第6話 異世界の事
「「ピンポーン」」
インターフォンが鳴った。
宅配は昨日来たから、あみかな。
もうすぐ夏休みが終わるから、宿題を心配してきてくれたのだろうか。
頑張って昨日終わりにしたので、大丈夫なのだが。
玄関ドアを開けると、予想通りあみが立っていた。
「どうした?宿題の事か?」
「それもあるけど…昨日、スーパーに居なかった?」
見られていたのは、あみだったか。
クラスの連中じゃなくてホッとしたが、あみは変な顔をしているな。
顔をしかめて、何か言いたげな…雰囲気。
「隣に居た女性は…誰?」
そうきたか。
「イギリスから来たカモミールだ。観光で日本に来たんだと」
「それにしては親し気だったけど…まるで恋人みたいな」
「恋人?本人に失礼じゃないか」
あみは明らかにホッとしていた。
さっきから、緊張した面持ちだったから何だったのだろう。
「恋人じゃないんだ。良かった」
「事情があって同居している。しばらく一緒に暮らすつもりだ」
「「え?」」
カモミールがひょっこり顔を出した。
あみの顔が青くなってる。
今日はコロコロと表情が変わるな。
情緒不安定なのだろうか?
「あの…一緒に暮らす?恋人じゃないのに?何で同棲?」
「同棲って何言ってんだ?恋愛マンガの読み過ぎじゃないのか?」
「あの…心配するような関係じゃない。ユウヤの家に居座ったのは私だから」
確かにそうなのだが、今言う事か?
そうすると、カモミールの細かい事情も話さないといけなくなる。
「日本語お上手ですね」
「これは、翻訳の魔法を使って…」
「「わーーーっ!」」
「魔法?」
「私、異世界から転移してきたエルフなんです」
「エルフ?葬〇の…」
「それ作品違うから…あみ、とにかく家に上がれよ。話が長くなりそうだ」
「おじゃましまーす。家にあがったの久しぶりだね」
「何言ってんだ。先週来ただろ」
「裕也、そういえば夏休みの宿題終わった?」
「昨日終わらせた…」
「いいなあ」
あみはいつも通りの口調に戻った。
さっきのは何だったんだ一体?
あみは、テレビの前のソファにどっかりと腰を落としている。
テレビをつけて、テーブル上のお菓子を袋から勝手に開けて頬張っていた。
「俺のお芋スナッ〇全部食べるなよ?」
「知らないー」
サツマイモ味のポテチに手を伸ばすあみ。
俺は、秋限定の甘くてしょっぱい味が好きだ。
「ねえねえ、エルフって魔法使えたりするの?異世界ってどんな所?」
あみも俺と同じでアニメが好きだ。
もっとも、少女漫画がメインらしいがな。
俺の趣味に興味を持つ数少ない友人だ。
「俺のコミケの話はいいのか?」
「それは後で聞くわ。それより、カモミールさんの話が訊きたい」
「どんなって…訊いても面白くないぞ?」
「「へえーーー!凄い!」」
「ほら、面白くないだろ?」
「冒険者や魔法使い、賢者とかゲームみたいだね」
「本当に魔法ってあるんだな」
カモミールから聞いた異世界は、アニメやマンガと同じものだった。
想像の産物だから、現実にはあり得ないと思っていたのだが。
本当にあるんだ。
「行ってみたいな。異世界」
「行けるものならな」
「そんなに良いものじゃないぞ。聞いていると、こちらの世界の方が安全で、快適なような気がするのだが」
「だって、勉強しなくて済むんだよ?異世界一択でしょ」
「大学行かなくていいしな。就職もしなくて良いし」
「冒険者は楽じゃないぞ。いつも死と隣り合わせだ。魔法は皆が使えるようになるわけじゃ無いし、スキルが無い人もいる…まあ、例外もいるがね」
カモミールが遠い目をしていた。
過去の事を思い出しているのだろうか?




