第109話 花葬
戸山公園での妖魔討伐から2週間程は平穏に過ぎ、その間も剛達4人は放課後になると格技室に向かい4人で模擬戦を行ったり、上級生との――剛と希美は2対1や3対1と言う複数人を相手に――模擬戦を行うなど、更に技術に磨きを掛けていた。
平日のみならず、土曜日も朝からトーイチに集まり模擬戦を午前中いっぱい行うなど、精力的に技術向上に努める姿はトーイチ全体の士気を盛り上げる事に貢献していた。
また、積極的に上級生とも模擬戦を行う事で、剛達だけでなく上級生も戦闘技術が向上しており、今年のトーイチ3年生は過去最高の戦闘集団と評されるレベルに到達していた。
7月に入ってもまだ梅雨の長雨が続いているその日は、1年AクラスとBクラスの合同で格技授業が行われた。
とは言え、剛達4人は3年生相手でも1対1で負ける事が無く、翔と奈緒は2対1で勝率がほぼ5割、剛と希美に至っては3対1で勝率7割程度であり、1年生相手では瞬殺レベルで終わらせてしまうため、その4人で模擬戦を行った後は指南役として他の生徒の戦いを見て改善点を指導する役割となっていた。
「今のはモーションが大き過ぎる上に力任せに振ってるから、剣筋がブレてしまっている。もう少し手首のスナップを利かせて力では無く速さと正確性を重視する方が良い」
実際に剛は木剣を手にして実際に振って動きを見せる。
指南している生徒の振り方の場合は音が鳴らないが、剛がアドバイスした振り方を自身で再現するとヒュッと風切り音が鳴った。
それを受けて生徒の方も剛の真似をして振ってみるが、スッと風切り音とは程遠い音を鳴らす。
「……神野、お前剣遣いじゃないよな……」
対戦相手をしていたもう一人の生徒から疑問の声が上がるが、剛は軽く首を捻って答える。
「特装器はハルバードだが普通に木刀で素振りしたりする事もあるよ。それに、長い事のぞ……星野さんの剣筋見て来ているから、正しい振り方も自然と頭に入ってるんだよ」
「いや星野さんとか今更だろ」
ツッコまれて剛は憮然とした表情をする。確かにトーフの1年生の頃から、クラスでも『希美』で呼んでいるのをほぼ全員が知っており、今更感は否めないのだが、それでも翔や奈緒以外に対して希美の事を下の名前呼びするのは釈然としない――いや、単純にイヤだった。
釈然としない気持ちを抱えたまま剛は別の模擬戦を鋭い目つきで眺め、気になった点を先程と同じように実演して指南するのであった。
(今日、のはずだ……)
放課後になり、第5格技室で翔と奈緒の模擬戦を眺めている剛は、前世までの記憶を確かめていた。
トーイチに入学して約3か月。前世まではこの3か月間――最初の転生の時は5月直前だったから2か月間になるが――希美や奈緒と模擬戦を行い、腕を磨いて来た。
だが、現世ではトーフ時代から3年以上に渡り、希美や奈緒や翔、それにトーイチを卒業していった先輩達と、研鑽を重ね続けて来た。
その剛達にとって、前世までと同じ規模で妖魔が出現するのであれば、鎧袖一触、とまでは行かないにしてもさほどの難敵ではない事は確かである。
(だが、令和島収容所の方がどうなるか……)
先日の御魂の話では、収容所の警備もこれまで以上に厳重なものとするような話し振りではあったが、前世までも具体的にどのように天道が脱走したのか剛達には知らされていないため、警備と言う範疇で脱走を阻止できるのか見当も付かなかった。
≪対妖魔警報発令。対妖魔警報発令。妖魔出現場所は杉並区大宮。推定妖魔出現数は800。校内に居る特技科の生徒は特装具を着用、特装器所持の上、地下駐車場に集合せよ。繰り返します!対妖魔警報発令……≫
警報発令のアナウンスを聞いて希美は剛の顔を見ると、剛は黙って頷き、翔と奈緒に向かって再度頷く。
4人は直ちに格技室の出入口からロッカールームに駆けて行き、特装具を装着して特装器を手にすると地下駐車場へ急ぐ。
地下駐車場に到着して整列すると、最終的には180人程のトーイチ生が集合する。
担当教官のアナウンスによると、やはり東京メトロ方南町駅の少し先、大宮八幡宮近くに800体程の妖魔が出現していると言う事である。
説明終了後集合したトーイチ特技科生徒は速やかに装甲輸送車に乗り込み、次々と地下駐車場から地上の北通りを西に走り始める。
15分程で妖魔出現エリアに到着すると、剛は装甲輸送車の後部ハッチからハルバード型の特装器を掴んで飛び降りると、特装器を胸の高さで水平に掲げて緑の法力を込める。
〈溶岩弾!!〉
幾度となく使用してきた特技を発動させると、200発を超える銃弾程の大きさの煮え滾る溶岩が、妖魔の存在が濃い場所へ亜音速で熱の尾を引いて飛び放たれる。
瞬く間に100体を超えるコボルド・ゴブリン・オークと言った小中型の妖魔は穿たれ、燃やされ、灰となって消し去られていく。
〈群生蔦!〉
燃え盛る路上を駆け抜けると、剛はその先に居たトロルを周辺に居るコボルドやゴブリン共々絡め捕り動けなくする。
剛は更なる標的としてケルベロスに目標を定めると、ハルバードの穂先を向けて法力を込め、特技を発動させる。
〈土剣山!〉
道幅が10m程なため半径15mとする訳にも行かず、剛は法力を制御して横5m、縦20mの範囲に長さ5mの土の針を発生させると、ケルベロスと纏わり付く妖魔を纏めて串刺しにして塵に変えていった。
その頃になり漸く希美達が周囲の妖魔を殲滅しながら剛に追い付いて来た。
「剛!一人で突っ走り過ぎですよ!」
希美が険しい顔で剛に詰め寄る。
「この辺りは民家も多いです。もっと慎重に戦わないと、民間への被害を出してしまいますよ」
「済まない。この辺りなら何度……いや、何となく直線が続いているから大丈夫かと思っていたが、気を付けるよ。ありがとう」
剛は危うく何度も戦ったと言い掛けて、辛うじて誤魔化すように話を続けた。
翔と奈緒も剛達に追い付き、視線の先に見えるサイクロプスに向かって駆けて行く。
「手篭めにしてやるっ!」
「女子高生の言うセリフじゃねぇ!!」
掛け合いのような言葉を言い合いながら、近付いて来る小型妖魔を退治しながらサイクロプスに駆け寄ると、奈緒がハンマーを掲げた。
〈華炎嵐!!〉
奈緒が特技を発動すると大量の炎の花弁が発生し、渦巻きながらサイクロプスに向かい小型妖魔を乱舞に巻き込んで行く。
巻き込まれた妖魔は次々と発火炎上し、大きな炎となりサイクロプスに襲い掛かりその身を灼熱で喰らい始め、やがて喰らい尽くした炎は上空に舞い上がり、地上には何の姿も残っていなかった。
(驚いたな……いつの間にこんな特技覚えていたのか……)
これまで奈緒の範囲攻撃型特技と言えば爆裂だったのだが使う場所が限られており、その点今回発動させた華炎嵐であれば影響範囲をかなり限定する事が出来る。
共に戦ってきた仲間として、奈緒の新たな特技の獲得は翔にとっても嬉しくあった。
路上に蔓延っていた妖魔の姿も殆ど見えなくなって掃討戦に移り、救急車が各地の消防署から派遣されて被害者の収容を行い始めていた。
その様子を確認して剛達も装甲輸送車に向けて歩き出すと、御魂の姿を確認する事ができた。
「御魂先生」
剛が近寄って声を掛けると、振り向いた御魂の表情は神妙な面持ちであった。
「……まさか、令和島収容所が……」
剛の言葉に御魂が頷く。
「やられました……まさか、地上の襲撃部隊を陽動に、地下トンネルなどと言う古典的手段を使ってくるとは想定外でした……残念な事に、天道光が脱走しました」
その御魂の言葉に、剛も希美も苦く険しい顔をするのであった……
第109話 『花葬』 L'Arc~en~Ciel




