第5話 隣の女性
駅前のスーパーに来た。
視線が銀髪のカモミールに注がれている。
今時、外国人って珍しくないよな?
それだけ美人ってことか。
あみいわく、このスーパーは値段が高いらしい。
車を運転できるわけもないので、安いスーパーまで買いに行く事も出来ない。
あみのお父さんは車を持っていて運転できる。
俺も早く免許取りたい。
駅前なので、電車で移動できるのだが。
車が無いと、群馬は何かと不便なのだ。
「ユウヤ、人が多いな」
「あ、ああ」
カモミールは、人が多くて驚いているみたいだ。
ブランドバックを下げた婦人。
高級スーツを着た男性。
家族連れももちろんいる。
「野菜は…高くなったな。米はあるから…肉を入れてと、っと醤油が切れていたんだっけ」
カートを押して買い物かごに入れていく。
キョロキョロと周囲を見るカモミール。
全てが珍しいものなのだろう。
今の時代ネットで買い物が出来るが、新鮮なものはスーパーに限る。
果物なんて買えないしな。
「りんごか。もうそんな季節になったか」
一人だと、果物なんて食わないからな。
買っていくか。
少し離れた所で俺を見ている視線があった。
買い物に夢中だった俺は、全く気が付かなかった。
*** 中嶋あみ視線
「隣の女性は誰?」
「あみ、どうしたの?行くわよ」
わたしは、母親と一緒に食材を買いに来ていた。
このスーパーは近いけど、高いのであまり来ない場所だ。
隣家の少年が来ることはあるだろう。
ただし、一人で。
ご両親が亡くなった頃はお弁当ばかり買っていたが、最近は自炊をしているらしい。
彼の隣には、背が高くてスラッとしている白人女性がいた。
遠目から見てもキレイな人だ。
わたしに勝ち目はない。
もやっとしたものが胸を覆った。
わたしは、彼に告白できずにずっといたから。
「もう…遅いのかな」
今までチャンスは沢山あった。
ただわたしに勇気がなかっただけ。
この関係を壊すのが怖いから。
振られれば、気まずくなってしまう。
幼馴染として仲良くしてくれているのに、避けられたら堪らない。
それも耐えられない。
「ねえ、お母さん。裕也の事どう思う」
「なあにいきなり。何かあったの?」
「何でもない…」
「そう?しっかりしていていい子ねえ。ただ、まだちょっと心配よね。まだ歳が若いし」
裕也のご両親は、三年前事故で亡くなった。
一人っ子だったから、誰にも本音を言えずに泣いていたのだろう。
葬式では何も話さなかった。
裕也の親戚の人が喪主をしたらしい。
お父さんの弟だって言ってたっけ。
一緒に暮らさないかって言われたらしいけど、あの家で一人で暮らすと決めたみたい。
それから彼はずっと一人だ。
「かあさんは、お婿さんに来てくれると嬉しいな」
「なっ!いきなり何言ってんの!?」
話しが飛躍し過ぎよ。
「好きなんでしょ?彼の事」
「そんな事無い」
いつからバレてるの?
「素直になりなさいな。そういう事は、本人に直接言わないと伝わらないものよ」
好きよ。
彼の隣に女性がいるだけで、嫉妬してしまうくらいに。
告白しなかったことを、今更だけど後悔しているわ。
*** カモミール・ルムフェ視点
「視線を感じる…」
「カモミールは美人だからな。男どもが放っておかないだろうよ」
うーん。
何だか違う気がするのだけど。
多分女性の視線。
嫉妬みたいな感じ?
私ではなく、ユウヤなのでは?
ユウヤの知り合いがここに居るのかもしれない。
「ユウヤの友達が来ているのかもね」
「げっ!その可能性を考えていなかった。クラスの男どもにやっかまれるのは勘弁してほしい」
異世界では魔物との闘いやらあって、視線には慣れている。
ていうか、敏感じゃないと生き残れない。
さっきのは殺意じゃなかったけど。
冒険者同士でも殺し合いになったりするしね。
この粘っこい視線は、女性特有の気がするのだけど。
恋愛には疎い私でも分かる。
ユウヤを好きな人の視線では?
私はそんな対象では無いのだけどな。
とはいっても、見ている相手には通じないとは思うけど。




