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愛が世界を救うゲームに、クラスメートと召喚されました  作者: こいむら咲


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4/4

既視感

「おや、聖騎士様と聖女様、こりゃ見違えたね」


 食堂ではおかみさんが出迎えてくれた。チカと京介が朝食を食べていると、奥の方から昨夜の少年がやってきた。


「おはよう、聖女様、聖騎士様」

「おはよう。部屋を替わってくれて、ありがとう。ちゃんと眠れた?」

「うん、全然大丈夫だったよ!」


 少年は元気良く答えた。本当によく眠れたようだ。


「あのね、聖女様に魔除けのお守りをあげる。昨日、花祭で買ってきたんだ」


 少年は持っていたポシェットから、紫と白の花が入った透明な石を差し出す。


「ありがとう。きれいな石…この花、そのポシェットの柄と同じね」

「そうだよ。この花は魔物が嫌う花なんだ。このポシェットの花はお母さんが刺繍したんだよ」

「お母さんの手作りなの?すごい上手ね」

「でしょう!お母さんの刺繍は魔除けになるって大人気なんだよ。わざわざ遠くからお願いに来る人もいるんだから」


 少年がポシェットを自慢げに見せてくれる。繊細な刺繍が一面に施されており、お世辞ではなく本当にクオリティが高い。右下に文字が入れられている。


「カ・イ・ネ…カイネくんっていうのね」

「ううん。カイネはお兄ちゃんの名前。僕はスイネだよ。このポシェット、前はお兄ちゃんのだったんだ」


 スイネ少年の視線の先を見れば、昨夜スイネと一緒にいた母親の他に、父親らしき男と戦士の格好をした青年がテーブルを囲んでいる。この青年がカイネというのだろう。年の離れた兄弟のようだ。


 ん?カイネとスイネ?


 チカは何かが記憶にひっかかる。


「僕も子どもの頃は兄貴のお下がりをよく使ってたなぁ」


 黙ってしまったチカに代わり、京介がスイネに話しかける。


「お兄ちゃんがもう必要ないって言うから、僕がもらったんだ。お兄ちゃんは戦えるけど、僕はまだ無理だから…」

「スイネ、そろそろ出発よ」


 母親がスイネを呼びにきた。父親とカイネというらしい青年は食堂の入口付近で宿の主人と話している。


「まぁ、そんなものを騎士様にお見せしていたの。お恥ずかしい」

「とても素敵な刺繍ですね。魔除けの効果があるとか」

「ほんの少しですけど、刺繍に加護を込めることができるんです。でも、魔物を寄せ付けないほどの効果はありません。聖騎士様にお見せできるものでは…あら、もう行かなくては。スイネ、行きますよ」


 宿の主人との話を終えた父親が二人を呼んでいる。


「バイバイ、聖女様、聖騎士様。魔王退治、頑張ってね!」

「おう」

「お守りありがとう」


 スイネは京介とチカに手を振りながら母親を追いかける。食堂を出ていく彼らの会話が少し聞こえた。


「今日も列車は運休らしい。魔物に壊された線路の復旧の目処はついていないようだ」

「そうなの…最近多いわね…」

「迂回の列車の切符は明日の分まで売り切れ。どうする?明後日までここに留まる?」

「そういう訳にはいかないわ。明日には帰って、カロリーヌ様の結婚式の刺繍を仕上げないと…」

「じゃあ、列車が動いている3駅先まで歩いていくか」


 結婚式。刺繍。カイネとスイネ。


「思い出した!」

「ん?」

「あの兄弟、というか、お兄さんの方ね。カイネが出てくるイベントがあるの」

「あぁ、彼はモブじゃなかったんだ。どんなイベントなの?」

「少し先にあるパルネルトという町で、カイネと一緒に魔物の大群と戦うの」


 パルネルトを訪れた聖女と聖騎士は、領主の娘カロリーヌの結婚式に招待される。このとき、カイネは母親が作ったカロリーヌのウエディングベールを届けに来ているのだ。花があしらわれ繊細な刺繍が施されたそのベールは魔物を寄せ付けない効果があると評判で、カロリーヌが是非にと所望したものだったが、カロリーヌの結婚式では逆に魔物を引き寄せてしまう。攻め込んできた魔物の大群と戦う中で怪我を負ったカイネを聖女が治癒する際に、ベールの制作過程でカイネの弟のスイネが魔物に殺されてしまったこと、それを嘆き悲しむ母親の思いがベールに負の効果を持たせてしまったことが判明する。聖女と聖騎士は魔物に連れ去られたカロリーヌを探し出し、ベールを覆っていた悲しみを浄化して町に平和が戻るのだった。


「じゃあ、スイネ君はもうすぐ殺されてしまうってこと?」

「そう、ベールに飾る花を買いに行った帰りに一家は魔物に襲われて、スイネは殺されてしまうらしいのよ…って、それ、今じゃない!?」


 チカと京介は慌てて一家を追いかける。村を出てすぐに悲鳴が聞こえた。急いで駆けつけると、一家がドラゴンに襲われていた。父親は怪我をしているらしく、スイネと母親の傍らで横になっている。カイネが一人でドラゴンに対峙しているが、かなり押されている。


「何、あれ!?今までのと明らかにレベルが違うでしょ」


 ドラゴンが火を噴く。カイネは盾で炎を防ぐが、力負けしてよろめいている。


「うわぁ…勝てる気がしない」


 京介は引き気味に呟くと、チカの手をそっととる。


「片瀬さん、ちょっと力を貸してね」


 京介がチカを抱きしめる。レベル上げのためだと分かっているが、相変わらず慣れないチカは身を固くしてしまう。チカは息を潜めて京介が離れるのを待つが、京介はなかなか腕の力を弱めない。いつまでこうしているのだろうとそっと京介の様子を伺ったとき、京介が震えているのに気づいた。


 それはそうよね…鈴木くんだって怖いよね…


 京介を安心させたくて、チカがそっと腕を京介の背中に回すと、びっくりしたように京介の身がこわばる。チカを抱きしめる力が一層強くなったかと思うと、京介はすっと身を離した。


「よし、じゃあ行ってくるよ」


 京介はいつもの爽やかな笑顔でそう言ったが、チカはその手がまだ微かに震えているのに気づいた。


 この人は、本当は怖いのに、そんな素振りを見せずに私の前に立ってくれる。きっと昨日もそうだったんだろう…


 魔物に向かって行く京介の後ろ姿に、チカは初恋の男の子を思い出す。奇しくもあの子の名前も鈴木で、皆にすずくんと呼ばれていた。

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