魔だと複数人で対応しないと命の危険性がある。

 そのため5人程度が一組となって妖魔との戦いを行っていた。



 しかし、圧倒的に人側の数が足りない。

 陸上自衛隊練間駐屯地に配置されているSUAD第1大隊はスクランブル状態とは言え道路事情を考えると30分は掛かる。

 剛がそう思ったその時、トーイチから100人以上……いや、500人程の、特装に身を包んだ集団が現れた。

 その中で成人と思える女性――恐らくはSUADから派遣された教員が、声を張り上げる。

「いいか!さっき伝えた通り、10人1組でチームアップしろ!!ゴブリン程度なら構わんが、サイクロプスとか勝てないと思ったらすぐに下がれ!!未来を担うお前たちが無駄に命を捨てるなよ!!」

 「「「「「おおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーー!!!!!!」」」」」

 雄叫びを上げると500人ほどの特装に身を固めた集団は10人程の一団に分かれ、妖魔の群れに突進していく。

 SUAD隊員には及ばないが、対妖魔の技術を受け継ぐ若者――剛と同世代の――猛き者たちが、集団で妖魔を刈り取っていく。


(トーイチの……特技科の全員……なの、か……)

 500人もの戦闘員となると、当たり前だがトーイチの教員では足りない。だが、5クラス32人、3学年と考えると、これだけの戦力が揃う。

 その中で、剛は集団ではなく、一人で妖魔の大群に突進する姿を目にする。

(星野……希美……!!)



 希美は恐ろしく心を燃え滾らせながら、恐ろしく冷静だった。

(たんなる妖魔の出現じゃない……恐らく……修羅が、多分……アイツが居る……!!!)

 ランクCであるトロルをいとも簡単に撫で斬りにし、長剣の一振りで数重のゴブリン・コボルトを消し去ると、瘴気と言える禍々しい気配がする場所に突き進む。

 それに対して、剛は何も対抗手段を持たないにも拘らず、よろよろと、ふらふらと、そこに行かなければいけないと言う、執着とも思える感情で希美を追った。


 一閃。

 SUAD隊員でも油断できないトロルを逆袈裟で倒すと、希美は倒れかけたトロルの体を踏み台に跳躍し、その先に居たサイクロプスを4m以上の上空から唐竹割に切り捨てる。

 降り立った瞬間から特装器である長剣を振るい、法力を混めると数十……いや、百近い妖魔を薙ぎ払う。

 一騎当千。万夫不当。そこらの妖魔では彼女の前ではいともたやすく消え去る。

 万に近いと思われる妖魔の群れを、傍から見るとそこらの雑草を草刈鎌で薙ぎ払うように、希美は妖魔を刈り取って行く。



 その時――


 西新宿駅直結の40階を超える高層ビルが、突如崩壊した。

 その場にいる誰もが、何事が起ったのか、何者が成し得たのか……

 圧倒的な破壊の[力]を、その禍々しい[圧力]を、そして近づけば……死。それ以外を感じることが出来ない、そんな理解不能な存在を何百人もが見とめていた。



「――みぃつけたぁ」

 その声に、剛は血が泡立つような感覚を覚えた。

 聞きたく無かった。聞いてはいけなかった。生き血を求めるおぞましい存在。死をもたらす災禍。

「アンタのおかげで1年も封印されちゃって、人を殺す楽しみ(・・・・・・・)を味わえなかったじゃないですかーー!!」

 剛は、知っていた。その、暴虐を齎す存在を。生きとし生ける者を無辜と還すその存在を。血塗られた災禍の女王と言える存在を。

(……天道……光……!!)

 天道はメイスで襲い掛かると、希美も剣を振るい、天道の隙を狙い突きを放つ。


(……何だ、これは……)

 凡人の……剛の動体視力では全く追い付かない刺突や薙ぎ払い、甲高い音は聞こえていると言う事は、何度も、何十度も、希美と天道は手にした得物で相手の命を刈り取ろうとしている。

 前世とは違った。剛は希美の姿を美しく思ったが、今では圧倒的暴力と暴力、圧倒的死と死を繰り広げている。その状況を目の当たりにして、自らの力で立つ事すら出来ない状態だった。

 だが、目の前で繰り広げられる光景……殺戮は、前世で見たままの事が繰り広げられている。


「アーッハッハッハッハァ!!あの頃とは違うのよぉ!封印してくれたお陰で力を発散できなかったから、その分カラダの中の力を漲らせる分のエネルギーを貯めさせてもらえたわぁ!!」

 体を捻じるように入れ替えて右足で蹴りを放つと希美の右脇腹辺りにめり込み、その勢いで希美は数メートル飛ばされる。

 剛の視界には、血を求めた死を齎す圧倒的な存在が、小さな体なのにサイクロプスより大きく見えた。

(……何なんだよ……この、血に飢えた……王……いや、女だから……血染めの女王は……!!)


(ま……前に見た……あの時の、そのまま……)

 剛は何度目かの……本来であれば何度も感じるはずがない、目の前の死を感じた。

(何なんだ!!何なんだコイツは!!!血を……生き血を求める……ケダモノじゃないか!!)

 そのケダモノは爬虫類のようなヌメヌメとした目を見開き、捕食するだけの獲物を見据えているような仕草で希美を捉える。

(何か……何とか、違う事は……違うようには成らないのかよ……!!)



「終わりよ」

 淡々とした、それでいて地響きのような声を出した天道は言い放つと、その場から姿を消した。

 いや、姿を消したのではなく……人の動体視力をはるかに上回る速度で移動していた。剛は分かっていても、天道の動きを追う事ができない。

 剣を構える希美の左懐に。単に剛の動体視力では――剛のみならず、剣を携えた希美の動体視力でも、動きを捉えることが出来ない速さで。



 〈神力(divine)の刃(Blade)



(また……これなのか……!!!)

 前世で見た光景。

 希美と、そして剛も天道によって振るわれた、一瞬にして10m程まで伸びた光の刃をまた見るのかと……そして、それが希美と……剛自身の、命を刈り取る一撃なのかと。


「ぐぁっ……!!」

 天道が振るった剣に切り裂かれ、胸から下が焼かれるような激しい痛みに襲われた剛は大量の吐血と同時に、目の前に帳が下りてくるのを感じる。

(俺は……また……死ぬ、の、か……?)

 僅か数分の間で……いや、前世を含めると1年半ほどの間……何度も頭を巡ったことを朦朧もうろうとする意識の底で思いながら、剛の五感は深淵に引き込まれて行く。




 ― 人類個体識別番号 281474976710655、転生てんしょうを開始します。 ―


第12話 『BLOOD QUEEN』 美郷あき

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