第114話 vestige ―ヴェスティージ―
剛と希美の現役SUAD隊員をも上回る実力者二人を相手に、天道は鋭い猛攻をメイス一本で凌いでいた。
凌いではいたのだが、間断無く繰り出される二人の息の合った攻撃に、天道から攻撃を仕掛ける事ができずにいた。
ただ、剛と希美の特技による飽和攻撃で受けた傷はいつの間にか塞がっており、修羅と言う異常な存在を感じさせずにはいられなかった。
そして今の殺し合いと言う状況を宛ら楽しむかのように、口は大きく三日月状に吊り上がり瞳孔が開いた目を爛々と輝かせて、剛と希美との討ち合いを続けていた。
剛も希美もこの膠着状態を脱する方法を思案し続けながら天道に討ち掛かっていた。
直接の格闘戦では隙を見出す事ができず、かと言って遠距離からの範囲攻撃すら余程体勢を崩していたり意識を他に向けていないと簡単に防がれる。
天道と対峙し始めてから8分程――トーイチから出動してから15分程が経過している。これまでも特務実習で10分や15分は戦い続けており直ぐに疲労感に見舞われる事はないだろうが、20分、30分と続くと疲労が蓄積されて今のような動きができるとは保証できない。
そう考えるとこの1、2分が勝負どころと、今の膠着状態から抜け出す必要があった。
その頃翔と奈緒は東通りを北上して新宿警察署前の交差点に辿り着き、青梅街道を埋め尽くす妖魔を殲滅していた。
「奈緒!ここじゃ爆裂は使うんじゃねぇぞ!」
「え~~っ。あれが一番簡単に倒せるのに~~」
不満を漏らしながら奈緒は特装器のハンマーを掲げて法力を込める。
〈華炎嵐!〉
無数の炎の花弁が渦を巻きながら上空から舞い降りると、その花弁に触れた妖魔は次々と発火し炎の竜巻となり、50体を超える妖魔が灰となり消え去って行く。
赤の個性なのでやむを得ないのだが、周囲の火災と奈緒の特技でただでさえ猛暑の青梅街道は灼熱と言える温度に達する。
「クッソ暑いじゃねぇかよ!冷ましてやんよ!!」
そう言うと翔は妖魔の群れに向けて特装器であるレイピアの切っ先を向けて法力を込め、以前希美が使用していたのを思い返しながらイメージを膨らませる。
〈細氷!!〉
翔が指し示した地点を中心にマイナス100度の極寒が半径15mを多い、あらゆる物を凍て付かせて空気中の水蒸気が氷結して太陽光を反射して煌めく世界を生み出す。
その煌めく世界の中で、妖魔達は瞬時に凍結され粉々になり、塵となって煌めきの中に紛れ込んで行く。
「ほへ~~、涼しくなった~~。翔んるん夏場毎日これ使って~~♪」
「使う訳ねーだろっ!」
翔と奈緒はいつもの如く軽口を叩きながら、次なる妖魔の群れに突進して特装器を振るい妖魔をこの世から消し去って行くのであった。
「剛」
膠着状態の中で希美が小さな声で呼びかける。何か思い付いた手があったのであろう。
剛は軽く頷くと、天道と打ち合った反動を利用してバックステップで天道と間合いを取る。
すると希美は振り上げた長剣の特装器に赤の法力を纏わせる。
〈紅炎刃!〉
長剣は数千度――一万度を超えているかもしれない、存在するだけで周囲に灼熱を放つ状態となり、希美によって天道に向かって振り下ろされる。
その凄まじき熱量に流石の天道も焦りの顔を見せてメイスを振るい、その極熱の斬撃をメイスで振り払おうとする。
だが打ち合わされたメイスは地上で存在し得ない程の高熱を受け、バターをナイフで切り取るような抵抗も無く槌頭を切り取られ、必死の思いで後ろに転がりながらその斬撃から逃れる。
その一瞬を剛は見逃さず、特装器に法力を込めながら跳躍してハルバードを振り下ろす。
〈剛力斬!!〉
特装器で9倍程に増幅された特技の力が込められた一閃を天道は半壊したメイスで受け止めるが、希美の斬撃から逃れるために体勢を崩しており力負けし――斧頭を左肩に叩き込まれる。
「ぐぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
次なる一撃から逃れるため天道は路上を転がって剛から距離を取るが、その左腕は剛が振り下ろしたハルバードの近くに取り残されたままであった。
天道の左腕があった場所からは青黒い液体が噴き出しており、既にメイスを取り落としていた天道は液体が噴き出している場所を右手で覆うようにして立ち上がる。
次の一撃をと思い警戒しながら構えている剛に希美が駆け寄り天道の次の動きを注視しているが、立ち上がったまま動きを見せない天道に疑念を抱かずにいられなかった。
「ひっ……ひひっ……ひひひひひ……イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒーーーー!たーーのしーーーじゃないかーーーーーー!!」
いきなり天道が天を仰ぎ、奇声と言うには余りにも悍ましい不協和音を発する。
そして天道は少し離れて立つ剛と希美を同時に見ると言う、哺乳類では在りうべからざる現象を発し、その長い舌で舌なめずりをする。
「血沸き肉躍る戦い!!命の奪い合い!!最高の饗宴じゃーないですかーーーーー!!!さーーーあ!殺し合いましょう!!命の奪い合いをしましょう!!それが!この世に!存在する意義なのですからーーーー!!!!」
眼から青黒い血を流しながら、ショートカットの銀髪を放射状に逆立て、白いオーラを纏った天道が剛達の方に一歩一歩ゆっくりと近付いて来る。
その幽鬼のような……いや、それ以上の凶悪な死を齎す亡霊のような姿に、剛も希美も背筋が凍るような感触に覆われる。
これ以上は駄目だと言う危機意識が働き、剛も希美も特装器に法力を込める。
〈溶岩弾!!〉
〈隕石群!!〉
天道は二人の特技の放つ熱に巻き込まれて炎上する。その姿を、二人は確かに見た。
だが、業火の中にはまだ人らしき者の姿が、熱で揺らめくその先に見える。
剛も希美も、その形容の使用も無い――宛らホラーの映画のような光景に、肌が粟立ち思考が働かなくなる。
全身を発火させながら、なおも天道は剛と希美の方に歩み寄りながら、奇声を発し続ける。
「イィーーーーヒッヒッヒッヒッヒ。ケャーーーキャッキャッキャッキャ!!お坊ちゃんお嬢ちゃん、遊びましょうよぉーー。もっと!もっと!!もっと!!!あーそーびーまーしょーうーよーーーー!!!!」
正真正銘のバケモノである。
黒の個性とか、そう言う次元ではない。純粋に、悪がそこにある。
生かしておいたら人類に禍根しか残さない。そう言う存在が、剛と希美の目の前に存在している。
二人は顔を見合わせると黙って頷き、近付いて来る天道に向けて全力で駆け寄り、法力を込めた特装器を振るう。
〈炎刃!!〉
〈剛力斬!!〉
天道が存在する空間を斬り裂く希美と剛の特装器。だが、そこに手応えは全く無い。
見上げるとそこには背中から光の翼を生やして宙を揺蕩う天道の姿。
「もっと面白い事したいのにぃーーーーーー!!違う事したいのにぃーーーーーー!!……同じ事ばかりじゃ詰まんないィィィィィィィィィーーー!!」
左腕は無く、剛と希美の特技を受けて既にボロ雑巾のような姿を晒しながらも、異常と言う他に形容し難い笑みを浮かべ続けていた。
「だからぁーー。違う事、始めましょおおおおおおおおおおおーーーーーー!!!!」
〈聖なる浄化〉
剛と希美の間に突如現れた目を晦ます程の眩い光点は爆発的な勢いで広がり、二人を飲み込んで行く。
「希美!!逃げろ!!」
「剛!!逃げて!!」
だが、二人の言葉虚しく、猛烈な勢いで広がる光点は無情にも二人を完全に取り込んでしまう。
広がり切った光がシャボン玉が弾けるように砕け散ると、そこには剛の姿も、希美の姿も、そして天道の姿も見当たらなかった。
― 人類個体識別番号 281474976710656、転生を開始します。 ―
第114話 『vestige -ヴェスティージ-』 T.M.Revolution




