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Limitless  作者: 神 賢一
第七章 A Place With No Name

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第118話 君がいない未来

 希美はゴールデンウィーク明けから週3回、格技室での模擬戦を行うようになっていた。

 独りで入室する事が多く、トーイチの1年生、2年生を中心に相手をして貰っていた。理由としては3年生は前世で関わった人が多く、どうしても剛と翔の事を想い出してしまうからであった。

 奈緒も一緒に参加する事もあったが、今の奈緒は前世の奈緒とはあまりにも人格が違い過ぎて、同じ人物とは思えなかったのが希美にとって幸いであった。




 季節は過ぎて夏となり、来週から夏休みとなる週の月曜日。

 希美はトーフ入学以来、どうやら奈緒と学食で昼食を取るのがいつもの事だったようで、3年生に上がってからも基本的には奈緒と食事をしていた。

(確か、ちょうど食事を終えて食器を返却するかしないかのタイミングだったわね……)

 前世の記憶通りであれば、北の丸公園に妖魔が出現する――それも特別警報が発令される、そう言う日であった。

「希美、あなたがそんな顔してると、何かあるんじゃないかって怖いよ」

 奈緒に指摘され、自分が険しい顔をしている事に気付いた希美はごめんと言って悲し気な笑みを浮かべる。

「希美、その顔はやめて」

 ああ、あの日……トーイチ1年の三校合同夏季特別講習の日の朝に、剛と似たような会話したんだった……想い出した希美は目を伏せて軽く首を振る。

「この顔しかないわ」


(どうしても……些細な事から思い起こされる……剛は、いないのに……)

 気持ちが沈みかけたその時であった――


 ≪対妖魔警報発令。対妖魔警報発令。妖魔出現場所は中央区北の丸公園!3年生は特装具を装着、特装器所持の上、地下駐車場に集合!2年生は直ちに地下駐車場に集合せよ!繰り返します。対妖魔警報発令……≫


(対妖魔警報?!特別警報じゃなくて?!)

 希美は驚き勢い良く学食の椅子から立ち上がる。その勢いに奈緒は急ぐのかと思い同じく勢い良く立ち上がり、トレーを手にする。

 奈緒の様子を見て希美は現実に引き戻され、トレーを手にして奈緒の後をついて返却場のベルトコンベアーに返した後、格技棟のロッカールームに走るのであった。

(前は特別警報だった……ワイバーンが5体以上出て、妖魔も2,000体程いたはず……警報って事は、1,000体以下って事なの?ワイバーンは……?)

 疑問に思いながら、特装具を身に纏い特装器を手にした希美は奈緒と共に地下駐車場に向けて駆けて行くのであった。


 生徒達が準備を済ませた状態で慌ただしく地下駐車場に駆け込むと、クラスごとに整列して担当教官から説明が行われる。

 日本武道館の南東側にある丸の内公園にランクC妖魔であるトロルを10体程含む約500体の妖魔が出現していると言う事であった。

(ランクC……ランクBのサイクロプスやケルベロス、ランクAのワイバーンも居たはずなのに……)

 不可思議に思いながら希美は装甲輸送車に乗り込み、現場へと向かった。


 北の丸公園に到着し、装甲輸送車の後部ハッチから飛び降りると、希美は前世と同じく池の西側に奈緒と共に向かう。

 すると10秒程で前方の路上を闊歩する妖魔……ゴブリン10体程と遭遇すると、希美は躊躇なく特装器に法力を込めて特技を放つ。


 〈飛翔(leaping)(slash)!〉


「ちょっと!希美!!あたし達は妖魔討伐はしちゃダメでしょ!」

「駄目じゃないわ!簡易特技士は妖魔討伐の権利と義務を負うのよ!今は目の前の妖魔を討伐しなくては!!」

 希美は駆けながら奈緒に反論し、直ぐに次のターゲットを見付ける。

 長剣の特装器を構えて法力を込めると、一文字に振るい特技を発動する。


 〈火炎(flaming)(arrow)!〉


 放たれた30本程の炎の矢は妖魔に向かって飛び交い、10体程の妖魔を炎上させて灰と消し去る。

 目の前の妖魔を討伐し終わると、希美は更なる獲物を探して北の丸公園を駆けるのであった……


 パシン!!

 妖魔が殲滅された北の丸広場に、奈緒が希美の頬を張る乾いた音が響き渡った。

「何を死に急いでるの!無茶苦茶よ!あなたがやってる事は!!」

 奈緒は涙目になりながら希美をなじる。奈緒の言い分も尤もである。3月末の吉祥寺の件があるとは言え、本来戦闘経験など殆ど無いはずの希美が妖魔に向かって突っ込んで行くのは、どう見ても命知らずの暴虎馮河な行為であった。

「でも、生きてるわ」

「そのやり方で次も生きていられるって保証はどこにも無いでしょ!!」


「でも、剛なら……」

 そう言い掛けて、希美は剛がいない事に気付く。

「何そのゴウって?!あたしは希美は現実主義者リアリストだと思っていたけど、あの日から変わったよね?!何の幻見てるのよ?!」

 奈緒から指摘されて、希美は苦虫を噛み潰したような表情をする。

(そうだった……奈緒には前世の記憶が無いから、剛とか翔とか、名前を言っても分かる訳が無いんだった……)

 理解して貰えない思いを抱えた希美は、暗澹とした気持ちに陥る。

 そんな希美を見て、奈緒は言いようも無い寂寥感に苛まれていた。



 8月も下旬になり、三校合同夏季特別講習が開催される日を迎えていた。

 希美が知り得る前世の記憶を辿れば、小金井公園に妖魔が出現――それも、特別警報が発令されると言う、信じがたい事が起きた日であった。

 家にいた所で自室の掃除くらいしかやる事が無い希美は、朝から格技室で相手もいない状況――トーイチ生は当然ながら合同の特務講習に参加しており、模擬戦の相手になる生徒は1人も居なかった――そのため、一人で素振りや型稽古をする以外無かった。

 どれだけの時間一人で鍛錬していたのか……時計を見遣ると12時間近であった。

(少し……第1格技室を覗いてみようかしら……)

 そう考えると、希美はほぼ無人の第5格技室を後にして、同じ格技棟の第1格技室に向かった。


 三校合同の模擬戦はそろそろ終わる頃であった。

 トーイチ・トーニ・トーサンの特技科の生徒が模擬戦を行っているのを、希美は漠然と眺めていた。

(正直……緩いわね……でも、今の私が全員に勝てるかと言うと……これで、小金井公園に特別警報が出たら……誰が……)

 剛と翔がいた。その二人と奈緒との4人で研鑽を積んで国をも動かして特例法を制定させた。その4人と御魂でヘリで急行して小金井公園に出現した妖魔を討伐していった。

 前世ではそう言う他の人では経験し得ない事を成し遂げて来ていたのだが、現世では剛も翔もいなければ、希美は簡易特技士でありそう言う特例法は存在していなかった。

(どうする……今からでも、一人で向かう……?)

 ただ、今から向かっても最速でも30分以上掛かる。しかも、前世ほど剣技も特技も劣る自分が一人で向かって何になるのか。

 希美は空回りし続ける思考を巡らせている間に、三校合同夏季特別講習の模擬戦は終了していた。


(特別警報は?!せめて、準備しないと!!)

 希美は格技棟のロッカールームに向かって駆けていた。

 ロッカールームで特装具を装着し、特装器を手にすると希美は地下駐車場に急いで向かう。

 到着した地下駐車場は、軍務の人が装甲輸送車やその他の特車を整備している光景が希美の目に飛び込む。

(……まだ、発令されないの……?)

 希美は戦闘態勢のまま待つが、一向に警報は発令されない。


 1時間以上待った。

 本来であれば……前世の記憶通りであれば、とっくに小金井公園に対して対妖魔特別警報が発令されていたはずであった。

 だが、何も起きない。

 臨戦態勢であった希美は、肩透かしを食らうようなこの状況に戸惑うしか無かった。


(剛!教えて!私はどうすれば良いの?!)

第118話 『君がいない未来』 Do As Infinity

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