第105話 No More Time Machine
ゴールデンウィークが明けた5月6日――
昼休みになり、剛達4人は学食で昼食を取っていた。
前世までであれば昼休み中に対妖魔警報が発令されて、トーイチに入学して初めての特務実習が行われていた。
だが、昨年の三校合同夏季特別講習のように記憶に全く無いイレギュラーな事態も現世では発生しており、必ずしも前世までと同じになるとは確証を持って言えない状況であった。
(そう言えばこの日だったな……初めてトーイチに入学した時に、希美に転生――死に戻りの事を話したのは……)
今回の転生において、剛はその事を希美に話してはいない。話してはいないのだが、トーフに入学してからの剛の言動やそれ以前の翔からの話で、希美はその事を推測から確信を持って理解していた。
「剛、どうしたの?」
食事中にそんな事を考えていたため手が止まっていたようで、希美から尋ねられる。
剛は首を軽く振って、希美に薄らと笑みを浮かべた顔を向ける。
「大丈夫、何でもないよ。昔の事を思い返してただけだよ」
ふーん、と言った顔で納得したようなしていないような表情を浮かべた希美を余所に、剛は食事を進めるのであった。
4人が昼食を取り終わり、そろそろ席を立とうとしたそのタイミングであった。
≪対妖魔警報発令。対妖魔警報発令。妖魔出現場所は渋谷区代々木。特技科の生徒は特装具を着用、特装器所持の上、第1格技室に集合せよ。繰り返す。対妖魔警報発令……≫
アナウンスを聞いた4人は顔を見合わせると素早く立ち上がり、食器返却場所のベルトコンベアに昼食のトレーを置いてから格技棟のロッカールームに駆け出した。
(タイミングも同じと見て良い……それに特別警報ではなく警報と言う事は規模も変わらないと見て良いのか……)
素早く特装具を着用し、特装器を手に取ると剛と翔は指定された第1格技室に急ぎ向かう。
「代々木って代々木公園の方か?!」
「いや、代々木公園に出動した時は代々木神園町だったはずだ!甲州街道超えて直ぐだと思う!」
第1格技室に特技科生徒が集合して整列すると、直ぐに担当教官から説明が行われた。
妖魔出現場所はトーイチから真南に直線距離で約800mの代々木緑道で、ランクD妖魔のオーク15体程を含む約500体――前世までと全く同じ情報であった。
説明が終わると3年Aクラスを先頭に、3列縦隊を保ったまま第1格技室から屋外に出て議事堂通りを南に速歩で現地に向かう。
剛達1年Aクラスも2年Eクラスに続き代々木緑道に向かった。
現地に到着すると既に2年生、3年生が妖魔が居る場所から100m位の距離で包囲網を敷いていた。
今回の特務実習は大型・強力な妖魔は出現しておらず、討伐の難易度は低いと言う判断から1年生――特にトーフ以外からの入学生――に実戦を経験させるため、上級生は支援に回ることになった。
チームアップは5人1組で、同じクラスではなく経験者と未経験者を組み合わせるため、AクラスからEクラスまで同じ出席番号の者でチームを組む事になった。
剛はリーダーとしてチームを統率し、メンバーはBクラスの北村、Cクラスの鎌田、Eクラスの金森と……Dクラスは小金井三中時代に剣道部の主将を務めていた桐野であった。
「桐野だね。個人戦で県大会まで進んだ猛者だと名前は聞いているよ」
剛からそう言われて桐野は少し驚く。
「……4回戦止まりで猛者と言われてもな……それに、何で神野はそんな事知ってるんだ?」
まさか前世以前の記憶で知っていると言える訳も無く、ふっと軽く息と吐いて笑みを浮かべる。
「トーフに行ってなかったら俺も小金井三中だったからな。姉ちゃんは実際三中卒だし」
その言葉に桐野はほぅと息を漏らし、そう言えば剛にしても希美にしてもどこかで見掛けた気がする、と思うのであった。
フォーメーションは剛を先頭に右を北村、左を桐野、後詰と後方警戒を鎌田と金森が固めて、小型妖魔の群れに駆けて行く。
「桐野!金森!感触の違いに気を取られるなよ!竹刀で面を打つのとは全く異なるからな!」
Bクラスの北村は勿論、Cクラスの鎌田もトーフ組であり、多少なりとも妖魔を討伐した経験があった。対する桐野と金森は外部組であり、当然妖魔討伐など経験した事は無く、剛はかつての経験から最初の頃の感触の不快感に注意するように声を掛ける。
(ここは……桐野達に戦い方を見せるために、特技は控えておくか……)
剛はコボルドの集団の前に躍り出ると、ハルバード型の特装器を鋭く3回突き出してあっという間に塵と化す。
「北村さん、スイッチだ」
そう言うと剛は右後方に立つ槍使いの北村に前を譲るように、左に体を寄せて入れ替わる。
「次、鎌田前に出ろ。桐野は左、金森は右の回り込むゴブリンを討て。北村さんは金森の援護を」
剛は次々と指示を出し、夫々に妖魔と対峙する状況を作り出す。
「くっ……成程……」
桐野が声を上げる。剛はゴブリンを1体倒したのだろうと想像し、実際に桐野はゴブリンを倒し、剛が言っていた感触の違いと言うのを実感していた、
「うぇっ!」
今度は金森の声が上がる。直剣使いの金森はゴブリンを突き刺したのか、その鈍い感触に戸惑ったのだろう。
剛としては500体程度の、しかもオークまでしかいない妖魔の集団であれば一人でも殲滅する事が可能であったが、敢えて危険な状況以外は手を出さずに4人に戦闘経験を積ませる事を優先したのであった。
「よし、この辺で終わりにしよう」
剛が声を掛けた時にはチームメンバーは最低3体妖魔を討伐しており、桐野に至っては最初の不快感を乗り越えたかゴブリン・コボルド合わせて8体を切り伏せていた。
(この分なら桐野は3年生になればAクラス入りも期待できるな……3年生まで無事ならだが……)
そんな剛の思惑とは別に桐野は桐野で思うところがあった。
(神野……こいつの体捌きといい得物の持ち方といい、どれだけ修羅場潜って来たんだ……こいつには一生勝てる気がしない……)
そんな思いが交錯する中、今回の特務実習で臨時でチームアップした剛達5人は集合場所に向かって行くのであった。
剛が集合場所に戻ってくると、既に希美と奈緒が戻って来ており、翔もほどなくして合流する。
「いつもとは違う組合せでの特務実習だったけどどうだった?」
そう問い掛けると、翔は元々支援系のタイプなのでBクラス以下の生徒を前面に押し出し、希美は敢えて本気を出さずに剛と同じような感じで危ない所だけを手当していた。
「あたしはもぉ、妖魔をどっかーーん!どっかーーん!っと!」
「迷惑でしかねぇわっ!」
例の如く奈緒は翔にチョップを喰らう。
「かーけるんるーーん!チョップされまくってあたしがバカになったらどー責任とんのよーーー!」
「とっくにバカじゃねかよ!元々の責任なんて親に取って貰え!!」
(相変わらずで安心するよ……)
苦笑いを浮かべながら剛が希美に視線を向けると、同じように苦笑していた希美は視線に気付いて剛に向かって軽く首を傾ける。
「ほら、いつまでも夫婦漫才やってないで整列するぞ。トーイチに戻る準備しないと」
「コイツと夫婦……剛ちゃん、止めてくれよ……」
「え~~~っ!あたしはもっと優しい旦那様欲しいよ~~~」
整列し、トーイチに戻る中で剛は思考を巡らせていた。
(今回は前世までと同じ日、同じ場所に、同じ規模の妖魔が出現した……順当に行くと次は6月の戸山公園だが、本当にそうなるのか……)
誰も知り得ない未来――剛と言う存在によって少しずつ前世までとは変化を見せる現世の世界に、剛は不安と戸惑いを感じるのであった……
第105話 『No More Time Machine』 LiSA




