第102話 The 美学
「何言ってんの?翔がアンタと希美ちゃんを二人にするために、奈緒って子を送って行ったんじゃないの」
「は?」
今日の別れ際の話をすると、恵が思いがけもしない事を言い始めて剛は困惑した。
(相変わらずだわ、この唐変木……クリスマスに二人きりになっても、どうせ手も握ってないんでしょうし……)
恵からジト目を向けられるが、剛としては何を間違えているのかすら分かっていなかった。
2027年1月1日――
4人で向かう初詣は既に3回目となり、いつも通りトーフ正門前に集合すると中央通りから新宿中央公園を経由して十二社通りに抜け、階段を昇り大鳥居を潜って十二社熊野神社の境内に入る。
既に参拝客で行列ができており、牛歩の如くゆっくりと社殿に近付き、15分程で拝殿前に辿り着いた。
4人は賽銭を投げ入れ、二礼二拍手一礼でお参りし、今年一年の無事を祈る。
(今年だ……天道を、アイツを倒して、俺と希美がその先の人生を歩めるように……)
それこそが、剛が何度も転生を繰り返している最大の目的――悲願、であった――
参拝後、希美の家に移動して雑煮やお節料理を食べている時に翔が問い掛けて来た。
「あと3か月で卒業だけど、みんなトーイチ行くんだよな?」
何をそんな当たり前の事を、と剛は思ったが、良く良く考えてみるとトーフ卒業後の進路なんてはっきりと話した事は一度も無かった。
ただ漠然と、4人ともエスカレーションしてトーイチに進学するだろう、と言う思いだった事に剛は気付かされた。
「俺は勿論トーイチ行くけど、みんなは?」
希美、翔、奈緒の3人はお互いに顔を見合わせる。
「私は勿論トーイチに進みますよ」
「剛ちゃんが行くなら仕方ねぇな」
「この3人といるのが一番面白いからねぇ~~」
三者三様に答えるが、誰一人脱落する事無くトーイチに行く事が確定した。
4月8日。トーイチ――国立東京第一高等学校の入学式の日を迎えた。
支給された新しい制服に身を包んだ剛は、これまでと同じルート――JR武蔵小金井駅から中央線快速に乗車し、荻窪駅で下車してから東京メトロ丸の内線に乗り換えて西新宿の駅を目指す。
車内には数名だが同じようにトーイチの制服を着用している人が見受けられた。中にはかつて模擬戦で対戦した先輩に当たるトーイチ生の姿も存在する。
荻窪駅から6駅の西新宿まで約10分。到着すると改札を抜け、オフィス街に向かうサラリーマン達の間を縫って西新宿の地下通路を通り、トーイチの地下に辿り着くと階段を上って昇降口に向かった。
昇降口から上がって直ぐの掲示板にクラス分けの表が掲揚されていた。当然と言えるが、剛も、希美も、翔も、奈緒もAクラスになっていた。
1年Aクラスの教室に剛が辿り着くと、剛の席の前で笑顔を浮かべて手を振る男子生徒の姿。
「桂か。予想通りとは言え同じクラスだったんだな」
剛の言葉に桂は不敵な笑みを浮かべる。
「神野くん達の技術はまだまだ盗み足りてないからね。間近で見させてもらえるのは良い刺激になるよ」
桂の言葉にふっと軽く息を吐いた剛は、ニヤッとした笑顔で応える。
「それなら放課後の模擬戦、一緒にやるか?」
その言葉に桂は苦笑いを浮かべて首を振る。
「君達人外相手にしてたら、体が幾つあっても持たないよ」
本鈴が鳴り、教室に入って来たのは担任となる男性教官――御魂衛である。
「やれやれ、こうも見知った顔ばかりだと、自己紹介も要りませんね。困ったもんです」
ニコニコと眼鏡の奥に笑顔を張り付けた御魂はそう言うと、簡単な説明を行ってから入学式が行われる第1格技室に引率を始める。
(見知った顔、か……クラス32人中27人が去年のトーフ3年Aクラスで、残り5人もBクラスだから、当然か……)
聞いた話によると、3年Aクラスで卒業した生徒のうち3人は地元――トーフには日本全国からも入学しているため――の対妖魔特設高校に進学する事を選び、2人は残念ながら成績を逆転されて1年Bクラスに配属になったと言う。
トーイチもトーフも成績順のクラス編成のため、エスカレーション組は大体同じクラスになると言うのも当然と言えよう。
入学式を含めた一連の学校行事は午前中で終了し、剛達4人は特装器を手に特装科工作室があるフロアに来ていた。
入口側の端末で入間の入室を確認し、第9工作室に向かいドアをノックをすると、中から入間の声が聞こえる。
「開いてるぞ。入って来るが良い」
相変わらずの時代掛かった入間の口調に剛は苦笑しながらドアを開ける。
「入間さんお久しぶりです」
剛が軽く頭を下げて挨拶をすると、入間は近付いて来て剛の肩をバンバン叩く。
「いよぉ、カマボコ隊の面子か。遠慮するな」
希美、翔、奈緒の3人は入間から「カマボコ隊」と呼ばれた事に軽く頭を捻っており、剛は再び苦笑する。
(確か以前……どこかの転生の時にもその呼び名で呼ばれてたな)
「で、何だ?特装器を持参したと言う事は、メンテナンスを行うと言う事で良いのか?」
いつものゲームチェアのような椅子にどかっと腰を下ろすと、入間は決まりのポーズのように胸を強調する形で腕を組む。
剛の後ろで奈緒がむぅ、と呻くが、翔が小声で余計な事するなと窘める。
「メンテナンスも勿論お願いしたいのですが、今の入間さんなら特装器を更に1ランクアップさせる事ができるんじゃないかと思いまして」
剛の言葉に入間は顎に人差し指を当てて暫しの間天を仰ぐと、自信満々の笑みを浮かべて剛に向き直り、人差し指で指差す。
「成程、今の君達ならアップグレードしても使いこなせるだろう。ただ少し時間は掛かるぞ。明日の昼まで時間を貰えるか?」
入間の言葉に剛は意を得たと頷き、メンテナンスとアップグレードを依頼するのであった。
入間が居る工作室を後にした4人は学食に向かい、昼食を取っていた。
「入間さんのアップグレードかぁ……魔改造されなきゃいいんだが」
何やら以前剛が思った事と同じような思いを翔が口にすると、それに奈緒が反応する。
「翔んるんにも彼女ができるようになったりしてね♪」
「お前じゃなきゃそれでも構わんよ」
「え~~~~っ、翔んるん、もうあたしの事愛してないの~~~?」
「最初からお前に対する愛はねぇよ」
二人の遣り取りにまた始まった、と剛と希美は苦笑しながら顔を見合わせるが、今の状況について希美が剛に話し掛ける。
「メンテンナンスとかをして頂くのはありがたいですが、特装器が使用できないと言うのは少し不安になりますね……」
希美から言われて現状を理解した剛は神妙な顔で頷く。
「確かにね……万一の際は予備の特装器があるから何とかなるだろうけど、慣れていない武器で戦うのはありがたくない、かな……」
剛が言うようにトーイチには予備の特装器――SUAD入隊が叶わなかった卒業生や、特務実習で重傷を負って特技士として続けられなくなった元生徒が残した特装器が保管されているが、当然ながら元の持ち主に合わせた造りになっているため、自分の特装器――しかも入間が製作した――と比べて使い辛いのは間違いないだろう。
「ま、こんなタイミング良く妖魔が出現するとは思えないし、そう願うしかないだろうね」
翌日――
昼休みになり、入間のメンテナンスとアップグレードが終わった頃だと思い、4人は再び特装科工作室に向かう。
昨日と同じ第9工作室に入間が居る事を確認した剛達は、工作室の前まで行きドアをノックすると、返事も無くドアが勢い良く開く。
「やあやあ、待っていたぞ少年少女!さあ入って来るが良い」
昨日に比べて白衣が撚れ気味で顔にもやつれが見えるのを見た剛は、少し呆れ気味になる。
(……これは間違いなく徹夜したな……)
第102話 『The 美学』 松浦亜弥




