第100話 思い出だけではつらすぎる
青山霊園での特務実習後、装甲輸送車でトーフに戻った剛は直ぐに実家に電話したら、姉の恵から既に対妖魔警報が発令されて剛達も特務実習に出動するだろうと連絡が来ていたらしい。
(まあ、トーニ特技科も出動だから姉ちゃんも事情は分かるか……ちょっとありがたいかな……)
そう思いながら希美と共に東京メトロ西新宿駅から地下鉄丸ノ内線に乗車した剛は、こう言う場合に希美と会話する話題が極めて少ない事に気付く。
共有できる趣味が殆ど無いのである。剛は元々アニメとかゲームとかライトノベルと言ったオタク寄りの趣味が多かったのだが、希美の隣に立つと決めてからはテレビは見てもニュースくらいで、本にしても個性や特技に関する物ばかりであった。
対する希美も往々にして変わらず、本を読むのも剣技や武術のための研鑽でしかなく、結局は模擬戦などをやっている延長線上の話にしかならなかった。
仕方無く今日の特務実習中の戦い方で気になった点の確認と言った、クリスマスイブに男女がする会話とは程遠い色気の無い会話をするのであった。
剛と希美が小金井の剛の家に到着したのは既に午後2時半を回った頃であった。
「ただいま」
剛がマンションのドアを開けて玄関に入ると、リビングの方からパタパタとスリッパの音を立てて母親の雫が顔を出す。
「あらあらまぁまぁ、遅くなったわねぇ。希美ちゃんいらっしゃい、お腹空いてるでしょうから早く上がって上がって」
雫の言葉が殆ど想像した通りであった希美はクスっと笑い、笑顔で反応する。
「こんにちは、ご無沙汰してました。今年もお邪魔します」
剛と希美がリビングに入ると、特装科なので特務実習には直接の関係がなく帰宅していた恵がテレビの前の炬燵に入って年末特番を見ていた。
「あ、希美ちゃんいらっしゃい。こんな日に特務実習大変だったわね、お疲れ様」
「恵さんお久しぶりです。お邪魔しています」
恵に声を掛けられた希美はお辞儀してその言葉に応える。
「姉ちゃん、特務実習の件ウチに連絡してくれててありがとう」
剛が礼を言うと恵は返事とばかりに手をひらひらと振って、希美を炬燵に誘った。
その様子を見た剛は自室に戻ってカバンを置くと、今日は希美も制服だし、と着替えずにそのままリビングに戻って希美と一緒に遅い昼食を取り始める。
昼食はメインがキンメダイの煮付けで、白米になめこの味噌汁、さやいんげんの胡麻和えと和食テイストであった。
食事をしながらこの後の予定を剛がどうしようかと考えていると、希美の方から提案してきた。
「小金井公園に行ってみませんか?8月の特務実習の後どれくらい復旧できているか見てみたいの」
希美から言われて剛は成程、と思った。確かに今年8月の三校合同夏季特別講習の日に発生した特務実習以来、小金井公園に足を運んでいなかった事に気付く。
「そうだな……どうなっているか、時間潰しがてら見に行ってみようか」
剛と希美は昼食後に軽く落ち着く時間を取った後、小金井公園へ向かう。
流石に去年、翔にバッタリ出くわした事もあってか希美が腕を組んでくる事はなく、二人並んで話しながら徒歩で北上し、10分程で西口に到着した。
8月の特務実習では東側の広場にヘリコプターで降り立ち、西側に進んできた経緯があるため、東側より西側の方が到着が遅れて被害が大きかった記憶がある。
だが今見てみると、妖魔の出現が嘘であったかのように木々は立ち並び、地面の芝生も植え替えた際の継ぎ目はまだ分かるものの全面に植えられており、4か月前に2,000を超える妖魔が出現したとは思えない状況であった。
「確か……公園復旧に関して専門部署があるとか、そう言う話だったよな……」
剛は以前に――最初にトーイチ入学した人生で、希美から言われた言葉を思い返していた。
「うん、私も詳しくは知らないけど、確か国土交通省の部署で復旧を請け負っているって聞いた事があるわ」
希美が剛を横目で見ながら頷く。小学校の社会科の授業だっただろうか、そう言う話を学習の一環として妖魔やSUADの歴史と共に教わった記憶がある。
二人は見事に復旧されている園内を眺めながら、江戸東京たてもの園へと歩を進めていった。
「……営業再開してるんだな……」
木の柵で囲われた施設は階段を数段上がると入口となっており、中央の自動ドアから人が出入りしている様子が確認できた。
特務実習直後は窓ガラスは全て割られて壁や柱も何か所も壊されており、手前の柵に至ってはその原形を留めていなかった。
剛はこうやって、二人で来た場所が破壊の限りから元通りの姿を見せてくれている事に人の営みの力強さを感じると共に、想い出の場所が残っていてくれていると言う事実に頬を緩ませる。
隣に並んで立つ希美に視線を送ると希美も穏やかに微笑んでおり、剛からの視線に気付くと微笑んだまま剛に視線を送り返す。
剛の頷きに希美も頷き返し、自然と手を繋ぎ合わせるのであった……
剛と希美はその後も園内を巡り、12月の早い日没を迎えた後も街灯を頼りに復旧状況を見て回り、剛の住むマンションに戻ったのは夕方5時半過ぎになっていた。
その後二人は特に何かをするでもなく、リビングの炬燵に入って何気なくテレビの年末特番を眺めていると途中でニュースの時間となり、今日の特務実習で出動した青山霊園での妖魔出現について報じられているのを目にする。
報道の内容はトーイチおよびトーニの特技科生徒の出動によりほぼ討伐され、SUAD東部方面隊の部隊により鎮圧。死者3名、重軽傷者16名と言うものであった。
(トーフ生が最前線で戦っている、と言うのは流石に大っぴらにはできないか……)
「そう言えば夏にあった小金井公園の特務実習、アレの影響見に行ったんだと思うけど、どう言う風に報道されたか知ってる?」
同じく炬燵に入り込んでミカンを食べている恵が剛と希美に質問を投げ掛ける。
思い返せば剛は最近そう言ったニュースをスマホなどで見る事も滅多になかった。放課後は模擬戦に明け暮れていて、帰宅後は夕飯後に入浴して宿題があれば終わらせて、日課の素振りや型稽古を行うともう寝る時間になる。
前世までであれば中学は小金井三中に通っていて模擬戦をやる事もなかったから、スマホやテレビでニュースを見る機会もあったのだが、今回の転生ではトーフに通う通学時間などもあり、そう言った余裕がなかったと言える。
「いや、俺は見てないから知らないけど……希美は分かる?」
話を振られた希美も知らないようで首を横に振る。
「私もテレビとか殆ど見ないので……恵さん、どう言う報道内容だったんですか?」
尋ねられた恵はアンダーリムの眼鏡のブリッジを指で押し上げて、剛と希美の顔を剛後に見た後口を開いた。
「SUADの空挺部隊がヘリで急行して妖魔討伐を行った、って報道内容だけど……信じられる?」
信じられる?と恵から聞かれたが、その意図が分からない剛と希美は不思議顔でお互いを見合わせる。
「信じられる?って……どう言う事?」
剛から質問返しされた恵は少し呆れ顔で肩を竦める。
「近所の事だし何か違和感あったから調べたんだけど、陸自じゃなくてSUADでしょ?空挺部隊はまだ存在していないのよ」
「えっ?」
恵の答えに剛は驚き、希美に視線を送るが希美もきょとんとした顔で首を振るだけだった。
「確かにヘリが1機飛んで来てたってのは三中時代の友達に聞いたけど、何人乗れるの?多くて10人くらいでしょ?……それで妖魔の大半を討伐って、何かおかしくない?」
その言葉に剛は眉根を寄せて再び希美の顔を見ると、希美も神妙な顔で剛を見詰め返して来た。
((本当の事は口にしちゃダメだ……))
第100話 『思い出だけではつらすぎる』 柴咲コウ




