第113話 向かい風に打たれながら
その光景は何度と――100回を超えて見て来た光景であった。
崩壊し炎上する西新宿高層ビル群、闊歩する妖魔の大群衆、そして目の前に立つ重警戒対象修羅第255号、天道光。
剛と希美は特装器を構えて天道と対峙し、その隙を伺いながらじりじりと間合いを詰めていく。
すると天道は爬虫類のようなヌメッとしたその目を見開き、不自然に大きな口を開けて、人とは思えない鋸の歯のような牙を見せつける。
「アンタ達のおかげで1年も封印されちゃって、人を殺す楽しみを味わえなかったじゃないですかーー!!!」
〈神の光弾〉
天道がメイスを振るうとバレーボール程の光球が生み出され、亜音速で一直線に希美に向かう。
希美は長剣の特装器で一刀両断にすると、分たれた光球だった物は希美の背後の妖魔の群れを襲い、数十体の妖魔が消失していく。
背後で起こった妖魔の不運をまるで気にも留めず、希美は手首の動きで剣を翻すと切っ先を天道に向け、特装器に青の法力を込める。
〈空気矢!〉
希美が特技を発動させると200本程の無色の矢が音の速さで天道に殺到する。
〈光防壁〉
希美との間に光の壁を発生させた天道は剛の方に向き直ってメイスを突き出すが、既に間合いを詰めていた剛はハルバードの特装器に緑の法力を込めて特技を発動させる。
〈剛力斬!!〉
剛が力任せにハルバードを横薙ぎに振るうと天道はメイスで受けるしかなく、その勢いを殺せずに自らが生み出した光の防壁に叩きつけられる。
その間に希美は光の壁を回り込んで天道の背後を取る位置に駆け寄り、特装器に赤の法力を込めると逆袈裟斬りに振り下ろす。
〈炎刃!〉
特装器である長剣の切っ先から10m程の炎の刃が発生して天道が居る場所を切り裂くが、天道は跳躍して炎の斬撃を避けると左掌を希美に向けて光の球を放つ。
〈破砕光球〉
向かって来る光の球を希美は返す刀、炎の刃で逆袈裟に切り上げて粉微塵に砕くと、炎刃を解除すると同時に切っ先を天道に向けて再度赤の法力を込める。
〈火炎矢!〉
天道が宙に浮いている今が好機とばかりに剛も特装器を掲げて緑の法力を込め、得意技と言える特技を発動させる。
〈溶岩弾!!〉
それぞれが200を超える炎の矢と溶岩弾による飽和攻撃を受けた天道は流石に全てを躱したり弾き返したりはできず、何発もその矢を、その溶岩をその身で受けて衝撃で跳ね飛ばされる。
致命的な部位だけは護ったのであろうが、炎と溶岩の灼熱で陽炎が立つその場で、体の各所から腐肉が焼け焦げるような臭気を漂わせた天道はゆらりと立ち上がり、凶悪な満面の笑みを浮かべる。
「ははっ……はははは……アハハハハハハハハハハハハハハハハ!!楽しいね!楽しいねぇ!またアンタ達とこうやって遊べるって、とても、とーーーーーっても、楽しいねぇ!!」
立ち上がった天道はメイスを頭上に掲げるとメイスが眩い光を放ちだし、そのメイスを天道が振り下ろすと剛と希美の上空に巨大な光の槌が発生した。
〈神の鉄槌〉
回避できない。身の危険を悟った剛は手段を択ばず天道の特技を打ち消すために即座に判断して、特装器に法力――黒の法力を纏わせる。
〈法力吸引!〉
天道では無く周りを闊歩している妖魔の群れを対象に、剛は黒の特技である法力吸引を発動させて多量の法力を奪い取ると、即座に次の特技を発動させるために奪い取った法力と自らの法力を特装器に纏わせる。
〈虚無〉
ハルバードの切っ先が指し示す場所から漆黒の輪が急速に広がり始め、振り下ろされている光の槌を侵食して何も存在しない空間を生み出していく。
それにより天道の特技を無効化する事には成功したのだが、法力吸引、そして虚無と言う明らかに黒の特技を、自分ではなく剛が発動させた事に希美は激しく衝撃を受けていた。
「……な、ぜ……ご……剛……何故、貴方……それを……」
人ではなくなった……人として使用してはいけなかった……そんな黒の法力、黒の特技を、バケモノの力を剛に使わせてしまった……
希美は愕然とした思いで呆然と剛を見詰めるしかできなくなっていた。
「希美!天道はまだ倒せてない!しっかりしろ!!」
剛からの発破で意識を引き戻した希美であったが、天道のメイスが眼前に迫っており辛うじて長剣で受ける事が出来たが、その衝撃で10m程跳ね飛ばされてしまう。
すかさず剛が希美と天道の間に割って入るが、背中から地面に強かに打ち付けられた希美は呼吸する事も出来ず暫しの間横たわったまま動く事ができない。
時間を稼ぐために剛はハルバードを振るい、何合も天道のメイスと打ち合いながら次の一手を模索していた。
(至近距離……剛力斬以外は遠距離や範囲攻撃だ……今使う訳にも……)
ならば、と思い剛は右手でハルバードを振るい続けながら、左手に緑の法力を纏め上げる。
〈岩石弾!!〉
ほぼゼロ距離から剛は天道に向けて20発の拳大の岩石を叩き付ける。
回避する事も出来ない天道は岩石の衝撃を真正面から受ける事となり、10m以上跳ね飛ばされて西新宿の路上を転がる。
その間に剛は希美に駆け寄り上体を抱き上げる。
「希美……やれるか……?」
その言葉に気合を入れ直すように軽く頭を振ると、希美は特装器である長剣を杖に立ち上がり、10m以上先の視線上でゆらりと立ち上がる天道を睨み付ける。
「大丈夫、剛。やるわ……やらないと……天道を倒さないと、明日は来ない……そう、でしょ?」
剛も立ち上がるとハルバードを構え直し、希美と同じように天道を睨み付けた。
「ああ。アイツを倒さないと、俺達に未来は無い。行こう、二人で」
燃え盛るビル群の炎により上昇気流が発生し、西新宿の路上は激しい風に翻弄されていた。その風は剛の顔を打ち、希美のポニーテールを棚引かせる。
巻き上がり吹き付ける風の向こう側に、狂気に満ちた笑みを浮かべる天道がメイスを構えて立っている。
周囲では妖魔による破壊音と、トーイチ生やトーイチ教官が妖魔と戦っている剣戟音、破壊された車のガソリンに引火したのか時折爆発音が響く中、ここに居るのは剛と希美、そして対峙する天道のみであるかのような錯覚に陥る。
並び立つ剛と希美はお互いの顔を見合わせてから頷くと、特装器を掲げて法力を込めた。
〈岩石弾!〉
〈飛翔斬!〉
剛と希美は発動させて天道に向かう特技を追い掛けるように天道に向けて走り出す。
天道もメイスを振るって特技である風の刃や岩石を叩き落し、剛達に向かって駆け寄って来た。
左右に分かれると剛と希美は特装器を振るい天道を狙うが、天道はメイスで受けて押し返してその勢いのまま剛に向かって振り下ろすと、剛は右に体を開いて回避して突きを見舞う。
タイミングを外さず希美が天道の後ろから左真一文字の一閃を繰り出すと、天道は左に跳躍して剛の突きを避けるとメイスを希美の長剣に叩きつけて弾き返す。
突きを躱された剛はその状態から横薙ぎの斬撃を繰り出すが天道は身を屈めて躱すと剛に向き直り、懐に入り込む形で間合いを詰めてメイスを叩き込むが、両手でハルバードの柄を持ちその打撃を受けると翻して石突で天道の胴を狙って突き出す。
咄嗟に左後ろに跳躍し、天道は剛と希美の二人を視界に収めて不意を打たれないように用心深く構える。
轟々と吹き付ける強風の中、剛・希美と天道との戦いは第2ラウンドに突入していた。
終わりが見えない激しい戦いは、炎上崩壊する西新宿高層ビル群の直中と言うリングの上で、お互いの命を賭した時間無制限のデスマッチ以外の何物でもなかった……
第113話 『向かい風に打たれながら』 茅原実里




